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2010-10-13up
B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」
【第21回】
新聞協会賞って、そんなに偉いの?
自慢話をする輩が嫌われるのは、どこの世界でも同じだろう。いわんや「中立・公正」を謳うメディアの自慢話をや。
朝日新聞の「検事による押収資料改ざん事件報道」が、日本新聞協会賞(編集部門)に追加で決まった。協会賞は9月1日に発表されているのだが、授賞式がある10月15日の新聞大会までに報じられたスクープは、その後でも申請できるのだそうだ。確かに、あの記事で現職検事が逮捕・起訴され、さらに当時の特捜部長にまで嫌疑が及ぶという前代未聞の事態に発展したのだから、称賛に値することは確かだろう。
しかし、自らの受賞決定を伝える10月7日付の朝日新聞朝刊を見て唖然とした。1面に3段見出しで「本社に新聞協会賞」。ノーベル賞の日本人受賞で1面が埋まる中、それ以外の記事はこれ1本だけ。ノーベル賞がなければ、おそらくもっと派手な見栄えになっていたんだろう。
この日の政治面を覗くと、強制起訴決定を受けて「小沢氏、離党・辞職を否定」という記事が載っている。「世論調査で菅内閣の支持率が大幅ダウン」なんて記事も。新聞協会賞を自分の会社が取ったことなんかより、こっちが1面でしょう、どう考えたって。おまけに、第3社会面で取材に当たった記者の感想文が、これまたノーベル賞に匹敵せんばかりの大きな扱いだ。
9月1日に新聞協会賞に決まった読売新聞も、たぶんに自慢臭が漂い、2日付朝刊に特集ページまで設けていた。でも、朝日の第3社会面(記事のページ)とは違い、注意して見ないと気づかないページだし、1面の本記は2段見出しで3番手の扱いと、それなりに抑制は利かせている。ちなみに、同日付の朝日の記事は、その時点では自社が受賞できなかった八つ当たりからか、第2社会面のベタ記事という冷たさ。追加受賞でのはしゃぎぶりがよく分かる。
新聞協会賞って、そんなに偉いのか? しょせんは業界の内輪の表彰じゃん。外部の人たちだけで選ぶならまだしも、各新聞社の代表が集まって決めるんでしょ。新聞業界の「価値基準」が世間のそれをリードしているなんて、もはや遠い昔の話なのに、その現実にしっかり向き合えず、いまだに過去の遺産にすがりついている図式である。こりゃ喜劇だな。
それに、あの記事は読者をはじめ各方面で十分に評価されているのに、わざわざ自分で「すごい」と自慢する厚顔無恥さ。読者からの褒め言葉よりも新聞協会賞という「権威」を喜ぶなんて、結局、「どこを見て新聞をつくっているの?」ということなんだよね。民主党代表選以来の菅首相への朝日の親密なスタンスも、同じ軌跡にあるんだなと妙に納得してしまった。
知り合いの同紙記者は「やりすぎだよ」と苦々しげだ。広告収入が激減し、発行部数も漸減傾向にある中、「上の方の焦りが、こういうところに滲み出ちゃうんだよな」と語っていた。「『自分の記事は賞なんかで評価されるんじゃない』っていうジャーナリストとしての矜持が、社内で感じられなくなっている。まずいとは分かっていても、申し訳ないけど自分の力では如何ともしがたい」とも。
ところで、厚生労働省の局長が無罪になったこの事件、朝日新聞は客観的な検証や反省をしたのだろうか。すでに多くの問題提起がなされているので深くは触れないが、「逮捕」や「国会議員の関与」で大騒ぎしておきながら、「無罪」になったらそんなことは忘れて、また大騒ぎするって姿勢には、やっぱり共感できない。無罪判決が出た9月11日付紙面で自社報道の検証記事を載せてはいたが、「自分たちは出来ることはやった」という言い訳と自慢に終始し、反省の色はほとんど感じられなかった。
そもそも、この事件の情報を大阪地検に持ち込んだのは、どこかの新聞社だと言われているらしい。国会議員につながる事件になるから、という触れ込みだったようだ。私が事件取材をしていた時の拙い経験では、マスコミが捜査機関に持ち込んだ情報が生かされそうな時には、捜査機関は提供元の社にネタでお返しする、との暗黙のルールがあった。そして、その社は捜査情報の特ダネを大きく伝える。もたれ合いの関係である。今回、もろもろの情報の提供元が朝日新聞でないことを祈るばかりだ。
新聞協会賞の記事を見て、こんな我田引水の報道をしていたら発行部数は減るだろうな、とつくづく思う。あなた方が考えているほど、読者はバカじゃないですよ。いくら「新聞協会賞を取りました」ってPRしたって、それだけでその新聞を取る読者はいません。日ごろの記事のスタンスが見られているのです。私のまわりでは、良識あると感じる人ほど「朝日離れ」していることを付け加えておきます。
受賞が記者にとって励みになるのは事実なのでしょうが、
度を越した「自画自賛」は誰のため? とも思いたくなります。
たしかに、それで購読する読者がいるとも思えない!
皆さんは、どう感じましたか?
どん・わんたろうさんプロフィール
どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。
B級記者どん・わんたろうが
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