東京での暮らしを後にして、故郷である滋賀県米原市にUターンした渡部秀夫さんと優さんのご夫婦。自分たちの足もとを見つめながら、地域での新しい交友関係を作り、場づくりに挑戦しています。そんな暮らしの日々から考えたことを綴ったり、またそこで知り合った人たちや面白い試みについても紹介していくコラムです。不定期掲載でお送りします。
第9回
グローバリズムの処方箋
ご無沙汰しております。
稲刈りを終え稲架かけした稲を猿に食われ今年も獸害に頭を悩ます日々です。
今回は、渡部建具店がいくつかおこなっている取り組みを紹介させていただきます。
あいをよる おもいをつむぐ
11月の頭に「うさとの服展+プチマルシェ」というイベントをおこないました。
うさとの服は、タイ・チェンマイを拠点に製作されています。服に使われている布のほとんどは、村の女性たちによる手紡ぎ、天然染め、手織りです。
創設者のさとううさぶろう氏は自著『あいをよる おもいをつむぐ』で「流行を追うことはしない。本質を服にしている」と綴っておられます。
イベントの始まりは、彦根にある、古本とデザインのお店「半月舎」さんでの立ち話でした。
どういう流れでかは忘れましたが、「うさと展を開けたらいいな」と話したことを舎主の七菜さんが覚えていてくださり、その想いをうさとジャパンの方に伝えてくださったことで、今回のうさと展開催につながりました。
イベントは自宅の一部を開放しておこないました。
服の展示は2階、1階では小商いをしている友人たちに出店してもらいプチマルシェを開催しました。
イベントは二日間にわたり、出店者さんも異なります。
1日目
・佐々木文具店さん
・ゴマシオ堂さん
・ピネル工房さん
・うぐら食堂さん
2日目
・山のごはん よもぎさん
・あやべとうふ店さん
どの出店者さんも丁寧な暮らしを大切にされている魅力的な方々です。
小商いをしている友人たちの手づくりのお菓子は、普段から私たちのお店に置かせてもらっています。こだわりの素材で、作った人がわかり、安心して食べられる、何より美味しいお菓子。そういった食べ物を手にする機会が増えると、犠牲の上に成り立つ社会構造から、持続可能なこれからへと移っていけると信じています。
2日目には、ギャラリー八草さんによる「金継体験ワークショップ」も開催しました。金継とは、割れたり、かけたりしてしまった陶磁器を漆で接着し、接着部分を金で装飾して仕上げる日本古来の修復技術です。
参加してくださった方のコメントを下記に一部抜粋します。
古くてもう捨てようと思っていたものに息を吹き込んだ時、何より自分で直すことで、そのものの思いが自分の中で変わっていく。金継によって、自分の作品になるようなそんな思いになれました。
イベント終了後にうさとスタッフの方が、次のようにおっしゃっていました。
「今の時代は、いい情報、悪い情報がいっぱいあります。皆と発信したいのは、明るくていい情報です。私たちの小さな活動が、世界平和に繋がっていくと信じています!」
私たちも同じ想いです。そして、小さな活動でなければ、「本当に豊かな暮らし」には繋がらないと思います。一見大きすぎる難題も、それで私はどうするのか? と自問することで、すぐに始められる日々の暮らしの選択を考えることができます。
私は種を蒔き、愛でて、育みます。
私は友人が丹誠込めて作ったお菓子を買います。
私は良好な関係の中で作られた服を永く着ます。
情報に溺れ、疑心暗鬼になり、恐怖に目を閉ざして本質を見失いたくはありません。
小さな映画館
9月から自宅で「小さな映画館」をはじめました。
「人と人をつないで世界の課題解決をする」ことをミッションに掲げるユナイテッドピープルの作品を主に上映しています。
映画を介した新たなつながりが、私たちだけでなく、その場にいる全員に生まれることを魅力に感じています。
小規模で少人数だからこその利点なのですが、参加者が0人ということもあります。大きくしっかり儲けようとは思っていませんが、参加していただけないと何もうまれません。
しかし、そう思いながら回を重ねるうちに、いつの間にか「赤字にならないだろうか?」ということばかりに目が向いていることに気が付きました。つまるところ、ヒトではなくお金に目が向いていたのだと。
赤字は困ります。しかし、私たちが本当に大切にしたいものは何かを忘れてはならない。
そう気付かせてくれたのは、広告に踊らされてではなく、自分の意志で選び、貴重な時間とお金を使って上映会に足を運んでくださる人たちの存在です。
私たちはうろたえることなく、どっしりと構えていれば良い。足掻くところを間違えてはならないと思いました。
お客様が1人だったとしても、その人が居心地悪くないよう努めること、映画を楽しめる環境を整えること、感想を共有できるように再生確認と合わせてしっかりと映画をみておくこと、沢山人が集まるようになったから挨拶や運営をしっかりするというのではなく、ただ1人の参加者だったとしても、こちらの対応は丁寧さを欠いてはならない、手を抜かない、来てくださったことへの感謝を表すこと、早急に結果をもとめないこと、作物を育てるように渡部建具店も育てるという向き合い方をすると、きっと然るべき姿に育ってくれる。
そんな当たり前のことをあらためて思います。
こんな学校あったらいいな
学校をつくりたいという、大雑把で抽象的な想いから始めた「育みの場づくり」(第4回参照)も少しずつ実現へのつながりが生まれてきていると感じています。どういう形になるかわかりませんが大切に育てていきたいです。
(山のごはん よもぎさんの紹介リーフレットを渡部建具店で作らせていただきました)
ようやく忙しい稲刈りの時期が終わり、ということで久しぶりの渡部建具店でした。ネットワークの広がりとともに、いろんな可能性に満ちた取り組みがゆっくりと動きつつあるようです。食べるもの、着るもの、使う道具…その一つひとつをどう選ぶかが、実は自分がどう生きるか、そしてどんな世界に行きたいかにつながっている。そんなことを考えさせられました。