071226up
このコラム、いつの間にか36回目を迎えていました。早いものです。なんとかここまで、お休みもなく続けてきました。
ああ、今週は書くことがないなあ、なんて時は、それとなく身の回りの身辺雑記みたいなことでお茶を濁せばいいや、と始めたのですが、次から次へと書くべき話が転がり込んできます。それも、とても切ない話題や、放っては置けないキナ臭いことばかり。年末になっても、その傾向は変わりません。
12月23日、突然、福田首相が「薬害肝炎患者の一律救済を、議員立法で行う」との発表をしました。
まさか、クリスマス・プレゼントに合わせてみた、なんてつもりじゃないでしょうが、あまりに遅すぎる。前週に発表された各メディアの世論調査での、内閣支持率のあまりの急降下に震えあがったから、としか思えません。そして、福田首相があれほど避けていた患者さんたちとの面会も、25日にはなんとか実現。
ともかく、これで薬害肝炎の問題については、一歩前進ということなのかもしれません。むろん、「議員立法」とやらで、どんな案が出てくるのか、油断はできませんが。
患者さんも、会見で述べていました。
「いままでずーっと裏切られてきたので、素直に喜ぶ気持ちにはなれません。意見を言えるのは、議員立法の中身を検討してから後のことです」
それほどに、不信感を持たれている政府です。
橋本元一NHK会長は、来年(2008年)1月で、3年の任期が切れます。そこで、その後任選びが問題になっているのです。普通は、会長は2期(6年間)を務めるのが通例です。だから、何事もなければ、橋本氏が続投する予定だったのです。橋本氏自身も、その意欲を示していたといいます。
ところが、それに「待ったっ!」をかけたお方がいました。
NHK会長の任命権を持つNHK経営委員会の委員長という、強大な権力を手にしている、古森重隆という人物です。
なにしろ、NHKでいちばん偉い人を決める権限を持っている、というのですから、“いちばん偉い人よりもっと偉い人”ということになります。
この人が「待った」をかけたのですから、橋本会長の再任は、事実上なくなりました。それほど強い権限を持っているのが、古森氏なのです。
さて、ではこの人、どういう人か。
実は古森氏、いまや“懐かしい人”になってしまったあの安倍晋三前首相の大の仲良しだった方で、現在の肩書きは、富士フイルムホールディングス社長。こう書けば、この方がどのような考え方を持っているのか、おおよその見当がつくでしょう。
そうです、安倍さんが提唱した、いわゆる「戦後レジームからの脱却」路線にとても近しい“財界人”です。安倍さんがいろんな審議会などに登用した多くの“お友だち”の中のひとりなのです。
安倍さんは表舞台からその姿を消しましたが、安倍さんが任命した同じ考え方を持つ人は、まだいろんなところに健在だというわけです。
「選挙期間中は、政治問題に関わる番組制作には注意しろ」
これは、あの従軍慰安婦問題を扱ったNHKのドキュメンタリー番組『問われる戦時性暴力』に関して、自民党政治家(安倍晋三氏や中川昭一氏ら)が、NHKに強力な圧力をかけ、その結果、NHK側が番組改編を行ってしまった、という事態をめぐって起きた裁判を念頭に置いた発言と受け取れます。
それがエスカレートすれば、表現の場、報道の現場に「政治問題に結びつくような微妙な番組は制作を控えろ」と、政治介入が常態化していくことになりかねません。
意見が分かれる問題のうちの、ある一方への批判は、たとえどんな事実や情報があろうと、報道することは許さない、ということにつながります。これでは、批判報道やスクープ取材の道は、事実上閉ざされてしまいます。
報道への露骨な介入です。
こういう方が、“NHKのいちばん偉い人よりもっと偉い人”なのです。古森重隆氏というNHK経営委員会委員長は、“安倍前首相の負の遺産”であるといわざるを得ません。
ご存知のように、財界の総本山、御手洗富士夫経団連会長の政策提言のありようは、そうとうに偏っています。
御手洗会長が07年の年頭に発表したいわゆる「御手洗ビジョン」は、ワーキングプアを増大させるような格差拡大路線そのものであり、残業代ゼロ法案と呼ばれたホワイトカラー・エグゼンプションを推進し、庶民増税と法人税減税をセットにすることを提言し、あげくの果てには「憲法改定」にまで踏み込むという、政治色のきわめて強いものでした。
そんな路線がNHKの番組作りに反映されるとしたら、報道の自由など、どっかへ吹っ飛んでしまうでしょう。
そういえば、安倍内閣で放送局をやたらと威嚇した総務大臣が、やはり安倍さん同様の強硬派・菅義偉氏でした。
その流れがまだ衰えていないということが、この古森委員長の、財界人をなんとかしてNHK会長の座にすえようとする動きから見えてきます。
橋本現会長ではNHK改革などできないから、もっと自分と意見の合う人を後任のNHK会長にしたい、というのが古森委員長です。それは、安倍晋三氏の「戦後レジームからの脱却路線」に理解を示す“財界人”でなければならないのでしょう。
まさに、“安倍前首相の負の遺産”です。公共放送の会長選出という、報道の世界のもっとも重要なところに、その“負の遺産”が、まだ生き残っていたのです。ゾンビです。
ジャーナリズムを財界の論理で動かす。考えてみれば、そうとうに危険なことです。
このままでいいわけはありません。各報道機関は、もっともっとことの真相を伝える努力をすべきです。
NHKに新会長が誕生しました。これが、沈黙の一里塚にならないことを願うばかりです。
(鈴木耕)
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