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2010-09-08up
伊藤塾・明日の法律家講座レポート
2010年7月31日@伊藤塾本校
「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、
随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。
新しい弁護士の時代の夜明け
〜弁護士の本音と建前
講演者:戸田泉さん
第一東京弁護士会所属 弁護士。弁護士法人ITJ法律事務所代表弁護士
主な取り扱い事件として、「ライブドア株主被害者集団訴訟」「ゴルフ場預託金返還集団訴訟」「消費者金融に対する過払い金返還集団訴訟」
このところメディアにおいて、「弁護士の貧困」「新人弁護士の就職難」「司法修習生の給与の廃止」など、弁護士業界の暗いニュースが伝えられています。弁護士の数が増えたことで、難しい試験を突破しても、現実はそんなに大変なの? と思う一方で、従来にない新しいスタイルや分野で活躍する弁護士たちもいると聞きます。今、弁護士業界の最前線では何が起こっているのか? 当事者である戸田泉弁護士の講演の一部を紹介します。
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●10年前から弁護士業界は明るいわけではなかった
学生時代は、商社にでも就職しようかと考えており、一度はそちらの方向に進みましたが、やはりサラリーマンは向いていないと思い、司法試験の勉強を始めました。修習後は、中堅の渉外事務所に就職し、しばらくはそこで勤務させていただきました。「イソ弁」時代は長時間労働でストレスもたまるけれども、さまざまな仕事が経験でき良かったのですが、「自由にいろんな可能性にチャレンジしたい」という本来の欲が出てきて、わりとすぐに辞めてしまいました。この時、私には将来の見通しは何ひとつありませんでした。事務所を辞めた翌日からは、もう何もすることがなかったほどです。
ただ当時は、弁護士会に所属していることで、国選弁護士の仕事を紹介してもらうことはできました。刑事事件を担当すると、1件10万ぐらいの報酬がもらえたので、これを月に2件ぐらい担当しながら、次に何をするか考えようと思っていました。実際は、月に20件ぐらい担当していたので、また忙しくなってしまいました。この時期の経験は、非常に緊張感があり、また視野が広がりました。民暴委員会(民事介入暴力対策委員会)にも入っていましたので、暴力団との交渉もやりました。彼らも同じ人間。いろいろと面白い経験を積みました。
そんなこんなで駆け出しのころは、そういった事件の他にも、先輩から紹介された仕事をやったり、インターネット上での無料相談からの事件をやったり、また予備校の講師もやりました。
●弁護士というのは、基本的にはサービス業
「イソ弁」を辞めて1年経ってようやく「仕事というのは、天から降ってくるものではない。こちらから取りにいかないと得られないもの」いう当たり前のことに気がつきました。言い換えれば、何もしなければ失業してしまうけど、意欲のあるところには仕事はくる、そういうことです。
それまで業界では誰も行っていなかった、個人事務所の広告をうつことにしました。これは、同業者から嫌われましたね。「みっともないことをするな」と忠告をしてくる人もいました。しかし新規の顧客や仕事と出会うためには、広告か紹介しかありません。そして正直に言うと、先輩たちが紹介してくれる仕事は、その人がやりたくない仕事だったりすることが多いのです。
現在、私の事務所は債務整理にかかわる案件では、業界でも多く手がけている事務所のひとつだと思います。また「時代の変化には素早く対応する」ことを心がけており、ライブドア集団訴訟、ゴルフ会員権の集団訴訟などは、そうした時代のニーズを読んで、アクションを起こしたものです。
●弁護士資格を持つ人の数は、もっと増えていい
これまで日本の弁護士は、かなり広いマーケットを少ない人数で独占してきたと思います。司法制度改革によって弁護士の数が増え、それに対して見直しを求める声もありますが、私は本当のことを言うと、弁護士の数はまだまだ不足していると思います。なぜなら、地方に行くと町に一人の弁護士しかいない、というところはたくさんあります。
しかしそれでは、依頼者は弁護士を選べませんし、競争による弁護士の質の進化も望めません。依頼者の立場や一般の社会から見ると、情報公開もあまりされていないから、悪徳な弁護士、悪徳ではないけれど無能な弁護士、そういった弁護士に依頼してしまうかもしれない。弁護士業界においても、市場の競争原理が働いた方がいい場合もあるのです。
最近の新聞報道には、いささか疑問があります。「弁護士なのに仕事がない」「弁護士なのに貧困に陥っている」といった記事を読みますが、弁護士というのは、そもそもただの資格。「サムライ業」といった言われ方もしますが、特別な身分でもなんでもないんですね。だって「英検1級持っているけど、仕事がない」とか、「運転免許もっているけど、貧困である」という言い方はしませんよね。
今後の方向性として、世界と比較しても異常に難しいと言われている日本の司法試験ですが、その試験で法曹界に入る人を振り分けてしまうのではなく、試験はもう少し合格しやすくしておいて、そこから法曹界で活躍する人、法律の知識と資格を持ちながら法曹界以外で活躍する人、合格後に進路を選ぶ余裕がある方がいいのではないでしょうか。また刑事事件と民事事件は分けて考える、それぞれに専門の弁護士を作るという制度があってもいいのではないかと思います。
私自身は、事務所を起こしてからまだ10年の駆け出しですが、弁護士だけで人生を終わるつもりはありません。エンターテイメントビジネスをやりたいなど、また新しい分野にチャレンジしたいと考えているところです。
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「日本の司法試験は難しすぎて、ようやく合格した人たちは、
何がなんでも法曹界に入ろうと無理をする。それも問題」という戸田弁護士。
たしかに、法律の資格を持って法曹以外で働く人たちが増えることは、
社会にとっても良いような気が。
司法改革、いい方向に向かって欲しいものです。
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