東京での暮らしを後にして、故郷である滋賀県米原市にUターンした渡部秀夫さんと優さんのご夫婦。自分たちの足もとを見つめながら、地域での新しい交友関係を作り、場づくりに挑戦しています。そんな暮らしの日々から考えたことを綴ったり、またそこで知り合った人たちや面白い試みについても紹介していくコラムです。不定期掲載でお送りします。
第1回
「建具はつくっておりません」
はじめまして。渡部建具店です。
私たち渡部建具店は、滋賀県米原市にある建具屋の息子「秀夫」と、そこへ嫁いだ妻「優」の2人で先代までの屋号を借りて、人が集い、考え、話し合える”場づくり”を中心とした活動をしています。ちなみに建具はつくっておりません。
私たちの暮らす米原市柏原という地域は、多くの”地方”と呼ばれる地域同様、困難な状況に直面しています。しかしそんなこの地域も、昔は宿場町として、岐阜と滋賀を繋ぐ交通の要衝として栄えたという歴史があります。中山道沿いの街並みは今も昔の面影を多く残し、周辺を囲む山々や自然は四季折々の表情を見せてくれる、とても魅力あるところです。JR線の駅があったり、高速道路のインターチェンジからもほど近いなど、外部からのアクセスも良く、地域の持つポテンシャルは非常に高いと言えます。それでも、過疎への不安はじわじわと迫って来ていて、この状況に危機感を持ち、動き始める人々もポツポツと出てきました。
私たち渡部建具店もそのうちのひとつです。自分たちがつくりだす「場/ば」を「間/ま」と呼ぶことにし、これまでに上映会の間、対談の間など、私たちが今大事だと思うことに沿ったコンテンツを用意して発信し、それについてみんなで話し合える場を提供してきました。
具体的には、『六ヶ所村ラプソディー』上映会、『パワー・トゥ・ザ・ピープル』上映会、佐伯剛氏(風の旅人編集長)と大村治氏(本徳寺住職) による「対談の間-変わらぬもの-」、IKTTクメール織物研究所・森本喜久男氏による「報告会 2013 滋賀」などです。
間近では12月7日(土)に松本英揮氏にお越しいただいて「自転車で世界を旅する英揮さんの環境とまちづくりのお話し」を開きます。
私たちは、今の社会、情報、お金、時間の流れにのまれずに、人が人としてこの地球環境の中で生きるのに本当に大切にすべきことは何かを、まずは自分たちがしっかりと見定め、足元を固めていくことを意識的にしています。そんな自分たちの思いをシェアし、日本の現状を変えていく動きに繫げていくためには、人々が世代や立場をこえた1人のヒトとして他人と“対話”していくこと、それによって生まれる気づきや動き、繋がりが、重要なのではと考えています。これまでに行った4回の“間”でも、少しずつですが着実に想いある人たちとの繋がりが増え、新たな動きが生まれています。ヒト・モノ・コトが有機的に繋がる社会へ。時間をかけて着実に歩みを進めていきたいと思います。
そんなことを考えつつ…このコラムでは、私たち「渡部建具店」のコンテンツの他、この場所で出会った面白い人や場所の紹介もしていきたいと思っています。今回は、二つの場所を紹介します。
「古ゞ屋」さんの取り組み
ここ柏原で活発な動きを見せているのが、古民家の活用をメインの目的に掲げ、中山道沿いの古民家で活動をスタートさせた古ゞ屋さん。
音楽家やヨガ講師、公民館職員など、それぞれが違った専門や職を持つ、県内の30~60代の男女6人のグループで活動されています。6人は淡海ネットワー クセンター(大津市)の「おうみ未来塾」の12期生で、地域活性化の方策を共に学ぶ中でこのグループを結成し、この夏から本格的に柏原での活動を開始しま した。
古ゞ屋さんの拠点になっている古民家は、14年間空き屋だった築85年の木造2階建てを、地元区長の力添えで家主から無償で借りたもので、この夏にメンバー全員でリノベーションをし、さっそく地元の夏祭りへ出店。それ以降も積極的に地域のイベントに参加したり、古民家を活用できる企画を募ったりしながら、使われな くなっていた古民家を再び生きた場として蘇らせるための活動を行っています。
古きを繰り返していきたいと、「繰り返し」を意味する「ゞ」を使い、「古ゞ屋」と名付けられた屋号の発案者はグループ副代表の長阪静さん。「一般的に古民家と呼ばれる建物は日本全国に49万戸あり、そのうち約3割が空き家になっているのではないか」と長阪さんは言います。
消費型建築社会では、「家は長持ちすべきではない」というのが基本。現代の建築業界では業界の利益のために1世代(約40年)の間だけ保つ家を推奨しています。安い外材は気候の温暖なところであまり時間をかけずに太くなった木々で、腐り易く保ちも悪いが、その方が業界側にとっては都合が良いのだそうです。しかしいわゆる古民家(ここでは主に戦前に建てられた民家)が建てられた当時の建築職人は、2世代(約80年)以上保つ家を基準に考えており、建材は寒暖の激しい気候により細かい年輪を重ねながら育つ日本の木の中から樹齢70~80年の木を使用するのが基本でした。実際に、古ゞ屋が今使用している古民家は 築85年ですが、現在でも柱、梁など家の基本的な構造はしっかりとした強度を保っており、且つ家の中全体に時の流れを感じさせる自然の風合いや、どこか懐かしいような独特の落ち着いた雰囲気があります。
つい先日、古ゞ屋は協働事業提案制度 * の審査を通過し、来年4月から資金面等で市からのバックアップを受けられることとなりましたが、来春まではグループのメンバーは、手弁当で活動していくことになります。
寒さの厳しい柏原の冬、「春の本格始動に向けての準備期間として、気を引き締めて乗り越えたい」と古ゞ屋メンバーの方は言います。信念をもって取り組みを続ける姿勢に私たちも感化され、背中を押されています。このような本当の意味での草の根の動きが、地域の、自分たち自身のこれからを変えていくことになる のではないでしょうか。
*米原市が市民主導の町づくりを目指して、地域の活性化に貢献すると認めた企画を市をあげて応援していく制度。
「伊吹山スロービレッジ」さんとの出会い
日本や世界の有り様に疑問や失望を抱き、異を唱える自分自身は、はてどこに立っているのか。自身がその異を唱える社会そのものではないかと思いつつも、そこから降りられず悶々としていた日々に、自分がこうありたいと思う生き方をしているヒトに会いに行き、また書を読みあさる中で出会い感銘を受けたのが、百姓菩薩と呼ばれた松井浄蓮師の『終わりより始まる』でした。* 師は土に根ざした日々の暮らしからモノゴトの理を得られます。自分もその眼差しを持てるようになりたい。四の五の言わず、まずは同じように田畑を耕し自然と向き合うのだと思うに至りました。
そんな田んぼ作りへの想いを実現させてくださったのが、家から車で15分の所にある「伊吹山スロービレッジ」です。オーナーである嶋野ご夫妻は、大阪から滋賀県湖北地方にある伊吹山の麓へ越してこられ、4年程前からここで自然栽培をされています。
始められた理由を尋ねると、「心の平安は食べるものを自ら作れるようになるということで得られる、といった考えに至ったから」と返ってきました。
ご夫妻の見つめる先がまた面白いのです。例えば、
- 棚田に水を運ぶ山の湧き水を利用しての小水力発電でEV化(電動化)した農機具や軽トラを使用する。
- 山ごとにその土地の再生可能エネルギーを活用したEV充電設備を設置して里山を結ぶ。
- 自然栽培の作物を使ったレストランを作り、宿泊もできるようにする。等々。
棚田には自ずと自分の歩幅で歩くヒトが集ってきます。十数年来、耕作放棄地だったその棚田を「宝の山」と呼ぶ夫妻が創るものは作物だけでなく、社会的包摂に必要な緩やかなつながりの場でもあります。
田んぼづくりを開墾から収穫まで一通り手仕事でさせてもらったことで、「想定外」なんて言葉は「ヒトは大抵のことを掌握できるようになった」とでもいうような思い上がりの傲慢さであると肌身で感じるようになりました。
一粒の米が茶碗一杯分の米になる。人間が農耕を始める前から当たり前にある本質に触れられたこと、命を育むということを体験できたことは、これから子を授かるかもしれないぼく達にとって大きな意味をもたらしました。
現代社会において地方で自然とヒトと向き合い生きることは、片側に振れ過ぎた振り子が元に戻ろうとするその先端にいることを意味すると捉えています。
* 松井浄蓮師が創設された麦の家の機関誌「萬協」創刊号に寄稿された「創刊の辞にかえて」を個人的ブログにアップしてあります。
大都市への一極集中が進み、地方は「寂れている」「元気がない」なんて言われることもありますが、その中でもいろんな試みを自由にスタートさせている人たちがたくさんいるよう。その一端を知ることで、ちょっと元気やヒントをもらえるコーナーになればと思います。「うちの地域ではこんなことやってる」「こんな面白い人がいる」なんて情報も、ぜひコメントでお寄せください。
面白いっ! これ。
第1回目から百行を超える文章を書くところが素晴らしい。伝えたいことが沢山あることがよくわかります。
そうだ、(京都の隣の)滋賀に行こう!
行ってみたいです!!
建具も作って欲しいけどな〜(笑)。