雨宮処凛さんのコラムやマガ9学校のゲストとしてもお馴染みのイェダりんことイ・イェダさんの連載コラムが、フランスから届きました! 果たして「亡命者」の日々は、楽しいのか? 大変なのか? そのリアルな生活を綴ってもらいます。コラムは、ハングルも同時併記していく予定です。
*ちなみにリベルテ(liberté)とは、フランス語で「自由」。フランス共和国の標語である「自由、平等、友愛」(Liberté, Égalité, Fraternité)の一つであり、その起源はフランス革命にあります。
(その3)
ベーグル店での初日
前回のコラムで紹介した、フランス語を教えてくれたエマニュエル先生は、私だけではなく、他の国から来たたくさんの人たちの話にも注意深く耳を傾けて助けてくれる。心を開いてみんなの話を聞いてくれるので、彼女は多くの人に慕われていた。
まだ私が仕事につく前、彼女が休暇で家族と家を空ける間に、私に留守番を頼んだこともあった。そのときに守るべきルールは、「彼女が育てている植物に水やりをすること」だけ。
難民申請時から約1年の間、115とFTDAが運営する宿泊所ではつねに誰かといたので、一人きりになるのは久しぶりだった。わずかな時間ではあるが、久しぶりに取り戻した、誰にも邪魔されない自分だけの時間は、ただそれだけで幸せだった。日本のスタジオジブリのアニメ『猫の恩返し』にちなんで、エマニュエル先生の子どもたちがハルと名付けた猫が一緒だったけれど、猫好きな私はむしろ楽しかった。私はハルと遊び、映画を観て、裏庭で日差しを浴びながら昼寝をし、料理を作って食べ、楽しく過ごした。
そして、エマニュエル先生の家族が休暇から戻った日から、私はFTDAで紹介されたベーグルの店で働き始めることになった。韓国ではアルバイトの経験があったが、フランスで働くのは初めてだった。初日は9時間ほど働き、昼食の時間をもらった。特に用事もなかったので、食事を終えてすぐに仕事に戻ろうとすると、30分間の休憩をちゃんととるようにと言われた。フランスではこんな小さな家族経営の飲食店でさえ休憩時間が守られていることを知り、すごく驚いた。
ベーグル店で休憩
ベーグルサンドイッチとブラウニー
韓国でアルバイトをしていたときは休憩時間があることも知らずに働いていたし、韓国で正社員としてパン屋や飲食店で働く友人たちからは、休憩時間が守られないことがとても多いと聞いていたので、対照的に感じられたのだ。
その日は仕事が終わった後、家の鍵を返すために休暇から戻ったばかりの先生を訪ねた。仕事中に30分休憩をもらえたことを話すと、先生が「9時間働いたのなら少なくとも1時間は休憩時間をくれるべきなのに、ひどい」と言ったので、さらに驚いた。韓国人である私からすれば30分の休憩もありがたく感じたのだが、フランスの常識からすれば、長くお客さんの相手をしなければならない飲食店の仕事に見合った休憩時間ではなかったわけだ。
実は、私が働いていたベーグル店では、休憩時間を含めていくつか守られていない点があったようだ。それは、公休日に通常の時給で働くこと(フランスでふつうの店が公休日に開店するには、職員に倍の時給を支給しなければならず、さらに開店できる日数も決められている)、店のベーグルが支給される代わりに月給からその分のお金が「食費」として引かれること(おいしいけれど、ベーグルサンドを毎日食べるよりは、食べたいものを食べられるようお金をもらえるほうが、はるかによい)などなど。
でも、難民資格を取得したことでFTDAが運営する申請者のための宿泊所からすぐに出なければならなくなった私には、仕事が必要だった。ベーグル店では労働者としての権利がちゃんと守られているわけではなかったが、それでも給料は確実に受け取れた。一カ月もかかってやっと見つけた仕事でもある。このことについては、働きながら店長のヨハンさんにゆっくり掛け合っていこうと思った。
今回は、難民申請が下りて、働きだしたころのエピソードです。
「休憩時間が守られていることに驚いた」というイェダくんに、逆に驚きました。日本でも休憩時間が守られていない職場がないとはいえないので、韓国と変わらないのかもしれませんが…。労働環境、労働法がどの程度守られているのか、国によってどれくらい事情に違いがあるのでしょうか。そして、店長との交渉はどうなったのか、この続きが気になります。