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2010-06-01up
伊藤塾・明日の法律家講座レポート
2011年5月21日@伊藤塾本校
「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。
大規模法律事務所の現在と未来
~ニッポンを元気にするために法律事務所は何ができるのか?
現在、弁護士業界も司法改革に伴う激動の時代を迎えています。これから弁護士を目指す伊藤塾の塾生さんたちにとっても、そうした中で実際に弁護士の先生方が日々どのような活動をしているかは、大変気になるところだと思います。
今回お話しいただいたのは、日本最大の弁護士・スタッフを抱える西村あさひ法律事務所に所属する6名の弁護士の方々。それぞれに異なる専門分野を扱っている先生方に、日本で大規模法律事務所の果たすべき役割は何か、また日々どういう業務に携わっているのかについて具体的に説明をしていただきました。
講演者:西村あさひ法律事務所所属の弁護士6名
梅林啓弁護士
宮崎信太郎弁護士
新家寛弁護士
志村直子弁護士
河合優子弁護士
沼田知之弁護士
*
■事務所の紹介(梅林弁護士)
西村あさひ法律事務所は、3つの法律事務所が集まってできました。2004年に、西村総合法律事務所とときわ総合法律事務所が統合しまして、西村ときわ法律事務所になりました。また、2007年に西村ときわ法律事務所とあさひ法律事務所の国際部門が統合して現在の西村あさひ法律事務所になりました。当事務所は現在弁護士は472名、スタッフを含めると約1,100名の日本最大の法律事務所になっています。人数の多さは日本では突出していますが、もちろん多ければ良いというものではありません。その人数で何をやっているのかが大事になってきます。
取扱い分野は幅広く、コーポレート、M&A、ファイナンス、訴訟、事業再生、独禁法、知的財産等に加え、国際通商、危機管理といった新たな分野も加え続けています。つまり専門店が集まった何でも買えるデパートのような法律事務所です。同時に、案件に応じた最適のチームを、専門分野をまたがって機動的に編成することもでき、いわば専門店が協働していっぺんに全身をバランス良くコーディネートすることもできるといった特徴があります。個々の力と組織力をバランス良く発揮できることが売り物です。そして、多くの若くて優秀な個性を集め続ける大規模事務所であるからこそ、長期的な視野を持って未知の分野の開拓に日々チャレンジし続けています。
また、昨年(2010年)は北京とホーチミンにもオフィスを開設しました。今後も他に地域にも展開していく予定です。これまで海外に日本の法律事務所はほとんどありませんでしたが、企業も政府もだいぶ前から展開していました。法律事務所だけが遅れていたんですね。そこには、東アジアの国々が政治だけでなく、法律的なルールに則って進めていくことが増えてきた、という時代の変化も関係しています。
■参加メンバーの紹介
志村弁護士
西村総合法律事務所に入った1999年から丸12年、お仕事をさせていただいています。統合してからは一つの事務所として他の先生と協力して一緒にお仕事しています。私はコーポレートが専門です。
宮崎弁護士
最初はときわ総合に入りました。その当時は弁護士5名という事務所でした。一般のいろんな事件とともに、倒産、事業再生関係を多く扱ってきました。住専問題、ノンバンクの倒産処理、そごう民事訴訟とかそういう事件を扱ってきました。最近も倒産、事業再生案件を扱っています。
新家弁護士
私は14年目となります。いろいろなことをやってきました。流動化とか証券化といったファイナンスという分野を中心にやっています。
梅林弁護士
91年から16年間検事をしていました。今から4年前にこの法律事務所に登録しました。検事を辞めた理由は新しい仕事に挑戦してみたかったからです。なぜ西村だったのかというと、私のような者にいろいろなフィールドの仕事を与えてくれたからなんです。今は4年間弁護士をやっているところです。
河合弁護士
私は皆さんと同じように伊藤塾で学びました。今は弁護士登録して5年目です。志村弁護士と同様、コーポレート、M&Aという分野をやっています。また、最近では海外の案件を多く取り扱っています。この法律事務所は風通しのよさと前向きなエネルギーに魅力を感じています。
沼田弁護士
法科大学院出身の最初の世代になります。今年で4年目になります。独占禁止法関係と危機管理の案件を扱っています。
■具体的な業務分野の紹介
取り扱っている分野には、様々なものがあります。今日来ている弁護士の方から、代表的な分野ごとにどんな特徴があるかを話していただきます。
○コーポレート、M&A(志村弁護士)
この分野は、大規模事務所にとって中心になっている仕事です。西村あさひでもこのコーポレート、M&Aという分野に関わっている弁護士は500人のうち半分はいるのではないかと思います。
基本になる法律は会社法ですが、金融取引法、労働法、独禁法などいろいろな法律を扱います。ファイナンスや訴訟の知識ももちろん必要です。
要するに何でもありにこの分野は非常に幅広いのですが、西村あさひの大きな強みとしては、多くの人数で対応すべき案件に対応できるということです。また、中小の案件に即した規模の人数にも対応していけるというのも強みになっています。
○ファイナンス(新家弁護士)
「ファイナンス法」というのがあるわけではないですから、ファイナンスの分野と言っても弁護士がどう関わっているかよくわからないと思います。
例えば、会社の株をキャッシュで買い取って子会社化する場合、必ずしも手金があるわけではないので資金調達が必要になりますよね。また、新規事業を興したり、最新・大規模設備投資をしたいという場合も必要です。こういうときに、必要な資金調達手法・スキームを考え、法律問題やリスクを整理してアドバイスし、契約書を作成していくのがファイナンス分野での弁護士の主な仕事です。クリエイティブな解釈をする必要のある分野なので、パズルを解いているような面白さがあります。
○事業再生、倒産、訴訟(宮崎弁護士)
会社が財政的に行き詰ったときにどう整理するかといった分野です。日本の再建手続はアメリカのやり方に倣っていますが、日本の弁護士の対応は、世界的に見ても実務レベルが高いのではないかと思います。
もちろんいろんな分野が絡んできます。特徴としては生の利害関係者がたくさんいるということですね。だからある意味ではわかりやすい。業界ごとの知識も事件を通じて学んでいくことが必要です。金融機関、メーカーの世界、それぞれルールが違いますから。
○新しい分野(梅林弁護士)
社会の変化とともに、企業を取り巻く状況もどんどん変わってきています。そこに総合的にアドバイスをしています。かつて昭和30年代、40年代の企業と役所の関係というのは、大まかに言えば役所が企業の面倒を見ていました。企業に不正行為があっても、役所も一体となってその解決に向かっていたのです。しかし20年ほど前からそのスタイルが変わります。役所は企業のやることに文句は言わない。でも後で法令違反が見つかったら、企業を攻撃するようになりました。
一方で企業の側は危機管理のノウハウをほとんど持っていません。そんなに度々危機が起きていたらおかしいので、持っていなくて当たり前なのですが、そういった企業にアドバイスを行っています。
■若手の育成、
執務環境、求められる人材について
○若手の育成と留学について(志村弁護士)
弁護士としての能力を磨くことは、弁護士事務所の力を高めることに直結します。当法律事務所では、積極的に弁護士の海外留学を行っています。私は2003年から2004年にかけてアメリカのスタンフォード大学へ行きました。当初は英語に苦労しましたが、現在はおかげで比較的得意になっています。また、英語以外にもたくさんのことを学びました。例えば法律の世界でも、説明の仕方に世界共通のやり方があることを学んだのは、その後の弁護士活動にとって大きな収穫でした。留学を活かしてグローバルな仕事をする上での素養を学べたのはよかったと思います。
(河合弁護士)
弁護士になって5、6年たって、今は留学先をどうしようか考えている段階です。周りには特色ある経歴を築いていくためにアメリカ以外を選ぶ人も増えていますが、個人的にはアメリカで鍛えたいと考えています。英語だけでなく、人脈も大きな財産です。これからグローバルな分野で活動していきたいので、あらゆる国から来ている人とつながりがつくれるという意味では、やはりアメリカで学ぶことは強みではないかと思います。
○執務環境について(沼田弁護士)
どんな環境で仕事をしているか皆さん気になるところだと思います。事務所に入ると、若手は4年目か5年目の弁護士の先生とパートナーになって2人1部屋で仕事をします。先輩の仕事は見られますし、相談もできる。かといって大勢の中で仕事をすると逆に相談しにくくなってしまう場合もあるので、個人的にこのシステムはすごく良いのではないかと思っています。
若手の教育としては最初に新人セミナーがあります。それぞれの分野を専門とする弁護士の先生がいろいろ教えてくださったり、時にはテストが行われたりもします。いずれも貴重なお話を伺えます。
また、法令改正などで常に変化しているので、所内で業務分野別の勉強会が頻繁に行われています。最近では震災対応についての会もできました。もちろん自分の専門外の勉強会にも自由に参加することができます。
○弁護士に求められる役割と人材について(新家弁護士)
弁護士に求められる役割は、私が関わった14年の中でも変わってきています。ビジネス法は複雑・高度で年々スピーディに変化しているというのが実感です。会社法・金商法(金融商品取引法)は毎年更新されているのに、法律と現実の間のギャップはどんどん大きくなるばかりです。
だから今までのところにとどまっているわけにはいきません。従前のものと違うのであれば、あるべき方向をきちっと見極め、議論を深化させていくことが必要です。そういった法実務の中で時に立法を促し、新しい判例を形成し、コモンセンス、つまり共通理解を変えていくことも求められることがあると思います。これから弁護士を目指す方には、既存の議論を学ぶだけではなく、高度な法技術を駆使して、実務を引っ張っていくという高い志を大切にして欲しいですね。「法の支配」を支えて貢献できるような法律家になって欲しい。早く弁護士になっていただいて、僕らと一緒にそういった議論をどんどんしていきましょう。
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