史上はじめて黒人の米国大統領が選出されました。8年もの間、ブッシュ大統領の愚策に苦しめられた世界の人々は、アメリカ国民のこの選択に大歓迎のムードですが、気になるのは、アメリカのイラク・アフガニスタン政策がどう舵をきるのかです。日本においてもまさに今、「新テロ対策特別措置法改正案」をめぐり、国会ですったもんだが続いているところ。
メディアでは十分に伝えられていないこの問題の本質は何なのか? 日本はどういう立場にいるのか? 「マガ9」でお馴染みの伊勢崎賢治さんと、弁護士で国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」職員の土井香苗さんに対談していただきました。
伊勢崎賢治●いせざき・けんじ1957年東京生まれ。大学卒業後、インド留学中にスラム住民の居住権獲得運動に携わる。国際NGOスタッフとしてアフリカ各地で活動後、東ティモール、シェラレオネ、 アフガニスタンで紛争処理を指揮。現在、東京外国語大学教授。紛争予防・平和構築講座を担当。著書に『東チモール県知事日記』(藤原書店)『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)などがある。
土井香苗●どい・かなえ弁護士、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表
東大在学中に司法試験合格。2000年に弁護士登録。ニューヨーク大学ロースクール修士課程修了後、ニューヨーク州弁護士資格取得。2006年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウオッチに参加し、2007年より現職。著書に『“ようこそ”といえる日本へ』(岩波書店)。
●民主党の対案づくりでわかったこと
編集部
まず、土井香苗さんは、「マガジン9条」は初登場になりますので、簡単な自己紹介からお願いします。
土井
はい、職業は弁護士でして、2年ほど前からヒューマン・ライツ・ウオッチ(以下HRW)という国際NGOの職員をしております。HRWは、本部がニューヨークにある国際人権NGOで、30年ほど前に設立されました。ロンドンに本部があるアムネスティ・インターナショナルが国際人権NGOとして有名ですが、これと並ぶ2大国際人権NGOの1つです。世界中に、特にアメリカ、ヨーロッパを中心にオフィスを持っています。またアジア、アフリカも含めて世界全体に駐在調査員を置いており、世界80カ国の人権状況をモニターしております。
日本への上陸は非常に最近で、私が1年ほど前に連れてきたというか、私が来ただけのことですけれども、やって参りました。
編集部
じゃあ今は、土井さんお一人が駐在員なんですか?
土井
ええ。近い将来、オフィスをつくって、スタッフも複数にしたいと思って東京センター開設の準備を進めているところですが。頑張ります(笑)。来年春が目標です。
なぜ、今さらながらHRWが日本に来たかというと、日本の人権状況をモニターするということもさることながら、今、関心の高いアフガニスタンですとか、ビルマ(ミャンマー)ですとか、北朝鮮とか、こういった地域の人権問題の解決に日本の政府の力を貸して欲しい、ということ。世界中の人びとが尊厳を持って暮らしていけるようになるため、日本のより積極的な貢献が必要であると考えているのです。そのためのアドボカシー(いわゆるロビングや政策提言)をするために、日本に来たわけです。
HRW全体としては、基本は調査・リサーチのNGOです。世界約80カ国の人権状況を、できるだけ正確・公平・精緻に、知られていないことも含めて、人権問題を世界に知らせるというのが根本的な役割です。
編集部
ありがとうございます。それでは、最初にアフガニスタンの問題から。伊勢崎さんは、アフガニスタン問題について、以前より非常に危機感をお持ちですね。
伊勢崎
実は、これは2007年からずっと引きずってきている問題なのですが、例のテロ特措法の延長について、新テロ特措法案を与党がつくって国会の議論にかける際に、民主党がそれにNOを言い、対案をつくるという動きがあったでしょう。民主党に僕が個人的に尊敬する議員さんがいて、それに協力することになったのです。事実、対案の前半の部分は、僕のアイディアを活かしたものになりました。
土井
民主党の議員に頼まれて案文を作られたのですか?
伊勢崎
名前は出せないけど、協力しました。それは僕にとって非常にいい経験になりました。しかし、民主党が対案をまとめあげる過程でいろいろなことがあり、結果、基本的に整合性がとれていない対案ができちゃった。それが2007年末に民主党より国会に出された「アフガニスタン復興支援特別措置法案」です。
土井
対案の前半と後半が違うということでしょうか?
伊勢崎
後半のほうに、あれは多分小沢さんの意向があったんだと思いますが、自衛隊も国連決議を受けている紛争地への派兵なら、ISAF(国際治安支援部隊)として、地上部隊として、参加することは可能ということが書かれていました。そのために「自衛隊派兵の恒久法整備」を盛り込んだりもしました。
前半の部分には、アフガニスタンの人道復興支援と治安改革のため、自衛隊や文民をアフガン本土へ派遣し、武装解除や医療、物資輸送、インフラ整備などに従事させるとか、武装集団が抗争停止を合意している地域か現地住民に被害が生じない(安全な)地域で活動を実施させるといったことが、書かれています。アフガニスタンの治安をよくするためには、アフガニスタンの内政改革に力を入れなきゃいけないし、日本は多分それに対して直接支援が唯一できる国であると。他国がそれをやるともろに内政干渉だと拒絶されるでしょう、アフガンは独立国家ですから。そういうことを盛り込んだ内容だったのです。
しかし、それは結局あっさりとだめになりました。民主党の思惑もはずれ、参院の委員会で否決されてしまった。だってそれはそうでしょう? 恒久法の制定や自衛隊の海外での武力行使を可能にするような内容が入っているのですから、社民党や共産党など、ほかの野党が反対するに決まっているじゃないですか。それでやすやすと、衆院で再議決となり政権与党の作った新テロ特措法が通りました。
●新テロ特措法のでたらめな法的根拠
伊勢崎
でも、その与党の作った新テロ特措法だって、土井さんももちろんご存じのように法的な根拠が、めちゃくちゃ。この新テロ特措法は、国連安保理決議の1776をこの重要法案の根拠の一つにしています。その国連決議の1776というのは、去年の終わりから日本政府がニューヨークの国連代表部を通じて大変にロビー活動したんです。そして、謝意が盛り込まれたということですね。つまり、安保理の決議の中に日本が協力しているOEF(不屈の自由作戦)に対して、その決議の前段の部分に謝意を入れるというふうに日本政府は頑張った。つまり、日本が協力してきたOEFに国連が感謝しているんだということです。それを根拠にして新テロ特措法をつくったんです。
国連決議というのは、構成は大体同じで、2つのパーツから成っています。1つが前段、前振りです。いろいろな謝意があって、いろいろな方面に気を配りながら、何々に感謝し何とかとある。後半のほうが実際の決議です。国連憲章第何条に基づいてこれを要請する、ここがコアなんです。これをもって決議というわけです。普通、前振りの部分はどうでもいいんです。法的な制約は全く何もない。重要なのは決議の部分です。
この1776というのはOEFに対する謝意はありますけれども、決議自体はISAFの決議なんです。ISAFの延長、あれは1年ごとに延長していますが、その延長決議なんです。ISAFというのは国連的措置だから国連が決議をする。OEFというのは謝意には入れるかもしれないけれども、これは一部の加盟国の集団的自衛権の行使ですから、国連が決議するわけないです。集団的自衛権と国連的措置とは天と地ほど違うのです。国連決議というのは、国連的措置に対する決議です。
OEFの一部である日本の海上自衛隊を送るための特措法が法的根拠としたのは、全く関係のないISAFの決議です。
これは、日本が果たして法治国家なのかを疑うくらい、めちゃくちゃです。
土井
国民にもそういった議論がなかったですよね。
伊勢崎
多分、まだ日本人の中で、海外派兵というものの法的根拠について、議論が全然深まっていないということがありますが、それは国民だけでなく、野党も同じだと思うんです。これは、非常に問題です。
与党の出した新テロ特措法は、外務省とか法律をつくっている条約局のいろいろな専門家が見たら、絶対この次のインド洋の給油活動の延長なんかあり得るわけがないです。
土井
確かに、給油法は法律的にすごくぐちゃぐちゃですね。
伊勢崎
でしょう。幾ら何でもあれは。ちょっとめちゃくちゃじゃないですか。
土井
OEFとISAFがごちゃごちゃになっているのは、本来ほとんどあり得ない議論だと思うけれど、そこがごちゃごちゃであるということ自体があまり認識されていませんね。ただ、この混同ゆえに継続がされないというポリティクスになるかどうか・・・。
伊勢崎
官僚は、それは絶対ごっちゃにしないと、決めていると思うんです。それは、日本は法治国家だと僕はまだ信じますから、幾ら何でも2度同じ事はやらないでしょう。
土井
でも、いままでも法的根拠が裏技のようなものでも成立してきたのですから、今後もこうした事が続いてしまうかもしれませんよね。
☆編集部注:2009年1月15日で期限切れとなるインド洋での海上自衛隊の給油活動。それを延長する「新テロ対策特別措置法改正案」をめぐり、今臨時国会ではさまざまな議論や与野党の駆け引きが行なわれてきた。結局、19日の参院本会議で野党の反対多数で否決された後、20日の衆院本会議で3分の2以上の賛成で再議決し、成立する見通し。(11月18日現在)
●オバマ政権のアフガニスタン政策は?
伊勢崎
政府や担当大臣のところでは、ISAFへの自衛隊の地上軍派遣もしくは輸送ということについて、アメリカからの圧力がずっとあっただろうし、それに向けて交渉が続けられてきたのは当然だと思います。それで今年の6月に政府と防衛省や自衛隊トップらによる調査団も出したわけですね。
土井
次期大統領がオバマ氏になって、イラクからは米軍を撤兵し、アフガニスタンに力が入るでしょう。日本も2009年は政権がどんなふうになるか、まだわかりませんが、また自衛隊地上派遣の話は、再浮上する可能性は十分あり得ますよね?
伊勢崎
あり得るでしょうね。
土井
自衛隊をアフガニスタン本土に実際に送るとなるとすると、何をすることになるでしょうね。
伊勢崎
例えば自衛隊をスーダンに出すって、10月に決まったじゃないですか。しかし、アフガニスタンは、アメリカの戦争に直接かかわっている作戦になりますからね。それは、司令部要員を2、3人出すだけじゃ済まないでしょうね。ただ予算的にも大きくなるでしょうし、大部隊の派遣か、でかい飛行機を持っていくとか、そういうふうになるでしょうね。
☆編集部注:国連からの要請を受け、スーダン南部における国連スーダン・ミッション(UNMIS(アンミス))に対し、国際平和協力法に基づき、自衛隊員2名を次のポストに各1名を派遣することとした。(要員は非武装)。
(1)軍事部門司令部・兵站計画室において、軍事部門の兵站全般の需要に関するUNMIS部内の調整に当たる「兵站幕僚」
(2)国連事務総長特別代表室・情報分析室において、データベースの管理に当たる「情報幕僚」
土井
ヘリコプターを出すとか。
伊勢崎
そう。そういうふうになっちゃうでしょう。だから、多分、アフガンの問題というのはこれからますます大きくなるでしょう。イラクからの撤兵のほうが結構簡単かもしれませんね。
土井
そうでしょうね。2009年は、ポリティクスで言えば、イラクのように物事としては小さくなっていく方向と、アフガンのように、もっともっと注目を浴びていく地域があります。実情としても、アフガニスタンはあれだけ国内の治安も人権状況も悪いですから、注目が必要であると思います。
伊勢崎
私が感じている危機感というのは、その辺なんですよ。国際社会からも見られるということです。だからちゃんと法的な議論をやるというこが大事であり、それをもって次のテロ特措法の新案なり対案なりを出していく土壌をつくっていかないといけない。少なくとも世論ベースで。これは難しいことかもしれませんけど、そこに対して最大限の努力はしたいと私は思っているんです。
例えば、2007年に小沢一郎さんの論文が雑誌『世界』(岩波書店)に載ったでしょう。あの後ろに僕の記事も掲載されていたのです。その中で、僕は小沢さんが言っているような、自衛隊がISAFに行くということは、テロ特措法の延長よりも違憲性が高いんじゃないかという言い方をしたんです。
土井
それはなぜでしょうか?
伊勢崎
つまりISAFは、国連決議による、いわゆる国連マンデートオペレーションですけれども、しかし国連の指揮下にないわけですね。あれはNATOの指揮下にある軍事作戦ですからね。だから国連のコマンドじゃないです。あくまでもNATOのオペレーションであって、国連のオペレーションじゃない。
この辺の感覚って、日本人、また混乱するでしょうね。 UNマンデートでもUNコマンドではないって、どういうことなのかってわからないでしょう。これは、僕らやブルーヘルメット(国連平和維持軍)で働いた経験のある人間というのは、国連のコマンドだったら、どういう縛りを受けるのか? それに対して国連のマンデートだけの有志連合的な多国籍軍オペレーションだとどうなるのか? について想像がつくわけです。
編集部
その辺の話については、以前「マガジン9条」のインタビューでも伊勢崎さんが、詳しく解説してくださいましたね。
伊勢崎
今、アフガニスタンで行われている二つの軍事作戦、OEFとISAFは、両方ともNATOコマンドだけれど、片方は集団的自衛権の行使で、片方が国連的措置、その2つのオペレーションが同時進行しているわけですね。この二つは法的根拠が違うんです。これ、日本人にはわかりにくいでしょうね。でもこの辺の現実をどうやって伝えていくかという問題もありますが、こうした法的根拠についての基礎的な認識が共有されていないのに、国内で重要法案をやすやすとつくってしまっていいのかという懸念が強くあります。
土井
今のところ与党も小沢民主党も、ISAFへの自衛隊派遣を真剣に要求してはいませんが・・・
伊勢崎
夏には一度あきらめましたけれども、また何かやるんでしょうね。これからどう動くか、わからないですよ。さっきも言ったようにオバマさんが政権をとるにしても何にしても、アフガン政策というのは多分がらっと変わるでしょうから。
「ランド」という米国で有名なシンクタンクがありますが、あそこがアフガン戦略を今年に出しているんです。内容は、全然大したことはない、というか、僕らが以前つき合っていた米軍の首脳部が戦略的には以前から持っていたことなんですけど、それがブッシュ政権下では政策にならなかった。
それはどういうことかというと、アフガニスタンのテロ戦というのは、アフガニスタンの内政を変えなくては解決しない。これをやらない限り「出口政策」にならないという考え方は現場の関係者に広く共有されていたのです。このシンクタンクのリポートは、米の海外の軍事作戦、ベトナム戦争から含めてずっとひもといて分析をやっているんです。海外作戦の成功というのは、いつも本質的には多国籍軍がどう戦うかという観点からしか考えられてこなかったが、これは、戦略的な誤りである。そうではなくて、一緒に戦っている地元の勢力、具体的には傀儡政権の国軍や警察ですが、それらにどう真っ当な力をつけるか、これを考えないと勝利にはならないのだと。
ああいうレポートが出てきて、これはかなり米国の政治家たちには影響力があったみたいで。多分、民主党陣営も選挙対策としてそれは考えたのでしょう。
土井
大統領選挙との関係もあって、そういう意見が表に出てきたんですかね。
伊勢崎
米国の将来の戦略の変化を見据えて日本がどういうふうにやっていくか。与党も野党も自衛隊を出す出さないということだけではなくて、アフガン問題を新しい米の政権下、コンテクストの中でどういうふうにするかということを考え始めないとだめなんじゃないかなと思うんですね。
●日本がやれる国際貢献としてのアフガニスタン政策は?
土井
オバマ政権となったら、アフガン政策をそうやって見直すということ。それは、絶対必要なことだと思うんですけど。やはりアフガンの現状に立脚して政策を見直してもらいたいと思いますし、日本にも、本当に真の国際貢献というか、アフガニスタンの人々が、今、真に欲している保護を提供できるようにしてもらいたいと思うんです。国際社会はアフガン市民に安全と平和と発展を約束した。でも、実際には、人びとには今基本的な安全もない。人びとは、安心して学校にいける安全、病院に行ける安全、市場に行ける安全を求めているわけです。これがアフガンの人が真に求めている安全です。でも、国際社会はこうした市民の安全は二の次で、テロリスト掃討作戦で手一杯になっている。で、冒頭にお話に出ましたけれど、伊勢崎さんはそのあたりどのように考えて、民主党の対案づくりでは提案されたんですか。
伊勢崎
手間もかからない、日本人も死なない、比較的ローコストであるという観点から言ったら、自民党案の通り、給油支援を継続するのが一番いいんですよ。でもそれをほんとうに国益と考えるのかどうか、という問題があるでしょう?
土井
「日本」にとっての国益なのでしょうが、アフガニスタンの市民の利益という点では効果が小さすぎる。
伊勢崎
だから、これはパラダイム変換が必要ですねと。これにどう世論がついていくかの話でしょう。今回、民主党に協力してわかったんです。どんなに良い法案をつくっても、政治的メッセージ、国民の理解を得るメッセージがないとだめなんですね。やっぱり政策として見た場合、自民党の給油継続案のほうがわかりやすいわけです。アフガンの内政云々と言ったって、それはプロの目から見たらすばらしいと思えても、それが国民に理解されるか、というのはまた別の話でしょう。そこがジレンマなんですね。
難しい話を言うと、だから今のアフガンの内政問題というのは、これはランドのリポートを待つまでもなく、以前から僕らが米軍の首脳部と考えていたのは、内政の安定や定着化こそ、多国籍軍にとっての出口政策になるということ。そのためには、国軍と警察を健全なものにするということが必要です。それでもって、法の支配が行える新しいアフガニスタン政府をつくること。それはこれからどのくらいの時間がかかるか明確にはわかりませんけれども。それが出口政策であり、アフガンの安定化、世界の安定化につながるのではないかということなんですね。
しかし今、それをやるのには大変な努力を要します。今、アフガンは破綻国家の状況です。多分、シエラレオネや東チモールを体験した僕も見たことのないような。というのは、アフガンの場合は、アフリカの内戦と違って、これだけ国際社会が介入しているわけでしょう、多国籍軍も含めて。それなのに、麻薬の流通が止められない。これは、我々が経験したことのない未曽有の内政破綻のケースと考えるべきです。
多分これは、ある意味北朝鮮よりも深刻な問題です。核も怖いですけど、麻薬は静かに人を殺していくわけです。北朝鮮と違って、アフガニスタンには国際社会は介入できるわけですからね。それでとめられないというのは、これはもう今までにない新しい戦略が必要です。
土井
ただ、アフガニスタンに、今まで国際社会が真に真剣に介入してきたかというと、してないですよね。国連のプレゼンスも小さい。それでも日本は、もしかしたら国際社会でまだまじめにやってきたほうかなというふうに思いますけど、兵士の数にしろ、あと投入されたお金にしろ、全体として、人口割で考えればすごく少ない。しかもアフガニスタンのような山あり谷ありのものすごい地形の中でオペレーションしていくためには、平地で人を展開するより、本来はもっと人が必要だったはずなのに、です。
なので、今まで真のアテンションがアフガニスタンには向いていなかったのでは、とも思っているのです。伊勢崎さんがおっしゃっているのは、そのアフガニスタンの内政への強力な働きかけをする立場として、日本が比較的適切であるということなんですかね。
伊勢崎
大変難しいことですけど、唯一、SSR(アフガニスタン治安分野復興)ができうる国ではないかと思っています。
土井
そうですか! 大賛成です。ここまで現実が悲惨になってきてもう絶対後戻りは許されない今こそ、セキュリティセクターリフォーム(SSR)のイニシアチブを日本に真剣にとってほしいと、私も思っています。実のある国際貢献をしたいのであれば、それをやるべきです。日本はISAFだとかOEFというような治安面での直接貢献は憲法上できないわけですから。国際社会は、アフガンの人々を安全にする、そして、復興させると約束したんですから、それを果たさなくてはならないはずです。
アフガニスタンの人々の心が、国際社会やアフガン中央政府から離れた理由をいろいろ考えると、いっぱいあると思いますけど、特に大きいのは、米軍などの作戦でたくさんの市民が死んだ、そういう市民をたくさん殺してしまう戦法をとってきたということ、そして、あとは捕まえたアフガンの人たちを虐待したということ。この2つは、人々の心が離反した大きな理由じゃないですか。
だから、不信感を持たれている米国が、もう1回、人々の心をつかもうと言っても難しいですね。アフガニスタンでもう一度人々の心をつかんで、セキュリティセクターリフォームをちゃんとやろうと言っても難しい。
だから、すごく難しい役割ではあると思うんですけど、日本が本気になって戦略的にやるべき。当然日本人としては、アフガン市民に対する国際社会の約束を果たすのに、日本がリードをとるということを期待したいですね。
伊勢崎
トップが決めるのではなく、やはり日本国民がそれについて議論し、そういった政局にしていく、それをやるんだというふうな世論を作っていくことが必要でしょう。そのためにも、今は下手に自衛隊を出すというオプションで焦点をぶれさせたくないんですよ。だから、自衛隊はアフガニスタンに法的に出せないんだという、自衛隊を出したくないじゃなくて、出せないという理論武装もしておきたい。そのために、国際法にも詳しい、弁護士の土井さんにこの点について、見解を聞いてみたいということで対談の申し込みをさせてもらったのです。
土井
そうだったんですね。そこで法的根拠についての話になるわけですね。
国会でも議論になったのかどうか疑わしい
「給油活動延長のための特措法」の法的根拠のでたらめさについて。
みなさんはどう思いますか?
次回は、法的根拠から「アフガニスタンへの自衛隊の海外派遣」について考えていきます。