戻る<<

デスク日誌:バックナンバーへ

デスク日誌(39)

080130up

“CHANGE”は、訪れるか

 このところ、毎回、同じようなフレーズみたいな気がするけれど、それにしても寒い。
 今年は暖冬、と予想した気象予報士のみなさん、どうしてくれるんだあ、と喚いたところで仕方ない。というより、地球温暖化が叫ばれる中で、こんなに頑張って寒気を作り出している地球のけなげさに、なんだか感動してしまいそうになる。
 そんな我が惑星の懸命の営みにもかかわらず、なぜか“心がザラつくニュース”が多いこのごろである。

非難合戦が生み出す不毛

 アメリカ大統領選挙が、次第に熱を帯びてきた。アメリカ史上「初の女性大統領」か、それとも「初の黒人大統領」か。どちらが勝ったとしても、その結果が世界中に大きな影響を与えることは必至である。
 このふたりの闘いのヒートアップは、民主党への追い風にもなっている。メディアが、ふたりの様子ばかりを大きく取上げるの で、共和党のほうはすっかり霞んでしまったようだ。
 当初、共和党では最有力といわれたジュリアーニ前ニューヨーク市長は失速気味だし、そこにロムニー前マサチューセッツ州知事、宗教右派に支えられるハッカビー前アーカンソー州知事、それに長老71歳のマケイン上院議員らが加わって、ほとんど本命なき争い、まさにコップの中の嵐といったところ。このままでは、ますます共和党は埋没していくことになりかねない。

 ところで、優勢な民主党にも、あまり芳しくない情勢が生まれてきている。
 現在まで2勝2敗のオバマ候補とヒラリー・クリントン候補が、互いに非難合戦の、泥仕合を始めてしまったように見えることだ。政策の争いならまだしも、人種的な問題も絡んだ批判の投げ合い。それに乗じて、「だから、女や黒人に政治は任せられない」という保守層の意見も目につくようになったという。
 そこでなにやら不気味なのは、いわゆる“極右”の動き。「女や黒人にこの国を支配されてたまるか」との超右寄りの人たちの主張が、危ない事態を引き起こすことはないのだろうか。
 なにしろ、ケネディ大統領や弟のロバート・ケネディ、キング牧師などの暗殺の歴史のある国のこと。“不測の事態”が起こらないとは限らない。

“不測の事態”を防ぐために

 アメリカでは憲法上、もし大統領に万が一のことがあれば、副大統領が跡を継ぐという決まりになっている。
 あのケネディ暗殺の後、ジョンソン副大統領が、すぐに大統領に就任した例が思い出される。
 その意味で、今回、“不測の事態”を避けようとするなら、この「女性と黒人」の争いにおいて、両者が「勝者が敗者を副大統領に任命する」という盟約を結ぶのが最良の策だ。
 そうなれば、一方に“不測の事態”が生じたとしても、副大統領は健在。いずれにしろ「史上初の大統領」は維持される。もし、危険な組織が何かことを起こしたとしても、彼らは同じことを二度行わなければならない、というジレンマに陥ることになる。
 ひとりが消えても、もうひとりが残るからである。
 考えたくはないことだけれど、そんな“不測の事態”を避けるためには、互いの副大統領指名の盟約が必要であるはずだ。
 しかし、どうもそうはならないようだ。

 オバマ、ヒラリー両陣営とも、非難合戦がエスカレートし、とても相手をパートナーである副大統領に指名するような状況ではなくなってきている。
 どちらがアメリカ大統領としてふさわしいのか、アメリカ国民も決めかねているのが現状らしい。しかし、どちらがなったとしても、それはアメリカの現在の世界戦略や政策に大きな転回をもたらすことは間違いない。ともかくも、ブッシュ現大統領の恐る べき好戦的姿勢が消え去ることだけは確実である。そして、それは歓迎できる“CHANGE”だ。
 だから、痛ましい事件などが起きないように、心から願わずにはいられない。
 「女性大統領」と「黒人大統領」。どちらであったとしても「白人男性大統領」よりは、襲われる可能性は高いだろう。「白人男性大統領」だったレーガン元大統領でさえ、暗殺未遂に晒されたことがあるくらいなのだから。

またも飛び出した奇策

 とにもかくにも、“CHANGE”のスローガンの下に、変革期を迎えようとしているアメリカである。では、私たちの国はどうか。日本に“CHANGE”は訪れるか?

 今国会の最大の焦点は、あのガソリン税だ。
 メディアは「ガソリン国会」と命名した。現在、ガソリン価格に上乗せされている暫定税率の有効期限は3月31日である。それが過ぎれば、暫定税率は自動的に廃止され、ガソリンはリッター約25円値下がりすることになる。現在課税されている分がなくなり、その分いまより安くなるというわけだ。
 もっとも、現在の値段が高すぎるのであり、やっと半年前の水準に戻るだけのこと。決して“値下げ”などではないのだが。

 自民党は、ガソリンの暫定税率維持を図るため、なんと“つなぎ法案”なる奇策を持ち出した。
 この揮発油税などの暫定税率を2ヵ月程度延長するというのが、この“つなぎ法案”である。つまり、「“暫定”をさらに“暫定的に”60日ほど延長しよう」ということ。
 その延長期間のうちに、なんとかこの租税特別法案(揮発油税等の暫定税率維持法案を含む)を衆院通過させて即座に参院へ送り、たとえ参院で揉めたとしても、60日規定(参院へ送られた法案が60日以内に採決されない場合は、否決されたとみなす、という規定)を使ってでも、先の給油法案のように、衆院で再議決しよう、というまったくデタラメな“奇策”。
 そうすれば、なんとか期限切れの3月31日までに決着がつけられる。もしもつれて、3月末の期限切れを迎えてしまい、一旦ガソリンが値下がりしてしまったら、その後に再値上げをするのは、世論の猛反発を食らいかねない。それでは、選挙の大敗は目に見えている。
 とにかくさっさと決着をつけて、値下げの味を国民に味わわせないうちに、うやむやに終わらせたい。ミエミエの策略である。何が奇策なものか。デタラメ策でしかない。

 ほんとうに、よく次々と考え出すものだ。
 でもこうなると、何がなんだかわけが分からない。もう、なんでもあり、デタラメでもなんでも、通しちまえば勝ち。審議以前に結論が出てしまっているのだから、審議などする必要もない。これでは国会なんか必要ない。
 「審議しないんなら、議員歳費を返せーっ、この給料泥棒めーッ!」と、口汚く叫びたくもなる。
 こんなことが許されるなら、どんな法律でも「とりあえず延長」でどうにでもできるということになる。もはや、民主主義などという言葉を使うのも恥ずかしい。
 恥ずかしくはないのか、与党の議員たちは。

理解不能の論理「道路は造れ、車は走るな」

 「地方には、まだまだ道路が必要だ」という意見と、
 「ガソリンを安くすると、よけいに車が走って温暖化ガスを排出し、地球温暖化につながる。だから、あまり車が走らないように、ガソリン税は高いままにしておくべきだ」との意見が、同じ議員の同じ口から話されることに、私は強い違和感を持つ。
 だって、「どんどん道路を造れ」ということは、「どんどん車を走らせろ」と同義語じゃないか。「道路は造れ、車は走るな」というリクツは絶対に通用しない。それは「車の走らない道路を造れ」ということになる。そんなバカなことはない。車の走らない道路なんて、究極の無駄遣い!
 少し考えれば分かりそうなもの。それを平気で言い募る。言ってるやつの顔が見たい。

見せてやろう。
 こんなことを先頭に立って言いまわっているのが、町村信孝官房長官や伊吹文明自民党幹事長などだ。
 政府最高幹部や与党最高責任者が、平気でこんなデタラメ発言を繰り返すのだから、国民のひとりとして、心がザラついてしまうのである。

地方住民のほんとうの気持ち

 地方自治体の首長はすべて、この暫定税率を維持するよう求めている、と与党は主張する。
 しかし、ほんとうに地方の住民はすべて、それを望んでいるのか。
 いや、そんなことはない。地方に生活する人なら先刻承知。いまや、地方での暮らしは車なしでは考えられない。

 地方の鉄道(ローカル線)を、次々に廃止したのは、小さい政府を標榜する自民党政府だった。
 代替交通手段のバスも、僅かに数時間に一本。それすら資金難を理由に廃止する傾向にある。車に頼るしか方法がないではないか。

 かつては賑わった駅前から続く商店街は、いまやほとんどシャッター通り。カラカラと風に虚しくシャッターは揺れ、鳴くのは閑古鳥ばかり。
 郊外の大型店舗の進出によって、つぶれてしまった個人商店。買い物さえも、車に頼って郊外まで行くしかない。もう近所では、何も買えない。
 25円のガソリンの値下げが、地方住民にどれほど喜ばれるか。車の走らない道路を造るより、よっぽどありがたい話なのだ。

 北国では、暖房用の石油代の高騰が、過疎の地域を直撃している。ここでも弱者切捨てだ。石油ストーブを焚かず、服を重ね着してしのいでいるお年寄りたちの実態を、赤坂の豪華議員宿舎に暮らす議員たちは、知っていながら知らんぷり…。

 農業や漁業にも、このガソリンの価格高騰は深刻な打撃を与えている。ビニールハウスでの野菜作りにも、漁船用エンジンにも、油は絶対に必要なのだ。その高騰が、いまや野菜や魚介類の値段に跳ね返っている現状を、政府与党は知らぬとでも言うのか。

 自民公明の議員たちは、完全に間違えている。
 なるほど、利権と結びついた地方議員や首長たちは、暫定税率維持を叫ぶだろう。しかし、ほんとうの地方生活者たちは、必ずや反撃に打って出るだろう。生活に結びつかない道路など、何の恩恵もないからだ。
 与党が選挙を恐れる理由である。

自分のことは棚に上げて

 さらに、町村長官は、こんなことも言う。
 「ガソリン値下げなどという小さなひとつだけのテーマで、国会を解散に追い込む、と民主党が言っているのは、少々情けない感じがする」
 物は言いよう。
 郵政民営化を唯一の旗印に、ほかのテーマは一切無視して、突如解散に打って出たのは小泉純一郎首相、つまり、現在の衆議院での3分の2以上の圧倒的多数を占める与党の、やりたい放題の基礎を作った戦術だったではないか。

 自分たちが行ったことは、もうお忘れのよう。
 自分のことは棚に上げて、他人のやり方を謗る。それこそ、政治家として情けない態度だと思うのだが、いかが?
 しかし、このような矛盾を、なぜかメディアはあまり突っ込もうとはしないのだ。
 この国に“CHANGE”の兆しは、ない。

少しはホッとすることも…

 でも、ちょっとホッとするニュースもあった。
 マクドナルドの店長さんに残業代を出せ、という判決が東京地裁で出されたのだ。
 凄まじい重労働にもかかわらず、「店長は管理職だから、残業代支給の対象にはならない」との、マクドナルド側の主張は否定され、労働に見合った残業代を支給するように、との判決だった。もっともな判決だ。
 こんな当たり前の判決に喜ばなくてはならないことは悲しいけれど、それでも少しは、懸命に働く人たちに光が当たった。そんな気がした。
 きっと、ほかにも同じような状況で苦しんでいる人たちは多いだろう。これは、その人たちへの激励のエールにはなるはず。
 しかし、マクドナルド側は、即座に控訴することに決めたようだ。あのホワイトカラー・エグゼンプション(残業代ゼロ法案)に、どうしてもしがみつきたいらしい。

 肌を紙やすりで擦るようなニュースは、もう聞きたくない。

(津込 仁)

ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条