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2010-07-21up
伊藤塾・明日の法律家講座レポート
2010年6月19日@伊藤塾高田馬場校
「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、
随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。
配偶者による子の『拉致』と闘う
家事事件の技術と倫理
講演者:後藤富士子
(弁護士、「みどり共同法律事務所」パートナー)
日本における離婚と単独親権制
法がもたらす悲惨な現状
「拉致」というショッキングな言葉が入った講演タイトルを見て「国際結婚・離婚におけるトラブルの話」だろうか、と思っていました。ところが離婚・単独親権の決定をめぐっての、国内における現在進行形の問題でした。弁護士らによる壮絶な闘い、当事者たちの苦悩と悲しみ、そして悲劇。これらの問題を解決するための民法改正私案と、法律家を目指す人たちへの提言が、後藤弁護士からありました。講演の一部をここに紹介します。
*
●日本は、「子どもの権利条約」を批准するも、離婚後は「単独親権」
民法818条3項は「婚姻中」のみ父母の共同親権としており、離婚後は父母どちらかの単独親権である(819条)としています。問題は、どちらを親権者にするかについて、父母の間の協議で決まらなかった場合、「裁判所が決める」とされていることです。裁判所がどちらを親権者にするかを決める際の基準は、「子の福祉」になりますが、そもそも二人いる親を無理矢理一人にすること自体「子の福祉」に反していると思うのです。
単独親権制は、「両性の本質的平等」と両立しないものであるのに、裁判所に「不平等」を実行させようとしているのだから、「おさまり」が悪いのは当たり前なのです。
ここで日本における「夫婦同姓」「単独親権」「親権」について、海外との比較で考えてみたいと思います。
ドイツは、「夫婦同姓」の強制は、「両性の平等」に反するとし違憲であるとしています。離婚後の「単独親権」は、「子どもの権利条約」(*)をドイツが批准した時、違反するとして、法改正されました。日本は、1994年に「子どもの権利条約」を批准しました。その際にも、共同親権への法改正は議論に上がりませんでした。
日本では、子どもがいる場合、離婚と同時に、親権者を父母どちらかに決めなくてはなりません。ドイツでも法改正前は同様でしたが、法改正により、離婚法(婚姻法)と親子法が切断され、離婚と子の監護養育問題は、別の手続になりました。離婚と子の監護問題を手続的に分離する法制度をとっている国では、離婚後も原則共同親権です。
*子どもの権利条約…「児童の権利に関する条約」とも。18歳未満の児童(子ども)の基本的人権を国際的に保障するために定められた条約。子どもが持つ権利を実現・確保するために必要な具体的な事項が規定されている。1989年の第44回国連総会で採択され、1990年に発効。日本は1994年に批准した。
●私が受任したあるケース
単独親権の日本では、離婚に伴う親権のトラブルは、以前からありましたが、最近特に相談が増えているのが、男性(お父さん)からのものです。ある日突然、妻が自分の幼い子を連れ去り、一方的に離婚請求を突きつけてくる。離婚原因がないのに、破綻を演出するなど、そこにはDV防止法の悪用などが見られます。そして親権者指定で合意ができないと離婚訴訟になるわけですが、「身柄をもっていれば有利」とばかりに離婚訴訟に突入するのですから、調停が形骸化。「夫婦同姓」や「単独親権」という現行法に対して疑問をもたない法曹(裁判官や弁護士)がマニュアル通りに「事件処理」するので、生身の人間が悲惨な目にあうのです。マニュアル弁護士にとっては、依頼者や家族の人生など関係ないのでしょう。つまり、「離婚ビジネス」になっているのです。
私が受任したある事件について少しお話します。依頼者Gさん(30代)は、三人のお子さんを持つお父さんで新聞記者でした。2007年9月、妻が「長女だけ連れて1ヶ月実家にいく」という約束を破り、長男・次男も連れて実家にもどりました。そして一方的な離婚請求です。Gさんは、子どものことを「命より大事」と言っていましたから、子どもと引き離されて「うつ病」に蝕まれていきます。
4回実施された面会交流の最後に、Gさんは長男と次男を連れて帰りました。すると、妻は、長男・次男の引渡しを求める家事審判と保全処分の申立をしてきました。子どもたちは「離婚して欲しくない」と切望しており、Gさんも「なんとか離婚は避けたい。夫婦二人で話し合って、子どもの願いはかなえてやりたい」という思いを答弁書に書いています。しかし、裁判所は、Gさんに子どもを妻に引渡すように命じ、保全執行がされました。子どもたちが抵抗したために執行不能になると、人身保護請求の申立がされました。裁判所は「人身保護命令」(*)を発令し、長男・次男まで失う危機に追い詰められました。
一方、Gさんは、別居中の長女(当時5歳)との面会を切望しました。「人身保護命令」が出された危機的状況にありましたが、それでもお父さんが末娘を思う気持ちを考えると、面接交渉の申し立てをしないではいられませんでした。しかし、裁判所は「却下」の決定をします。この報告を知ったGさんは、翌日自殺しました。
*人身保護命令…人身保護法の定めでは、何者かによって不当に拘束されている人がいる場合、本人もしくは第三者が、被拘束者の保護を裁判所に請求することができる(人身保護請求)。請求が認められると、裁判所は請求者、拘束者、被拘束者を集めての審問を開くことになるが、この際に裁判所が拘束者に対し、被拘束者を審問期日に裁判所に出頭させることを命じるのが「人身保護命令」。このケースでは、Gさんに子どもたちを裁判所に連れてくるよう命令が出たということ。
●民法改正私案
私が黙っていられない、と思うのは夫婦の紛争に子どもを巻き込んではばからない妻の態度であり、素晴らしい父子を迫害し奈落の底に突き落とした裁判官です。
妻にとっては悪い夫だとしても、子供たちにとっては良い父親だということはいくらでもあります。もちろんその逆もそうです。「単独親権」の争いは、子どもをめぐって父と母がお互いの人格攻撃をすることにもなります。それが果たして「子の福祉」にかなうことだろうかと、いつも疑問に思います。
改革すべき基本は、「単独親権」をやめることです。民法改正私案についてのポイントは、818条の3項:「父母の婚姻中は」という文言を削除し、819条を全文削除する、です。
***
■現行民法818条(親権者)
- 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
- 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
- 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
→ 改正民法818条(親権者)
- 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
- 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
- 親権は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。親権は、親の固有の権利であり、第834条(親権の喪失の宣告)及び第835条(管理権の喪失の宣告)の規定によらなければ喪失又は制限されない。
***
■現行民法819条(離婚又は認知の場合の親権者)
- 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
- 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
- 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
- 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
- 第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
- 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
→ 全部削除
***
「親子の引き離し」や「親子の絆の破壊」は、子どもの権利条約で明確に否定されていることです。「家庭的環境の中で養育される権利」が子どもには保障され、同時に「親の意に反して子どもと引き離されない」という親の権利も保障されています。
私は速やかな法改正と、司法がこの問題について、きちんと向き合ってくれることを、強く願います。
*
「マニュアル弁護士や裁判官ではない、
ひとり一人に対応できる法律家になってください。」
法律家の相手は、生身の人間である。
そして法律は万能ではなく、改正することができるのだ、
という当たり前のことを、今更ながら感じた講演でした。
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