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2010-08-11up
B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」
【第13回】
監視カメラと、抑止力と
「監視カメラ」「防犯カメラ」と聞いても、とくに何も感じない人が増えているのではないか。身近に浸透した、ということなのだろうか。感覚が麻痺してきた、ということなのだろうか。
警視庁によると、防犯カメラはコンビニや交通機関を含め、東京都内だけで約8万台(08年)に上り、新宿や渋谷などの繁華街には150台あるそうだ(3月12日付・毎日新聞夕刊)。全国で初めて条例で防犯カメラを届け出制にした杉並区には、官民で約1700台も設置されている。
もはや、どこでどう撮られているか予想がつかない。だから私には、素直に受け入れることができない。だって、知らないうちに、自分の行動を記録されているんだよ。やましいところはないにしたって、画像が別の目的に流用されない保障はない。しかも、それだけの数の監視カメラがネットワーク化されれば、その日の行動が逐一、掌握されてしまうだろう。
漠然と抱いていた危機感が、7月末に東京の3弁護士会と日本弁護士連合会が開いたシンポジウムを覗いて、くっきりと強くなった。
東京弁護士会が都内の49の区・市にアンケート調査したところ、自治体の管内に設置される防犯カメラについて、7月の時点で何の対応もしていない区・市が4分の1の12あった。設置状況を把握していない自治体はもっと多くて、14だった。
日本には監視カメラの設置を規制する法律がないと聞き、今さらながら驚いた。プライバシーを保護するには、各自治体が条例で設置や運用のルールを定める必要があるが、都内では4区・市でしか制定されていない。さらに深刻なことに、自治体が管理しているカメラの画像を、警察に提供する際の基準を設けていない区・市が10もあった。
そもそも、監視カメラは犯罪防止につながるのか。
講師の1人、浜井浩一・龍谷大法科大学院教授(犯罪学)は、監視カメラの効果を実証的に分析した国際プロジェクトの結果を説明した。他の条件が同じになるようにしてカメラを設置する場所としない場所をつくり、犯罪の発生量の変化を比較すると、駐車場での車上狙いなどの防止にはある程度の効果が認められたものの、路上や公共交通機関では効果がほとんど確かめられなかったそうだ。
技術が進歩してカメラの精度が格段に上がっていることも、不安を増幅させる。前出の毎日新聞によると、天井に設置してレジまでの距離が2〜3メートルの場合、紙幣の番号まではっきり見えるという。大量の映像から、特定の人物が映った画像を選べるようにもなってきているらしい。
監視カメラがダメなら代案を示せ、と言われそうだが、浜井さんは街灯を明るくすることを提唱していた。プライバシーの侵害、予算がかさむといった監視カメラの「副作用」を防ぎ、しかもエコである点を強調。明るくなって人通りが増えることで、街が活気づき、窃盗などの犯罪が減る、という循環を指摘した。すぐにでも実施すべき方法である。
監視カメラは、米軍基地や死刑制度に通じると思う。いずれも「抑止力」が錦の御旗とされている。そういえば、広島原爆の日に「核抑止力は必要」と発言した総理大臣もいた。
私たちは「抑止力」という言葉に弱い。裏付けとなる具体的なデータがなくても、なんだか不安になって、妙に納得させられてしまう心理……。浜井さんは著書『2円で刑務所、5億で執行猶予』(光文社新書)で、「犯罪に限らず、最近のマスコミが作り出す社会問題には危機感を煽るものが多い」「危機感を煽った上で、不安を共有し、怒りを表出することで視聴者の共感を得る手法である」と書く。そして、政治家にもこの手法を用いる人が少なくない、とも。
マスコミや政治家に良識が期待できない以上、受け手の我々が気をつけなければ。「抑止力」を出された時には、まずは疑ってかかるべき、と胸に刻んでおこう。
「この街は 通報する街 見てる街」。
以前、警視庁作成のポスターにあったキャッチコピーです。
「見ている」ということは、自分が「見られている」ことでもある。
「抑止」の言葉の前に、その当たり前の事実が忘れ去られているとしたら、
あまりにも怖い、と思います。
どん・わんたろうさんプロフィール
どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。
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