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2010-05-26up
B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」
【第3回】
子ども手当が格差を広げる
子ども手当の申請書は、すぐ記入して役所に送った。「だって、もらえるものはもらわないと」。照れ笑いは、少し複雑な気持ちを隠すためのように見えた。
DVなどが原因で十数年前に離婚し、5人の子どもを育ててきた、知り合いの女性の話である。
養育費の送金はやがて途絶える。やむにやまれぬ思いで生活保護の相談をした役所には、「働けるでしょう」と門前払いされた。職業訓練を受けて、ある程度の時給の仕事には就けたが、派遣社員のままだ。3カ月ごとの契約満了のたびに、「次は更新されないかも」と気をもむ。
この女性の子ども手当の対象は、中学生の末っ子1人。離婚した時に制度があれば、5人全員の分を受け取れたはずだった。「『満額支給の1人2万6千円なら、毎月13万円もらえたのに』なんて、計算してみたりもする。子どもたちの人生も、ちょっと変わっていたかもしれないし…」
いま、3人の子どもと同居している。中学生のほかに、20歳前後が2人。高校に入ったらアルバイトをしているが、食費はかさむし、大学の授業料、就職活動、中学の部活動などで出費は膨らむ。中学生の勉強は、女性が見ている。塾に行かせるだけの余裕はない。
子ども手当は確かにありがたい。でも、「どうも釈然としない」と漏らす。何より「不公平さ」を感じるからだ。これまでの児童手当と違って所得制限がなく、年収がゼロでも1千万円でも、同額の支給。
「うちは生活費に回るだけ。でも、一定以上の収入がある家庭は、まるまる塾とか家庭教師とかに使えるでしょ。結局、お金持ちの子どもの学力が上がる。生活の格差が学力の格差を広げる悪循環を、助長するだけじゃないかな」
子ども手当の支給開始を機に、「ひとり親や子どもの多い世帯への支援制度を廃止・縮小したり、低所得世帯向けの学費援助を見直したりする自治体が相次いでいる」との報道もあった(5月3日付・朝日新聞朝刊)。
自公政権の定額給付金、民主党の子ども手当…。「ばらまきなら誰にでも出来ると思う」と彼女は話す。社会のためになるように、限られた税金をどう公平に配分するか決めることこそ、政治に期待される役割なのに。
最近、この女性の娘に子どもが生まれた。育児休暇を終えて職場復帰する時の保育園探しは、予想以上にたいへんだった。入園できるまで、女性も会社を休んで片道2時間以上かけ、孫の面倒を見に行ったりした。自治体によっては入園を待つ子どもがもっと多く、さらに状況が厳しいところもある、と耳にした。
子ども手当の財源は、半額支給の今年度でも2兆3千億円。「社会全体で子育てを支える」と言うのなら、巨額のばらまきをやめて、例えば保育園の整備に充てる費用を増やせないものか。
「こんなにたくさん困っている人がいるのだから、どんな立場の親でも容易に保育園に子どもを預けられる環境を整えてほしいよね」と彼女。希望者全員が入園でき、保育料は所得に応じて払えば、不公平にはならないだろう。
子ども手当は、全国の95%の自治体で6月中に最初の支給が行われる見通しだそうだ(5月24日付・読売新聞朝刊)。民主党は参院選の公約に、子ども手当の「上積み」を盛り込む方針という。
でも、その前に、子どもがいる家庭が何を望んでいるか、じっくり耳を傾けてほしい。そして、子どもにとって真に平等な社会のあり方について、真剣に考えてほしいと願う。
いよいよ来月から支給となる子ども手当。
「もらえるのはありがたい、でも…」。
そんな釈然としない思いを抱える方も多そうな気がします。
一方で「社会全体で子育てを支える」、
その考え方自体はいいんじゃないの? との思いも。
子どものいる方もいない方も、ぜひご意見を。
どん・わんたろうさんプロフィール
どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。
B級記者どん・わんたろうが
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