渡部建具店の日々

東京での暮らしを後にして、故郷である滋賀県米原市にUターンした渡部秀夫さんと優さんのご夫婦。自分たちの足もとを見つめながら、地域での新しい交友関係を作り、場づくりに挑戦しています。そんな暮らしの日々から考えたことを綴ったり、またそこで知り合った人たちや面白い試みについても紹介していくコラムです。不定期掲載でお送りします。

第4回

この手にとりもどしたいもの

 田植えも終わり米づくりが一段落つきました。今年は家族が一年食べられるだけの米を育てています。
 「買う」という行為はカネと目的の交換でしかないと思いますが、「つくる」という行為は不確かなものを前にしての畏敬と祈りがあり、一回性であるイマ、ココの質の豊かさが産まれることを米づくりを通して知りました。

稲の花。稲作日記

 田んぼ仕事の最中にあった滋賀県知事選挙から早1ヶ月が過ぎました。
 7月13日。「卒原発」などを訴えていた三日月大造氏が、自公推薦の候補を抑えて当確となった時は大変嬉しく、また、安堵したことを覚えています。そして、「これからだ」と自分自身に言い聞かせたことも。
 選挙公約を知事を批判するための評価表とするのではなく、それが現実となるように自分は何をすべきか、何ができるかを考えたいと思いました。そして、そういった想いを抱いた人が周りに多かったというのも今回の選挙での印象です。

 この選挙からは、日々の暮らしの大切さをしみじみと感じました。
 その理由の一つに、候補者を限定することなく投票率向上にむけてすぐに動き始めた「信楽のおかあちゃんズ」があります。投票を促すかわいいデザインのポスターやチラシを、ショッピングモールや幼稚園の前で音楽を奏でながら配布したり、政治のことをおしゃべりする「くらしとせいじcafe」を開いたりと、常日頃からのつながりがあるからこそ可能な行動の速さがありました。このつながりの豊かさこそが暮らしやすさにつながり、選挙期間中にだけSNSで投票を呼びかけることよりも普段の暮らしが大切であることを再確認しました。

 前知事である嘉田由紀子氏の不出馬ということでますます日本社会におけるジェンダーバランスが気になるところから始まった今回の選挙ですが、命の尊厳の元に草の根の自治を謳う三日月氏が当選したことにより、このところより強引さを増していた中央集権型社会への回帰に待ったをかけた形になったという手応えを得ました。
 しかも、数の力を利用してきた相手候補に勝ったことは、数量的価値観に縛られた社会への有権者の反発と、反発だけではなくこれからは自分たちが社会を作っていく主体であるという宣誓にも思えました。この知事選で見えた草の根というボトムアップの社会の芽を大切にしたいです。

かみさまとのやくそく上映会イラスト

 10月5日(日)、映画『かみさまとのやくそく』の上映会を地域の古寺である成菩提院でおこないます。織田信長や豊臣秀吉といった方々も宿坊に使い、鎌倉時代は天台宗の談義所(学問所)として繁栄した場所です。
 散歩中に本堂を見て、ここで上映会を開かせてもらえないだろうかと思い立ち、ご住職に相談してみたところ快く承諾してくださいました。地域にある資源を現在に活かし、そこからまた何か生まれるといいな、と思います。

 11月9日(日)、「米原市環境フォーラム2014」という、米原市が市民の環境意識を高めることを目的として毎年開催しているイベントが開かれます。ぼくも市民実行委員として関わらせてもらっています。
 今年は基調講演に、自転車で世界130ヶ国を巡り各地の優れた取り組みを日本全国で紹介しておられる松本英揮さんをお呼びし、会場にはオーガニック、フェアトレード、手づくりといった、丁寧な暮らしを大切にされているお店が集います。昔から東西交流の地であったこの辺りで、現代の東西交流を体現したいという狙いがあり、市内だけでなく県内各地はもとより他県のお店にも出店の声をかけています。是非お立ちよりください。
 また、我こそはという方の出店もお待ちしております。つながりましょう。

育みの場づくり

 7月に娘が産まれました。
 それもあって今一番熱心に考えていることは、子どものための場づくりです。それをぼくは「育みの場」と呼んでいます。シュタイナー、モンテッソーリ、森のようちえん、イエナプラン、それらが大切にしている子どもが主体となる「子育ち」の場をどうすればつくれるか。

 米づくりをしている棚田をお借りして自然と触れ合うことで多様性を体感。お米と野菜は棚田で採れる自然栽培のものを、子どもたちが炊き、思い思いの野菜を収穫する。できれば子どもたち自身で育てたものを。…と、妄想はふくらみます。

 お産は自宅の仏間で助産師さんに来ていただいておこないました。自然なお産を望み、そして母子ともに無事に終えることができ、決して当たり前ではない生命の誕生に感謝するばかりです。

 お祝いとともに私たちの倍くらい長く生きている女性の方から、「今の若い方の中にもこのような生き方を選ばれる方がいらっしゃるのだと改めて感激いたしました」という言葉をいただきました。
 お産を病気のようにとらえ医療介入が当然の現代社会において自然分娩を選んだことを、ただ手法として選んだのではなく生き方を選んだと表現してもらえたことが大変嬉しかったです。

 私たちは子どもの性別を産前に知ろうとはしませんでした。どちらが産まれても嬉しいというのは勿論のこと、産まれてくる前から性別を知ろうとするのは効率化を求める現代社会を映しているように思うからです。そこには非常にインスタントでコンビニエンスな価値観が垣間みられます。また、その延長線上に出生前診断もあると考えます。たかだか数十年生きただけの頭で、生命誕生からの理を選択できると考えるのは、現代人の傲慢にしか思えません。

 棚田に行くと色んな動植物が生きています。しかし、私が食べないからといって不要な生物であるはずがないし、生きる価値がない虫けらもいません。
 どんな「生」も祝福されるべきという当たり前を取り戻したい。それはどんな生も受け入れられる社会、ようするに多様性を認め合う社会を意味すると思います。別の言い方をすれば、持続可能な社会であり、インクルーシブ社会だったり、幸福度世界一であったり、GDPよりGNH(国民総幸福量)というものになると思いますが、そういった社会を次の世代につむいでいきたいと思います。

娘の名前は紬(つむぎ)と付けました。

 

  

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第4回 この手にとりもどしたいもの」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    渡部さんたちが10月5日に上映会を予定している映画『かみさまとのやくそく』は、お母さんのおなかにいたときやそれ以前についての「胎内記憶」をテーマに撮影されたドキュメンタリーだそう。新しい命、紬ちゃんが大人になったとき、目には見えない豊かさや丁寧な暮らしが大切にされている社会であってほしいと思います。

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渡部建具店

渡部建具店: 2013年6月から活動開始。琵琶湖の近くで暮らす秀夫と優の夫婦で、秀夫の先代までの屋号を用いて「間」と称した場づくりを主におこなっている。現在までに「上映会の間」「対談の間」など、その時々で自分たちが向き合いたいモノゴトを取り上げ、ヒトが集い対話することに重きを置き、目の届く範囲を大切にしながら自分たちの歩幅で活動している。他にデザインや車椅子利用者の旅のお供なども。建具はつくれません。 ホームページ

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