渡部建具店の日々

東京での暮らしを後にして、故郷である滋賀県米原市にUターンした渡部秀夫さんと優さんのご夫婦。自分たちの足もとを見つめながら、地域での新しい交友関係を作り、場づくりに挑戦しています。そんな暮らしの日々から考えたことを綴ったり、またそこで知り合った人たちや面白い試みについても紹介していくコラムです。不定期掲載でお送りします。

第5回

おかあちゃんに学ぶ草の根自治

 前回のコラムで取り上げた「信楽のおかあちゃんズ」。その内の一人、たーさんに会うため、たぬきの置物で有名な信楽へ行ってきました。

 およそ2年ぶりの再会となるたーさんと知り合ったきっかけは、自転車で世界を旅して目にした優れた取り組みを日本各地で講演して紹介する松本英揮さんからの紹介です。その時たーさんはどっぽ村の大工さんとセミ・セルフビルドで家を建てている最中でした。
 完成した家は木がふんだんに使われ、木製建具の二重ガラス、薪ストーブ、太陽熱温水器と、環境に配慮し、開放的な作りでなんとも居心地が良かったです。トイレには日本国憲法前文の版画が飾ってありました。素敵!

 信楽のおかあちゃんズは特段、団体として存在しているわけではなく、仲間同士のゆるーいつながりで、メンバーは15名ほどだそうです。10数年前に、「なちゅらる・まま」というグループを手伝ったことがきっかけで始まりました。

 『六ヶ所村ラプソディー』『HOME』といった映画の上映会を、たーさんが仲間と開催した後に起こった3・11東日本大震災。原子力発電所の危うさ、安全神話の嘘、無関心の怖さを知るたーさんは、原発事故への危機感に対する周囲との温度差を感じることとなりました。
 しかし、「何かしたい。動かなければ」と3月15日には仲間を集め、「アースデイしが 7.03」を7月3日に実施。そして、その会場でおこなわれた鎌仲ひとみさんと田中優さんの講演会の模様を収めたDVD「まずは知らなきゃね DVD勉強会セット」を発売されました。

 その後フリーペーパー「あすのわ」を発刊。原発や政治といった重く堅苦しいイメージのあるテーマを、可愛らしいイラストを用いることで手にとり易く、読みやすいように工夫されています。オーガニック&つながるマーケット・しがも、定期的に開催。おかあちゃんズの子どもたちも、自分たちだけでミニコミ紙「落下星新聞」を作るようになりました。

 そして、2014年7月の滋賀県知事選挙を機に始められたのが、「くらしとせいじcafe」です。その背後には、活動をしていく中で感じた「何万筆と署名を集めても動かない。何万人が集まって声をあげても聞いてももらえない。政治家を自由にしていては変わらない。私たちが手放してきた政治に、私たち自身が主体的に関わらなければ」という想いがあるそうです。

 たーさんは「日本は素晴らしい。自然は綺麗だし、どこに行っても良い人がいる。あとは政治だけ。こんなに良い国を活かせない政治をしているなんて、もったいない」と言っていました。ぼくもそう思います。
 来月24日にある、アースデイしが2014で、たーさんは実行委員長をされます。開催に向けての挨拶にはこう記されています。

「政治や環境問題、自分たちの『日常』を自分たちの手で守ったり取り戻したりしながら、つながりを深めていく。 そしてそこから、ひとりひとりが『自分ができることの一歩を踏み出すきっかけの日』にできたら、『毎日がアースデイ=日常』になっていく」

 来春の統一地方選に向けて「今回のアースデイをきっかけに選挙に立候補する人が出てきたらいいな」と語っておられました。そしてジェンダーバランスが是正されるべく県内各市から女性候補者が出ることを願いながら。

 大阪出身のたーさんは信楽に魅力を感じて移住されました。

 「地方は現場。中央と地方の間にある温度差は、管理者と現場の温度差と通じるのではないか。お互い批判し合うのではなく、恊働して社会を作っていくのが大切だと思う。自ら動くことで、どんどん周りの人が協力してくれるようになった。自分の住んでいるところでつながり、それはきっと同時多発的に全国で起きていて、気付けば各地でつながっているはず」

 こうしたボトムアップな草の根の力は、インターネットという口コミ道具の活用と共に広がり強くなっていることを実感します。
 それと、「地方で活発に動いている人はなぜかよそ者ばかり」という発言が印象的でした。たしかにぼくも身に覚えがあります。

 これまでの非日常を日常に、今すぐできることはすぐそこにある。おかあちゃんズの元気をもらって帰りました。

おかあちゃんズ。左端がたーさん

最近のアレコレ

■住み開きを始めます。
老若男女、障害のあるなしにかかわらず、ヒトが集う場を作りたいとずっと言ってきました。ソーシャル・キャピタルを生み出すソーシャル・アソシエイションを具体的な「家」という建造物で作り、ヒト・モノ・コトのHUBとしたいです。
10月25日に布オムツワークショップ、11月22日に友人のコンサートを開きます。11月29日は久しぶりに「間」をおこない、NPOいきはぐの征矢里沙さんにお越しいただきます。子どもが主体で、多様性を認め合い、子どもが本来持つありのままの姿を大人が阻害することなく見守り、共に育つ。そんな場をつくりたいと思っています。

■11月9日 米原市環境フォーラム2014
ハッピースローライフフェスがあり、ぼくたち渡部建具店も実行委員として関わらせてもらっています。今年は基調講演だけでなく、フェアトレードやオーガニック、手づくりといった、丁寧な暮らしを大切にしているお店に集まってもらうことで、大量生産、大量消費といった消費されていく文化とは違った、 ヒト・モノ・カネの在り方を体感できるような、そんな場にしたいと思っています。出店もおこないます。
IKTTクメール伝統織物研究所の絹織物を中心に、書物や手づくりのラッピングペーパーを販売いたします。

■11月24日 アースデイしがに米原チームとして出店
映画『標的の村』上映会もおこなわれるので、多くの滋賀県人に観てもらえることを願っています。

■マガ9でコラムを書かせてもらえる機会をいただきながら、「なんの為に書くのか、書く意味とは」という自問がありました。しかし、前回の投稿後、くらしとせいじcafeの当事者の方が「マガ9に掲載されて嬉しい!」とSNSでつぶやいているのを読み、書くことの意味を感じることができました。
魅力的な人たちを取り上げること、それが応援になるならせっかく頂いている機会を活かしていきたい。それは心地良い暮らしを創っていく追い風となる、そう信じたいです。どんどん面白い人を紹介することで、地方の魅力を知ってもらうことになる。それは地方で生きることの魅力と同義だと考えます。

『知らずに食べていませんか? ネオニコチノイド』のカバーイラストを書かせていただきました。仕事をいただいたきっかけは、このマガ9コラムを担当の方が読んでくださっていたからです。嬉しい驚きでした。

 

  

※コメントは承認制です。
第5回 おかあちゃんに学ぶ草の根自治」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    なんとも楽しそうな、おかあちゃんズの写真。元気をもらったという渡部さんの言葉が実感できるようです。日本全国でこうして声をあげ、行動している人たちがいるのは頼もしい限り。仲間を集めて、今すぐできることから一歩ずつ取り組んでいくことの大切さを感じます。

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渡部建具店

渡部建具店: 2013年6月から活動開始。琵琶湖の近くで暮らす秀夫と優の夫婦で、秀夫の先代までの屋号を用いて「間」と称した場づくりを主におこなっている。現在までに「上映会の間」「対談の間」など、その時々で自分たちが向き合いたいモノゴトを取り上げ、ヒトが集い対話することに重きを置き、目の届く範囲を大切にしながら自分たちの歩幅で活動している。他にデザインや車椅子利用者の旅のお供なども。建具はつくれません。 ホームページ

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