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2011-10-05up

伊藤塾・明日の法律家講座レポート

2011年9月10日@伊藤塾本校

「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。

外資系ローファームにおける国際法律実務
~日本人パートナー弁護士の目から見たグローバル化~

講演者:高取芳宏弁護士
(日本及び米国ニューヨーク州弁護士、オリック東京法律事務所・外国法共同事業訴訟部代表パートナー)

 高取弁護士は、米国系巨大ローファームにおける数少ない日本人パートナー弁護士の一人で、2011年に訴訟部を伴ってオリック東京法律事務所に移籍しています。複数の管轄にまたがるクロスボーダー国際訴訟・仲裁事件を多く扱い、知的財産、製造物責任、独禁法関連等の国際商事・民事紛争、コンプライアンス事案などを中心に手がけられている高取弁護士から、クロスボーダーでの弁護士実務をどのように各国の弁護士と協力しながら取り組んでいるのかについて語っていただきました。

■巨大ローファームのメリット

 私が属しているローファームは、各国の弁護士がパートナーを組んで対応していくというスタイルをとっています。「外資系ローファーム」と呼ばれていますが、実は「外資系」と呼ぶのが適切かどうかわかりません。私を含め、日米欧の各国、各管轄の弁護士がパートナーシップを組み、国境を超えたビジネスが当たり前となったクライアントに、日本を含む各管轄での準拠法を駆使して戦略的にリーガルサービスを提供していくからです。国籍がどこの国かといったことはもはや重要ではありません。

 クロスボーダーの法務実務をどのように各国の弁護士とチームを構成し、遂行していくのか、といった実態や面白さを、国境を超えた偽造品事件で勝訴判決を獲得したプロジェクトなどを紹介しながらお伝えしたいと思います。

 私自身は10年前からこのような事務所に属しているわけですが、日本とアメリカがからんだ事案を担当しているうちに、日本のファームにいて海外の弁護士と提携するよりも、いろいろな人がつながっている同じファームにいた方が有利だなと思ったからです。守秘義務の問題や過去のノウハウを共有することができるといったメリットがあるからです。

 あるいはケースによってはアメリカと日本のどちらで裁判を起こした方が有利なのか、と戦略的に考えなければならないというケースがあります。ひとつのファームで両方対応できれば、どのようなケースでも対応できて、クライアントに適切なアドバイスができるということがあります。

 そのような理由からひとつのファームで複数の管轄の弁護士がいる事務所がいいなということで10年ほど前にヘッドハントされた外資系事務所に入って、今年からオリックというところに訴訟チームごと移籍をしました。

■コンプライアンスと弁護士の役割

 我々が取り組んでいる仕事の一つにコンプライアンスを企業にアドバイスしていくということがあります。コンプライアンスと言うと、「法令遵守」と言われていますが、単に定められている法律を守っていれば足りるというものでもありません。例えばアスベストの問題があります。たいていの日本の企業は、うちはアスベストの法令規制を守っているから、後から問題が起きても大丈夫ですよということで、あまり危機意識はなかったんですが。でも法令を守っていても 日本の法令の基準自体がアメリカより20年とか25年遅れていると言われていた基準なので、我々はそれを守っていたとしても日本の企業が責任を問われる可能性もありますよと言っていたわけです。そうしたら案の定、日本の国と企業が一緒に訴えられるということが出てきました。

 そのような例として、私も長年関わっていた、薬害訴訟と言われるHIV訴訟などもあります。私は企業法務系の弁護士として、法廷では被告企業側に座ることが多く、この件でも20年にわたり担当させてもらいました。企業としては、患者さんの病気を治そうと思って提供していた薬に、外国から輸入した血液に混入していたHIVウイルスが入ってしまった。もちろん何と言っても患者さんの生命、健康が第一であるというのは、被告企業側も当然の共通認識としてあるわけですけども、マスメディアからは強烈な勢いでたたかれます。

 裁判をめぐる攻防が続く中で、企業が世の中から敵視され、プレッシャーを受ける中、本来患者さんを助けたいと真摯に思って製薬会社に入った、極めてまじめで誠実な方々が追い込まれ、子どもも学校に通いにくくなったりする。

 そういうときに私たちの役割というのは、たとえ世の中が全部敵に回っても、最終的にはあなたたちが法的に主張できることは適切に拾いだして、法的に主張してあげますよという役割です。そういう法的な利益を主張してあげる味方がいなくなり、本来負うべき責任を超えて責任や賠償を負担する事態となれば、、極端にいきつくところ、誰も薬を作らなくなってしまう、という事態になりかねません。

 患者さんを救わなければいけないという思いは共通の大前提ですが、問題が起きたときの責任を、本来負うべき法的な範囲を超えて企業だけに押し付けてしまうことは、防がなくてはならない。たとえば、産婦人科の事故でも頻繁に訴訟が起こされてきました。でもそのようなことが多くなりすぎると、産婦人科医のなり手が減少していってしまう、ということにもつながりかねない。そのような意味でも弁護士が、どういう行動を起こし、どのような役割を果たすのか、司法の役割が社会に与える影響は非常に大きいと思っています。

 企業活動、つまり資本主義社会における営利活動と人権や社会正義とのバランスというのは表面的には一見矛盾するようにも見えるけれども、最終的には同じ目的を実現するもの、あるいはしていくべきものではないかと思います。企業で一生懸命働く人たちの社会に役に立ちたいという思いがありますし、我々弁護士が早い段階で入ってコンプライアンスを維持していくというアドバイスをしていくことで、巨額な損害賠償などから企業を救えるだけでなく、そもそも被害を生じさせないことが可能となる場合もある。そういう意味でも非常にやりがいのある分野だと思います。

■国境を越える偽造品問題への対応

 国際的な知的財産分野の侵害に関する分野も取り扱っています。偽造問題は各国で大きな問題になっていて、特に日本のブランドがかなり侵害されています。中国をはじめアジア諸国の知的財産に関する意識や感覚が悲しいことにまだまだ進化していないため、不幸なことになっています。

 多数の模造品に悩んだ企業が中国企業を告訴していっても、数が多すぎて対策費がかかりすぎるというようなこともおきています。

 また、私の担当したある偽造事件では、偽造品の流通ネットワークは非常に大掛かりなものでした。本来つくられていないはずの製品などが台湾や中国の大型流通店などでも販売されていました。これによって企業の利益が奪われると同時に、その製品に問題が生じて、事故が起きたような場合、製品にブランドが表示されている元の企業が訴えられる可能性も否定できません。つまり被害者であると同時に加害者にも立たされてしまう恐れがある。

 ただし、日本の国の中で売られていないような場合は、たとえ外国で売られていても、法的には国境を越えると属地主義の壁があって、これまでは知的財産の権利をめぐる争いで勝つのは難しいといわれていました。見える物と違って知的財産というのはそれぞれの国家が作る観念的な権利です。それを財産として認定するのはそれぞれの国家なので、他の国はその管理や侵害に口を出しにくいということになっています。

 でもそれを我々の裁判では一応打ち破ったということで画期的だということで注目されています。我々は各国が認めた知的財産権を侵害した事案で損害賠償を請求しました。そこで使う準拠法は日本から見れば外国法です。その外国法を適用して日本の裁判所が裁いてかつ、損害賠償を認めたというのは初めての事案だと言われています。このあといろんな裁判に影響を与える可能性はあると思います。

 これはすさまじい闘いだったんですけれども、香港、台湾、中国の弁護士とタッグを組んで証拠を集めて、各国の法律の適用要件を全部裁判所に出して、この通り各国でも違反ですということを示しました。それから損害賠償の金額を認定してもらうために東京でコントロールしながら各国で証拠を集めて、いろいろな手続をしました。それで日本の裁判所が認めて、損害賠償も認められたのです。このようなことは、各国の弁護士が協力して、しかも複数の管轄にまたがったプロジェクトでなければできないことです。

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