イェダりんの“リベルテ”を探して!

雨宮処凛さんのコラムマガ9学校のゲストとしてもお馴染みのイェダりんことイ・イェダさんの連載コラムが、フランスから届きました! 果たして「亡命者」の日々は、楽しいのか? 大変なのか? そのリアルな生活を綴ってもらいます。コラムは、ハングルも同時併記していく予定です。
*ちなみにリベルテ(liberté)とは、フランス語で「自由」。フランス共和国の標語である「自由、平等、友愛」(Liberté, Égalité, Fraternité)の一つであり、その起源はフランス革命にあります。

(その5)

パリでの「アジア反戦大作戦」

 8月22日土曜日、「素人の乱」の松本哉さんからの「アジア反戦大作戦」の提案を、新しく出会った日本の友人を通じて受け取った。
 ちょうど高麗大学新聞から引き受けた良心的懲役拒否に関するインタビュー原稿を、26日の水曜日まで作成しなければいけないという状況と重なって、「一週間でデモを準備するのは時間的に慌ただしいな」という考えがまず浮かんだのは事実だ。
 
 何ができるだろうか。人はどれくらい集まるだろうか。
 一週間にも満たない時間しか残されていないなかで、大きなイベントが開けるとは思えなかったし、一人でデモをしようかとも考えた。しかし、憲法9条の解釈変更と集団的自衛権は日本での大きなテーマなので、パリにいる日本人に連絡をとれば関心のある人々が集まるだろう。デモ自体が失敗に終わるどころか、フランスに日本の状況を知らせるいい機会になるだろうし、人々との連帯の足掛かりを得られるかもしれない。パリに日本人のコネクションを作り、この間の示威行動にフランスも参加しているという様子を現地の日本人に示せれば、精神的な支持と連帯の雰囲気を伝えられるのではないか。こんないい機会を放棄したくはなかった。
 
 すぐに安保関連法案に関する記事を追い、具体的な情報を集め始めた。記事を読みながら情報を漁っていると、週末に会う約束をしていたブヌアさんから電話が来た。韓国の人権問題に関心があり、パリでたまに開かれる慰安婦問題解決のための水曜集会やセウォル号の追悼集会、そして最近では人権活動家パク・レグン(※)の解放要求の署名運動にも積極的に参加している人だ。

※米軍基地反対運動を発端にさまざまな運動を展開する人権運動家。「セウォル号事件」真実究明のための集会をしたという理由で拘束される。

 ブヌアさんには平和主義者で活動家であるフランス人や日本人の知り合いが多いことを思い出し、彼に今回の話を持ち掛けてみた。時間はいくらもないが、ブヌアさんが一緒にデモを開催してくれるなら、広報などを効果的に行える気がしたし、一人でせっせと準備するのには限界があるようにも思えた。日本の現状に対する大体の説明をブヌアさんにして、「うまくいけば(個人的な欲で)、韓国で展開されるパク・レグンの米軍基地反対運動などと今回の日本の問題とを“反戦”というコードでつなげて、それぞれがパリで連帯する機会を作れるかもしれない」とさりげなく唆してみたところ、彼はむしろ私よりも積極的になり、「そのデモは必ずやるべきだ!!」というような迫力で、むしろ未だにデモ申請を済ませていない私の背中を、プレッシャーを感じるほど押し始めた。

 ともあれ、頼もしい味方もできたし、最近知り合った日本の友人のコウキさんにも連絡し、デモ参加の意志を確認したあと、申請を行った。自分で申請方法を調べようとしたが徒労に終わり、モク・スジョンさん(フェミニストで韓国の社会問題に関心がある作家)の助けをもらいながらデモ申請を済ませた。木曜日に許可を受けるとすぐに、思い当たる人々に土曜日(8月29日)にデモがあるということを知らせ始めた。

 広報も準備もそれほどうまくできなかったので、今回のデモ自体には多くのことを望んではいなかったが、土曜日にパリで集会を開くことにしたということを、松本哉さんと雨宮処凛さんに伝えた。雨宮さんは、昨年日本に呼んでくれて、韓国の徴兵制批判のためにFCCJ(外国人記者クラブ)に招待してくれていた。
 二人は熱い反応を見せながら「有り難いことだ」と言ってくれて、さらには自分たちのイベントにビデオ通話で参加してもらえないかという提案までしてくれた。フランスと日本の人たちの連帯の媒介役を担えることがうれしい私としては、断る理由がなかったので、ビデオ通話でイベントに若干の参加をした。

イベント参加中。デモの許可証をカメラに見せているとき

 通話イベントが終わったあと、パリでのデモが5時間余り後に迫っていた。前の晩に未熟なフランス語でなんとか準備した演説原稿を、集会直前にブヌアさんが修正してくれた。そしてエッフェル塔の近くにあるトロカデロ人権広場に、準備したポスターを貼るために30分ほど早く到着。デモ開始時間になろうとするのに参加者がだれも現れず、これは結局ブヌアさんと二人っきりでデモをして終わるのではないかと不安になった。
 しかし心配とは裏腹に集会時間が直前に迫ると、“憲法9条を守れ”、“安倍政権打倒”、“集団的自衛権は必要ない”など、自身の意見を表明したポスターやステッカー、アクセサリーなどを持って日本の方々が1人、2人と集まり始めた。集会の数日前にお知らせをしただけなのに40人近く集まったこと、参加者が各自デモ用品を準備してきたことに驚きと感謝、そして、主催者としてマイクすら準備できなかったことに申し訳なさを感じた。とにかく準備不足で多くのことをできなかったが、私が準備した演説を合図としてデモが始まった。

写真に写っていない人たちも含め、約40人が集まった

 残念だったことは、準備不足のために、このデモを通じてフランスメディアに日本の問題を取り上げさせる機会にできなかったこと。その他にも、参加者たちからの意見などにも反省する点が多かった。実際、僕に「(旅行客しかいない)この場所をなぜ開催場所に選んだのか」と、マイクもない状況に不満をもらしたおじさんも一人いた。申し訳ない限りだ。
 しかし、初めてのデモにしては悪くなかったし、改めて機会を作って今回集まった人たちと今の日本社会の問題を議論するためのデモを一緒に準備しようという意欲も湧いた。「すぐにまた集まろう」という決意のもと、悔いは残るものの、デモはそれなりの成功を収めて解散した。社会問題に関心があるパリ在住の韓国の友人たちにこの話をすると、みな意欲を示しており、私は次の動きのために前回の集会の参加者と彼らが会う約束をとりつけた。これからどのような形で展開していくかわからないが、いい連帯の足掛かりになりそうだ。集会での私の演説をここに書き記し、筆をおきたい。

****

 今日のデモは、日本を発端としてフランス、韓国、香港、台湾、マレーシアなど世界各地で同日進行し、日本の憲法9条解釈変更に対して異議を唱え、アジアの平和を願うデモです。
 2014年7月、集団的自衛権行使を容認する閣議決定がされました。日本政府が「自国が存立危機に立たされている」と判断するならば、自衛隊は第三国への派兵を自由に行えるようになりました。日本を攻撃する勢力に対してだけ防衛戦争が可能である日本の平和憲法9条に対する解釈変更です。
 最近この動きに対して、戦争を経験した世代の日本市民たちだけでなく、若い学生たちも猛烈に反対をしています。派兵を通じて意味のない戦争に参加する可能性と、日本が戦争に巻き込まれることに対する反発です。“存立危機”という曖昧な言葉だけがあるのであって、派兵に対する具体的な基準がないからです。
 多くのアンケートでも、「安保関連法案採決に先立ち政府による説明が十分なされているか」という質問に、国民の80%以上が「集団的自衛権に対する具体的な説明が不足している」と答えています。この7月16日、衆議院で集団的自衛権に関連した実質的には11もの安保関連法案に対する採決があり、同じ日の午前10時から、国会前には300人が集まって監視と反対の意味で抗議集会を行いましたが、集団的自衛権を押し進める連立与党の議席が評決の過半数以上を占め、多数決によって午後2時に法案を“ひったくり通過”させてしまいました。これに日本市民たちの反発はさらに大きくなり、この日午後6時以降には、抗議集会に2万人以上の人々が集まって反対の声を上げました。
 東京新聞が最近、大学で憲法を教える教授を対象にアンケート調査をした結果、回答者の90%がこれらの法案は違憲だと答えています。本秀紀名古屋大学教授など、安保関連法案に反対する憲法学者たちは、この法案の問題点を知らせようと各地の市民学習集会に講師を派遣することを決定し、8月12日現在で、学者57人が反対の声を表明しているなど、専門家たちの動きもあります。国民の反対意見を無視し、安保関連法案をきちんとした基準無く通過させる政府なら、国民の意見を聞かないで国際関係のための派兵に日本の軍隊が利用されることは明らかです。
 私は徴兵制国家である韓国から来ました。韓国はベトナム、イラク、アフガニスタンなどの戦争に、国際関係だけのための派兵で戦争に参加しました。自国を守る基準が明確に法律で規定されていないと、いつでも戦争に参加が可能だというよい例です。他国への派兵は過ちであったという判断に基づいた徴兵拒否を理由に、フランス政府から私に難民資格が与えられました。
 今、日本市民たちは自分たちの権利を勝ち取るために声を高めています。ここに、私たちが賛同しなければならないと思います。戦争のせいで人を殺す記憶、家族が戦争の被害者であることを憶えている世代の日本人たちは、みな口をそろえて「戦争は絶対におこしてはいけない」と言います。「自分と同じような経験を今の若い世代にさせてはいけない」とおっしゃる人たちと直接会って来ました。
 日本の安保関連法案による他国への派兵や戦争を望まないと、明日も国会前で大きな集会があります。衆議院を“ひったくり通過”した安保関連法案を撤回させるためです。この法案の撤回に賛同してくださる方は、私たちが準備した嘆願書に署名をお願いいたします。この嘆願書は日本に届けられる予定です。
 

 

  

※コメントは承認制です。
(その5) パリでの「アジア反戦大作戦」」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    最後の写真で手にしているプラカードに書かれている「OVERSEAs」は、「安保法制に反対する海外在住者/関係者の会」のこと。ニューヨークなどでも安保関連法案への抗議活動が行われています。戦争や徴兵、政治と市民の関係など、どれも日本だけの問題ではありません。国を越えた市民のつながりが、これからさらに広がっていく予感がします。「アジア反戦大作戦」の日本や各国での様子は、松本哉さんのコラム第87回第88回、雨宮処凛さんのコラム第348回でも詳しく紹介していますので、こちらもあわせてご覧ください。
    なお、今回の原稿は、安保法制が成立する前に届いていたのですが、翻訳が間に合わず、掲載が遅くなってしまいました。申し訳ありません! しかしこれらの動きはこれで収束するわけではなく、ますます熱を帯びて広がることでしょう。これからも注目です。

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イ・イェダ(LEE Yeada)1991年韓国・仁川生まれ。17歳の頃から韓国社会に疑問を持ち、集会などに時々参加。韓国の専門学校で日本語を学んだ後、2012年、入隊2ヶ月前に単独でフランスに亡命し徴兵拒否。ベーグル職人を経て、現在はフランスでの就学を目指している。パリ郊外に居住

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