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2012-07-18up
伊藤塾・明日の法律家講座レポート
2012年6月16日@伊藤塾渋谷校
「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。
収容される難民たちの人権を考える
〜入国管理収容施設の実態と、外国調査事例との比較を通して〜
講演者:
ミョウ・ミン・スウェ 氏(東京大学大学院修士課程)
新津久美子 氏(東京大学難民移民ドキュメンテーションセンター)
【ミョウ・ミン・スウェ氏プロフィール】ミャンマー(ビルマ)出身。高校生だった1988年のビルマ民主化闘争の際にデモなどに参加。政府当局の監視対象となり、命の危険を感じたことから1991年に来日。2004年2月に難民認定申請を行ったが、1カ月後に私服警察官に職務質問され、そのまま逮捕される。東京入国管理局収容所(品川)に約8カ月半拘留された後、2005年2月に条約難民として認定。2011年4月から東京大学大学院人間の安全保障プログラムの修士課程に在籍し、「ミャンマーの民主化改革」をテーマに研究を進める。
【新津久美子氏プロフィール】横浜出身。慶応義塾大学法学部政治学科、イギリス・エセックス大学大学院法学部国際人権法学科、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻「人間の安全保障プログラム」卒業。国会議員秘書(人権問題担当)、大学講師などを経て、現在、東京大学難民移民ドキュメンテーションセンターにて調査に従事。法務省難民審査参与員、アムネスティインターナショナル日本理事、明治学院大学法学部講師なども務める。
主に在留資格を持たない外国人が事実上強制送還を前提に収容されている法務省の入国管理収容施設。一般的に、収容される人たちは劣悪な環境に置かれやすく、人権が十分に守られにくいとの指摘があります。また、こうした入管施設には、祖国での戦乱や弾圧から逃れて日本にやってきた難民認定申請中の人々が収容されているケースもあります。そうした状況は果たして許されるものなのか、収容されている人々の人権を守るためには何が必要なのか。かつて難民認定申請中に収容された経験を持つビルマ出身のミョウ・ミン・スウェさん、東京大学の難民移民ドキュメンテーションセンター(CDR)で研究活動を進める新津久美子さん、2人の講師がそれぞれの立場から語ってくださいました。
■難民認定の申請中に、逮捕・収容された
まず初めに、この講義のコーディネーターである、東京大学大学院人間の安全保障プログラム特任准教授の山本哲史さんから、メインテーマとなる「収容」について、そして講義の狙いについて説明がありました。
「収容とは、自由を剥奪するということであり、見方によっては典型的な基本的人権の侵害であるともいえます。一方で、不法在留者をどう扱うかというのは国家の安全にかかわる問題でもあり、日本では法務省入国管理局の管轄下に置かれています。つまり、そこには人権対国家の安全という構造があるわけで、見る立場が違えば見え方も違ってくるということ。今日は、ミョウさんから実際に収容された体験を、そして新津さんからは、他の国々が収容されている人たちの人権を守るためにどんな取り組みをしているのかについて、話していただこうと思います」
そして、まずはミョウさんが登壇。「日本ではビルマといっても知らない人が多いかと思いますが、僕はここでは、政治的な考え方もあってミャンマーではなくビルマという表現を使いたいと思います」との前置きの後、自身が故国を離れ日本にやってくることになった経緯について、ビルマの歴史を振り返りつつ語ってくれました。
長く軍事政権下にあったビルマでは1988年、学生たちを中心に全国的な民主化運動が起こりました。当時高校生だったミョウさんもそれに賛同し、デモなどに参加しますが、それによって夜中に軍人たちが自宅に押しかけてくるなどの脅迫を受けるように。「このままでは投獄されてしまう」と身の危険を感じ、亡命を決意するに至りました。
隣国のタイを経て、1991年に日本へ。「日本を選んだのは、ビルマともかかわりの深い国だったこと、そしてアジアの中でも安全で自由で、人権も保障されている国だと考えていたから」だといいます。「でも、実際に来てみると、日本政府の民主化活動家に対するスタンスは『どうせ出稼ぎなんじゃないのか』というもの。それにプライドを傷つけられたこともあって、しばらく難民申請はしないままでした」
しかし、来日して10年以上が経った2004年、出版社で記事の執筆や翻訳の仕事をしていたミョウさんは、軍事政権を批判する記事を書いたことで、在日ビルマ大使館から「国家名誉反逆罪だ」との脅迫電話を受けます。それを機に、弁護士の支援も得て難民認定を申請。ところがそのわずか1カ月後に、私服警官の尋問を受けて不法入国罪で逮捕、拘留されてしまいます。「難民認定の申請中だ」との主張もむなしく、裁判で有罪・執行猶予判決。身柄を入管に送られ、そこから実に8カ月半にわたって東京・品川の入国管理局収容所に収容されることになりました。
「ここでは、難民として収容されるわけではなく、不法滞在で強制送還の決まっている人たちと一緒に収容されます。自分も強制送還されるんじゃないかというストレスが大きくて、周りの人たちとは小さいことでもすぐけんかになっていましたね。夜中も、見回りに来る人の足音が聞こえると、『送還されるんじゃないか』と不安になって、精神安定剤などを飲んでいたこともありました」
辛かったことの一つは、医療の不備だったといいます。収容中、ふとしたことで手にけがを負い、医者に行きたいと担当者に訴えたミョウさん。しかし、外の病院に行く許可は出ず、不在だった施設担当医が戻ってくるまで、傷口を冷やして待つように指示されたのだそう。結局、医師の判断で外の病院の診察を受けられることにはなったものの、手には手錠がかけられたまま、周りの目を気にしながら病院に向かったといいます。
その後、仮放免を受けた直後に難民として認定されたミョウさんは、かねてからの希望だった大学進学を実現。現在は大学院に通いながら、ビルマからの難民が多く暮らすタイ国境の難民キャンプへのスタディツアーを日本の大学生向けに実施するなどの活動を続けています。「いずれは帰国して、できれば日本の企業がビルマに進出するのを助けるなど、日本とビルマの懸け橋になれる仕事をしたい。そして、ゆくゆくは政治家になって、豊かな社会を人々にもたらせるような政策を実現したい」と話してくれました。
■収容施設での人権状況を改善するために
一方、新津さんが解説してくれたのは、まず難民申請者を含め在留資格を持たない外国人の「収容」をめぐる日本の現状について。そこには、前提として注目すべき点がいくつかあると新津さんは言います。
「一つは難民としての認定される人びとの数とその状況の客観的な把握(2011年は、一次手続での認定は7名、異議申請に基づく審査での認定は14名、また、それぞれの認定率は総数に対し0.33%及び1.6%。2011年の難民申請者数は1867名)。二つ目は、先ほどミョウさんも指摘していた収容施設内の医療をいかに確保していくか、ということ。そして最後に、これは世界共通の課題でもあるのですが、収容施設内での人権侵害を防ぐために、どう透明性を確保していくかという点です」
この「透明性確保」のために、2010年に設置されたのが、法務省の「入国者収容所等視察委員会」。「入国者収容所等の視察及び被収容者との面接を行ない、その結果に基づき、入国者収容所所長等に意見を述べ、もって、警備処遇の透明性の確保、入国者収容所等の運営の改善向上をはかること」を目的に掲げ、東日本と西日本、二つの委員会で入管センターや地方入管収容所など、全国に22カ所ある施設を担当しています。委員の顔ぶれは非公開ですが、刑法学者や弁護士、医師、地域住民など、東西各10名ずつから構成されているとのこと。
収容者は、希望すれば視察に訪れた委員と面接することができるほか、収容施設内に常設されている「提案箱」に待遇改善などの希望を書いて投函すれば、視察の際に委員に渡される仕組みになっています。一方で、視察の手法や回数についての法的な定めはなく、現時点では1〜2年に1度の実施にとどまり、1回の視察にかける時間も1日と短く、状況のよしあしを判断する上での指標も特段公的なものが定められていないのが現状。また、視察の結果は報告書にまとめられるものの、最終的に公表されるのは簡易版の概要報告書のみ。制度改善の必要性が指摘されても、そこには法的拘束力がないという課題もあります。
今後、このような課題はどのように解決されていくべきなのか。それを考えるためのヒントとして、新津さんはイギリスとフランスで、同じように収容施設の透明性確保のため活動する組織を視察した際の報告をしてくれました。イギリスの「刑施設視察委員会」、フランスの「拘禁施設総監督官事務所」。それぞれに設置の経緯や視察の対象となる施設、仕組みなどは異なりますが、日本の状況と比較しながら見ていくことで、いくつもの「気づき」があったといいます。
「例えばイギリスでは、視察における厳密な指標を設定することで、外部から見た視察の信頼性を担保しようとしています。より正確に状況を把握するため、被収容者へのアンケートなどの事前調査に力を入れているのも大事な点ですね」
視察後に作成される報告書は、両国とも外部に公開されており、それを見たメディアが収容所内の状況を報道したりすることも。それによって、報告書そのものに法的拘束力はなくても、施設には改善への強制力が働くのだそう。
また、ちょっと意外だったのは、イギリスの刑事施設視察委員会では児童収容施設や警察の留置場、軍隊の収容施設を、フランスの拘禁施設総監督事務所でも警察や精神病院、刑務所など、入管の収容施設だけではなくさまざまな施設を視察の対象にしているということ。「日本では、さまざまな収容施設に対する視察の仕組みは整えられましたが、それぞれ別の組織が担当していますよね。各施設に共通する問題は非常に多いし、協働できるところも非常に多いので、とてももったいないと感じています」と新津さんも指摘していました。
その他、日本語を解さない収容者が多い日本の入管施設特有の課題として、通訳翻訳サービスのさらなる拡充も、今後の課題として挙げられました。
「視察委員会ができたこと自体は非常に歓迎すべきことですが、もちろんできただけでよしとせず、注視していくことが大切でしょう」と新津さん。収容施設内での人権状況のあり方は、かねてから人権団体などが指摘し続けてきている課題でもあります。今後、委員会の活動が更に実効的なものになっていくよう、視察の方法や情報公開のあり方などについて、海外の事例も参考にしながら改善を重ねていく必要性を、強く感じさせられました。
(構成/仲藤里美)
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