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2010-10-27up
B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」
【第23回】
それでも消費増税は必要なのか
消費税が10%になると自殺者が増える――。ジャーナリスト・斎藤貴男さんの講演を聞いて、そんな見立てに虚を突かれた。
デフレ不況の時代。消費税が上がっても、例えば大手スーパーは売り上げを減らさないために「増税分は価格に転嫁しません」とPRするだろう。では、5%の増税分は誰が負担するのか? 答えは、商品を納める中小・零細業者である。
増税分の「値引き」をのまなければ、仕事をよそに取られるだけ。でも、値引きをのめば、採算が合わなくなる。どっちにしても中小・零細業者はやっていけなくなり、廃業。失業者も増え、そして……という次第だ。
流通業だけではないだろう。リーマン・ショック以降、町工場を取材する機会が何度かあった。経営者たちは「仕事の量が激減して、もらえるだけありがたい状態。価格は発注元の言いなりになるしかない」とこぼしていた。疲弊から立ち直るには、まだまだ時間がかかる。そこへ消費増税分の「値引き」を求められたら、中小・零細業者にとって壊滅的なパンチになりかねないのは確かだ。
斎藤さんの話には、新聞ではお目にかかれない内容がほかにもあった。「仕入れ税額控除」という仕組みによって、正社員を派遣社員に切り替えると消費税を節税できること。「輸出戻し税」という仕組みによって消費税収全体の4割もが還付されており、自動車・電機メーカーなど輸出の多い大企業が受け取っていること。さらに、消費税の新規滞納は年間4千億円を超え、国税の新規滞納額の半分近くを占めること。
斎藤さんは「消費税は結局、社会的な強者が弱者からむしり取るための税。社会保障の財源として、最もふさわしくない」と指摘。「消費税を上げようとする背景には、中小企業がつぶれて市場から撤退した方が生産性が上がり、国のためには望ましいという考えがある」と分析していた(詳しくは『消費税のカラクリ』斎藤貴男/講談社現代新書)。
相前後して、民主党が発足させた「税と社会保障の抜本改革調査会」とやらの会長を務める藤井裕久・元財務相のインタビューが朝日新聞(10月14日付朝刊)に載っていた。「総選挙後『消費増税を』」との見出しが躍る。「高齢化にともなって増える医療、介護、福祉はオールジャパンで支える必要がある」「増税分は高齢者の社会保障に使う『目的税』とする」等々。そこだけ読めば、納得させられてしまいそうだ。
でもね、マスコミの消費増税論議は、いつもこの調子だ。菅首相に財務省、民主党・自民党の増税必要論を、もっともらしく一方的に垂れ流すだけ(そもそも藤井さんって大蔵省の役人出身でしょ。いったん政界引退を表明したのに、いつの間に蘇っていたのか)。斎藤さんが指摘するような、消費税や増税のマイナス面については、記事で触れようとさえしない。それでいて「消費税上げ、賛成46%、反対44%」(日経新聞・9月16日付朝刊)なんて世論調査の結果だけを、これ見よがしに流したりする。ずるいこと、この上ない。
消費増税の代替策の一つとして、斎藤さんは高所得者の所得税率の引き上げを挙げている。例えば、年間所得8000万円超の税率は、30年前の75%から、今は40%まで下げられているという。経済アナリストの森永卓郎さんも、先日の「マガ9学校」で、「日銀の資金供給をアメリカのように2倍に増やせば、デフレは止まり、税収は増える」と消費増税不要論を展開していた。
少し前の記事になるが、朝日新聞の世論調査によると、消費税の増税には「賛成」35%、「反対」54%だが、「議論を進めた方がよい」は63%だそうだ(7月14日付朝刊)。同紙は「有権者が納得のいく丁寧な議論を進めれば、消費増税に再び賛成が増える余地が残されている」なんて菅首相や財務省を応援する解釈を載せていた。間違いではないんだろうけど、ちょっとズレていると思う。斎藤さんや森永さんの主張が正しいかどうかは別にしても、国民はもっともっと、さまざまな角度から、いろんな情報が欲しいのだ。そうみないと、増税に反対の人が、議論はしてもよいと答えていることの説明がつかない。
首相、民主・自民両党に財界、さらにマスコミまでが一体となって消費税を上げようと躍起になっている現況を、私は「消費増税ファッショ」と懸念している。消費増税が不可避なのだとしても、十分な情報が提供され、十分に議論がなされることが、実施の最低条件だ。こんな当たり前のことさえ無視して、増税へと邁進するマスコミ。しっぺ返しは必ず来る。
消費税増税が中小・零細業者を直撃するという指摘、
とても納得がいきます。
誰のための、何のための「増税」なのか。
「財政難だからしょうがない」とイメージに流される前に、
もっと情報公開と議論が必要では?
どん・わんたろうさんプロフィール
どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。
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