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2010-07-14up

伊藤塾・明日の法律家講座レポート

2010年7月3日@伊藤塾高田馬場校

「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、 随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。

外国語を活かした法律家の道 〜中国語を駆使し、山西省・戦時性暴力裁判の弁護団に

講演者:川口和子氏(弁護士、「藍天国際法律事務所」所属)
1964年生まれ。弁護士。主な担当事件として、中国山西省性暴力被害者損害賠償等請求訴訟、フィリピン「従軍慰安婦」謝罪損害賠償請求訴訟、鹿島花岡中国人強制連行損害賠償請求訴訟、米国によるいわゆる「遺伝子スパイ」身柄引渡請求審査事件。2000年 女性国際戦犯法廷では、日本検事団長を務めた。

 弁護士登録をしてから5年後に北京大学に留学した川口和子弁護士は、「人に雇われるのではなく、自分がやりたい弁護士業務」をやるには、他の人にない技術や専門性を身につけることが必要と痛感し、留学を決意。そこでは圧倒的な語学力だけでなく、新しい人間関係をも獲得し、ライフワークと言える活動とも巡り会うことができた。「戦略」と「偶然」の積み重ねによって、現在の仕事のスタイルを築いた川口弁護士の講演をお聞きしました。

●中国留学で得た私のライフワーク

 私が弁護士になった1991年は、今よりも弁護士の世界はずっと狭い世界でして、そもそもは最初に「イソ弁」として入った弁護士事務所のボスとの折り合いが悪く、円満退職を装うには留学を口実にするのが一番良かったということもありました。そしてなぜ中国圏への留学だったのか、というと、第二外国語が中国語だったということや、英語を専門とする弁護士業務はM&Aにかかわる契約書業務が多かったのですが、そこにはあまり魅力を感じなかった、ということがありました。

 北京大学には2年半留学しましたが、仕事で使うための語学力を得るためには、2年以上の留学期間が必要かと思います。ただしこのぐらいの時間をかければ、誰でも語学力の習得はできます。それ以外にも獲得できたものとして、留学先で新しい人間関係を作ることができました。その人たちとは今でも交流があり、今でも仕事上の私のクライアントの手助けをしてくれます。 
 その他に、中国語を学んだお陰で、それまで想像していなかった仕事に関わることになりました。それは、いわゆる戦後補償裁判(戦時性暴力裁判)の被害者を支援する市民運動のグループの人たちとの出会いです。私はそれまで市民運動をやっている人とは関わりをもって来ませんでした。
 96年に、戦時中に中国山西省において起こった日本軍による残虐な拷問や強姦を受けた女性たちが日本政府を相手に裁判を起こす準備のための聞き取り調査を行うために、日本からある団体が訪ねていく、多少は中国語ができてしかも弁護士、という立場で同行してくれないか、と頼まれたのがきっかけで、関わるようになったのです。まったく「偶然」の出会いでしたが、それは私のその後の仕事についての考え方を決める、また方向付けをする、インパクトのある体験となりました。

●「中国山西省性暴力被害者損害賠償等請求訴訟」の担当弁護士として

 私は、彼女たちの話を聞いてその被害事実に圧倒されてしまいました。訴訟を起こした人は、16名(うち、私たち弁護団の依頼者は10名)いますが、それぞれの方の被害は全部違う。「村一番の美人で若い娘だったから被害にあった」という話になっている場合もありますが、そうではありません。美人であろうが、そうでなかろうが、若くても年をとっていても、みんなそれぞれのやり方で被害にあい、それぞれが堪え難い人生を送っているのです。
 やがて、日本政府に対して訴訟を起こす「中国山西省性暴力被害者損害賠償等請求訴訟」の担当弁護士として、日本政府を相手に訴訟を起こしました。 

 私は事前に「この裁判は100%勝てません。それでもこの裁判をやりますか?」と原告のおばあさんたちに聞きました。すると「それでも、歴史的事実関係の認定をして欲しい」と答えられました。
 裁判は、賠償金はゼロでいわゆる敗訴です。しかし一審判決においては、非常に詳しく「日本軍が慰安所ではなく山村の自分の家にいた女性たちを拉致し連日暴行をした」というような内容の判決を書いてくれました。
 この結果に原告の一人のおばあさんは、「これでようやく私の人間としての尊厳が回復できた」とおっしゃられました。私は、弁護士として判決で勝てなくても意味のある裁判、仕事があるのだ、ということをこの時学んだのです。

●外国語の技術と経験を活かし、ICCの会議に出席

 その後、この裁判を担当したことがきっかけで、「女性国際戦犯法廷」という民衆法廷の担当弁護士を務めたほか、日本国内の裁判所でも性暴力被害者の国家賠償請求などを担当するようになり、外国人である犯罪被害者と接してきました。そういう経験があったからでしょう、つい先日のことになりますが、日弁連から派遣されて、ICC(国際刑事裁判所)に関する国際会議に出席してきました。

 法律家を目指す皆さんには、「外国語を活かした法律家への道」というと、大手渉外法律事務所で知財やM&Aなどの契約監修を扱う弁護士のイメージが強いかもしれません。しかし、外国語を活かして、人の役に立ち世界に貢献する法律家になりたいと思っている皆さんに、もっと色々な切り口から「将来自分がなりたい法律家像」を考えていただきたいと思います。大手渉外事務所で働く以外にも、まだまだたくさん、外国語のできる優秀な人材が多く求められている場面があります。

 最後に宣伝になりますが、伊藤塾の2010年、中国スタディツアーに私も同行します。山西省の戦時性暴力被害者を訪ねお話をお聞きするほか、八路軍太行紀念館へも行きます。ここはガイドや展示も全て中国語なのですが、何度も訪れている私が通訳、解説しますので、より理解を深めていただけることと思います。

【参考資料】

中国山西省性暴力被害者損害賠償等請求訴訟:
地裁判決では請求は棄却されたものの、被害事実はほぼ全面的に認められ、日本軍による加害行為を「著しく常軌を逸した卑劣な蛮行」と断罪。立法的・行政的な解決が望まれる旨の異例の付言がなされた。高裁判決では地裁判決の事実認定と付言が再確認され、法律論でも論破したにも関わらず、国家無答責で敗訴となった。
http://www.wam-peace.org/jp/modules/suit/

女性国際戦犯法廷:
http://www1.jca.apc.org/vaww-net-japan/womens_tribunal_2000/index.html


wam 女たちの戦争と平和資料館:
http://www.wam-peace.org/jp/

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雇われるのではなく自立し、
なおかつやりたい「裁判」を担当するために
作り上げてきた「仕事」のスタイル。
実践的なお話は、法律家ならずとも、
いち社会人として役に立ち、
考えさせられるお話でした。 

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