マガ9対談

国内では選挙で負けまくっているうちにどんどん悪法が成立し、世界を見てもトランプ大統領の誕生や排外主義の台頭など、リベラルからはため息しか聞こえてこない…そんな辛気臭い空気とは2016年でさっさとおさらばして、2017年の希望を語りあいたい! ということで作家の雨宮処凛さんと一緒に、リアルな場所で仲間たちとともに自分たちの価値観と生き方を創ってきた松本哉さん、成田圭祐さんらの「抵抗」の実践についてお聞きしました。そのノウハウや楽しさについて紹介しつつ、2017年の作戦を練りたいと思います。

雨宮処凛(あまみや・かりん) 作家・活動家。1975年北海道生まれ。2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。2006年からは新自由主義のもと、生きづらさや不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材・執筆・運動中。東日本大震災後は脱原発運動にも取り組んで、メディアでも積極的に発言。主な著書は『プレカリアートの憂鬱』(講談社)、『雨宮処凛の闘争ダイアリー』(集英社)、『14歳からの原発問題』(河出書房新社)ほか、最新刊は『一億総貧困時代』(集英社インターナショナル)。

松本哉(まつもと・はじめ) 「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)ほか、最新刊は『世界マヌケ反乱の手引書』(筑摩書房)。

成田圭祐(なりた・けいすけ) 「イレギュラー・リズム・アサイラム(Irregular Rhythm Asylum:IRA)」店主。1976年東京生まれ。2004年から、国内外の社会運動や対抗文化から発信される情報やグッズ、またそれらにかかわる人々が集うインフォショップ「IRA」を運営。「アナキズム文献センター」の運営にも携わっている。

 

集大成としての「2016 NO LIMIIT 東京自治区」

——(その1)でお話を聞いたように、成田さんが2004年に「IRA」を作って、翌年に松本さんが「素人の乱」を開店して、スペースをやってる仲間たちとフリーペーパー「tokyoなんとか」を作り、イベント「なんとかフェス」をやり、3・11直後には伝説の「脱原発デモ」をやり、海外に行きまくったり、高円寺にゲストハウスを作ったり。そうしたいろんな集大成が2016年に開かれた「NO LIMIT 東京自治区」になったということですね。

雨宮 それぞれの場所で、それぞれが実践してきたことを確認し合った、あれはものすごい一週間でしたね。アジアの連帯というのは表立っては言ってなかったけど、どう考えてもその実践でした。

松本 アジアをいろいろまわって分かったんだけど、アジア圏にはオルタナティブなスペースがたくさんあるけど、店同士もそこに集まる人たちも、ネットワークができていないし、交流もなかった。主要人物がたまたま知り合いということはあっても、ミュージシャンやアーティストといった個別に活動している人は、ぜんぜん知り合うきっかけがなかったのが、「NO LIMIT 東京自治区」では、みんなが一斉に会えたからね。海外から200人近く来て、日本の人も全国からいっぱいきて、その辺のまわりで飲んでいるという「マヌケ」なやつらもやってくる。高円寺の通行人も飛び入りで参加してくるしで。

成田 この間香港に行ったけど、香港からの参加者も多かったので、どこ行っても「あんときはすごかった!」って言われました。「NO LIMIT 東京自治区」で知りあった関係で、香港の人が韓国に行ったり、自分たちが知らないところでも、いろんなつながりができているみたいです。

雨宮 タイミングもよかった。2016年は、英国のEUの離脱決定とか、米国でも人種差別的な発言を繰り返すトランプが大統領選に勝利し、シリア難民の受け入れ問題など、排外主義が世界中で目に見えて増長してきましたよね。日本でもヘイトスピーチが蔓延したり相模原で障害者施設殺傷事件があったりと、差別や排除、特にやたらアジア圏での対立を煽られるということが続いていた。だからここで、アジアの人たちがつながるってことを実践したのが、すごい第一歩で意義のあることだと思って。
 私はマガ9のコラム(第388回第389回)に「NO LIMIT 東京自治区」のことを2回書いたけど、人に説明する時に、アジア人と単に飲んで遊んでいたみたいな感じで説明しづらい(笑)。もっと文化的にも社会的にも政治的にも注目されるべき現象だし、もっと学者の人にも来てもらってアカデミズム的に分析して語って欲しかった。私が言うと、「おもしろそうだから飲んでただけでしょ」と言われてお終いなんだけど(笑)、でもあれは、世界に先駆けて行われた「平和の連帯の実践」に他ならないと思ってます。

——哲学者の柄谷行人さんはイベントに参加されてたんですよね。年末の新聞紙上で、松本さんの著書を今年の3冊に選び、「活路を『マヌケ』に見いだした」と書かれてましたから、すごいインパクトを受けたんでしょうね(笑)。

松本 世界の排外主義的な動きへの対抗心でやったということでもなく、これまで自分たちがやってきたことの、自然の流れなんだけどね。

雨宮 それが、松本さんたちの正しい勘ですよ。今年は、この流れをどうやって活かしていくか。「NO LIMIT 東京自治区」海外ツアーとして、アジア各地でやる、という話も出ているみたいですが。

松本 とりかえしがつかないぐらいの謎のアジアのとんでもない奴らのネットワークができたから、ほっといてもアジア中に広がりますよ。これまでは、例えば僕と台湾のカフェやってる店主との個人の関係だったけど、いまは、コミュニティとコミュニティがみんな一緒につながったから、中心的にやっていた誰かがいなくなったり、極端な話、死んじゃったりしても、この関係はとぎれない。

雨宮 駅前の路上で飲んでいる時に、中国、香港、台湾の人たちが、自国ではそれぞれの国に対してお互いあまりいいイメージを植え付けられてこなかったけど、ここに来て初めて直接話ができて、楽しかったし仲良くなった、と言っているのを目の当たりにして、感動しました。

松本 排外主義っていうけど、あれって単に知らない“ガイジン”が怖いだけでしょう。直接交流したら作り上げられたイメージなんて変わりますよ。

雨宮 高円寺の駅前で歴史的な和解が行われているのに、中国人も香港人も台湾人も、日本人も韓国人も外から見たら見分けつかないから、あんまり感動的な絵にはならないんですよね(笑)。だからメディアにも取り上げられなかったのかな。同じようなアジア圏の顔の人たちが集まって飲んでいるだけだから、いつもの高円寺とたいして変わらないじゃないか、みたいな。

松本 侍の格好でもしてたらよかったのかな(笑)。

雨宮 いろんな人と話をしたけど、韓国、香港、台湾も日本と同じくひどい格差社会になっていて、若い人も仕事がなくなってきている。そういった状況の中で、どこの国にもネトウヨみたいな人はいるし、ナショナリズムも煽られている。日本と同じなんだと改めてわかった。

成田 再開発問題も共通していましたね。それに伴う家賃の高騰もひどいと。スペースを作って運営している人にとっても大きな問題です。

自分の価値観で生きる人たちとの交流

雨宮 アジア各地から来た人たち、みんな口々に「こういう場が重要なんだよ! こういうイベントを求めてた」と言ってたけど、どこのポイントに共感したのかな? 

松本 交流している人の関係は、基本、スペースを持っている人が核になっていて。例えば台湾のカフェだと、社会運動だったり、音楽やアートだったり、けっこういつもごちゃまぜで遊んでいて、そこでいろいろ情報交換やっている。今回は、そんな店の人やそこに出入りしている人たちが核になって、ミュージシャン、アーティスト、お客さんらを呼んで、みんな一緒に日本にやって来た。そしてうちらも東京でスペースをやってる人たちが中心になりつつも、そこに出入りしている人たちと一緒にイベントを準備して、みんなで一緒に待ち受けた。だから、「みんなとみんなが一緒に交流した」というのが今回の特徴です。

雨宮 見た感じは、若くて小綺麗なというか、いわゆる活動家っぽくない人たちが多く、目を引きました。

松本 例えば、台湾にも大きな社会運動をやっている団体はあるし、デモにしか行かなくて場所づくりにはそんなに興味ない、という人はけっこういます。常に政治のことだけ考えている「政治人間」みたいになっている人とか。で、メディアで目立つのは、むしろそういう人だったりする。でも実際、それだけだと、やっぱり疲れてしまって徐々にやめていくんです。まあ、日本にもいますよね。すごく怒っていて、常に反対を掲げてプンプンしている人。

——ふざけてたら怒られそうですものね(笑)。

松本 ただ「反対」を言うだけではなくて、もっとちゃんと生活スタイルを作って抵抗したい、という思いを持っている人たちが、今回、奇跡的に一同に集まることができたと思っています。日常生活から「(お上のいう理不尽なことに対しては)言うこと聞かない」という信念を通していたり、組織や社会の既存のルールを押し付けられて奴隷のように生きるのではなく、自分なりの価値観を持って生きている人は絶対一定数、どの国にもいるんですよ。そういう人たちは、自主運営の店をつくることにものすごく興味を持っていて、今回はそんな人たちのネットワークが繋がったということです。

日本とアジアのアートスペース

——なるほど。じゃ、話も通じやすいわけですね。言葉の壁も超える。

松本 ただヨーロッパやアジアのオルタナティブスペースやアートスペースに行って、日本とは決定的に違う、と思うのは、政治の話が嫌いとか、しないという人は、ほぼいないこと。デモに行かなくても、政治の話題になったら、政府に対しての批判をしたり、自分はこうしなくちゃいけないと思う、という意見を持っている。アーティストも、自分の制作活動を社会と関連づけている人が多い。作品として目に見える形じゃなかったとしても、反骨心は必ず持っている。日本のアーティストは、「いや、自分はそういうの興味ないですから」「政治とは関係なくやってますから」といったことをやたら強調して言う人が多いから、その違いはすごく感じます。
 それを考えた時に、日本では政治のことを、文化や生活とも、すごく分離して考えるものというイメージが強くあって、アートをやっている人でさえもそうなんだから、普通の人がそういう話題に、気軽にぱっと入れる感じではないのかもしれない。

——フジロックでも、音楽に政治を持ち込むなとかで、問題になりましたね。アーティストが、政治問題についてちょっと自分の意見をツイッターに書き込んだら、大炎上しちゃうとか。

松本 トップアイドルとかは、どの国も言わないようにしているだろうけど、そういうレベルでもなく活動しているようなアーティストまでが萎縮している日本って何なのか。海外でアーティストが「政治のこと興味ないんですよ」とか言ったら、たぶん軽蔑されますよね。

反対運動だけでは生まれないもの

——ものすごいまじめな社会運動の人とかどうすればいいんでしょうね、ずーっと怒りっぱなしの人っているじゃないですか。

松本 やっていることは悪いことじゃないからもちろんいいんだけど、本当にもっと力つけるには、オルタナティブな世界とつながった方が、いろんな新しい作戦がつくれるんじゃないかと思います。
 結局、従来の運動って、世の中に訴えて政府のやり方を変えさせたり、企業に要求を出してそれを認めさせたりと、力のあるものに認めてもらって変えるとか、自分たちの意見を通すという方向に目が向いている。でも僕らがやっているのは、そういう権力者などからどれだけ離れるか、ということ。100%は無理でも、少しでも多く僕らだけで勝手にやれる社会を作りたい、というのがある。もちろんそっちだけでもダメだけど。世の中には、もう一つ別の社会がある、と思ってやった方が、心のゆとりも持てるかな。

——それがオルタナティブな世界・社会を持つことの意義でもありますね。

松本 例えば、オルタナティブな世界から、自分の“職場”や“仕事”を見たら、もっと客観的に見ることもできるだろうし、自分の価値観をちゃんと持って、そこから“敵”を見ることが大事ではないかなと。それをした方が、いろいろと力強くなるような気がします。

——たしかに。そういう価値観があれば、仕事とかで大変なことがあっても、そんなに追い込まれたりしないかも。で、最近思うのですが、オルタナティブな世界って、成田さんや松本さんがやっているスペースもそうなんだけど、身近なところでは生協(生活協同組合)ってそうですよね。昔から日本にも広く生協ってありますが、最近改めて注目しているんです。

松本 本来はそうですよね。

——大きな規模の生協は、普通の流通みたいになってるところもあると聞きますが、それでも、食料品の仕入れについては独自のルートで生産者と直接つながり、商品開発も自分たちで行い、もちろん放射能は自分たちで測り、国よりももっと厳しい基準を設けている。出資金を集めて相互扶助の仕組みがあったり。最近は自分たちで原発によらない電力を配給するための発電会社を持っているところもありますね。これってある意味、やっぱり自分の暮らしは自分たちで作るという、オルタナティブな世界ではないかと思います。女性たちが消費者運動から始めた運動だからか、面白さやお祭り騒ぎ、というよりは落ち着いた雰囲気ですが、成田さんたちの活動と理念というか根っこは同じかなと。

成田 同じですよね。消費社会から、暮らしを自分たちの手にとりもどそうと、いろいろな活動をしているわけですし、相互扶助というのはもっとも大事にしている理念のひとつです。

松本 生協の人たちが高円寺のなんとかバーで1日店長とかしてくれたらおもしろいかも。

——それいいですね。安心安全の食材で美味しいもの作ってくれそうだし。高円寺界隈との思いもよらない、ミスマッチのコラボあってもおもしろいかも。

松本 いつも会わない人が会うのがおもしろいよね。同じ人どうしが会っていても、つまらない。

——ところで成田さんは、実は選挙にはあまり行かないとか。

成田 基本的に政党政治にはほとんど興味がないもので。IRAをとおして日頃やろうとしているのは、別の世の中のあり方を想像したり、自分たちにとって理想的な環境を作り出したりする力を一人ひとりがもっと鍛えていこう、いろいろな人と対等な関係で協力して何かを生み出す経験をもっと積んでいこう、ということです。フォローする人を見つけて、その応援に頑張るより、自分たち自身で、自分たちの力を活かしてできることを、たとえゆっくりでも着実に拡げていきたい。いまの世の中を変えたいという人たちの希望や可能性は、投票箱に納まるものではないし、納まるようなものにしてはいけないとも考えています。

松本 僕は、選挙はわりとちゃんと行く方だけど…選挙はもっと“片手間”に考えた方がいいかな。そこに集中しすぎるとちょっとバランスがおかしくなる。自分の中の2割ぐらいの比重で考えておけばいいかな。

雨宮 選挙は、勝敗がはっきりしていて、いろんな妥協も必要で。こういう場づくりとは、正反対のようにも感じますね。

松本 オルタナティブな世界がいっぱいできていたら、自然に自民党も倒れていくし、オルタナティブな世界を作っていないと、選挙でたとえ勝ったとしても、本当の勝利にならないし、すぐにまた同じことが繰り返される。だから選挙の結果は、その時の社会がどっちに触れているかを測るバロメーターぐらいに思っておいた方がいいでしょう。

雨宮 私は、「NO LIMIT 東京自治区」に参加して、本当に手応えがあった。デタラメでクリエイティブで、自分たちで作りあげているという感じがすごくよかった。2016年は、たしかにいろいろ大変で、現実に起こったことについて物申すことだけに一生懸命だったけど、ただ反対しているだけではなく、やっぱり創っていかないとダメなんだなという、初心を思い出しました。

——反対するだけじゃ、文化も生まれてこない。そこにもっと気がついて、自分たちで創ることも実践していきたいです。これ、2017年の課題です。そのためにも場所って、大事ですね。今日は長時間、ありがとうございました!

 

  

※コメントは承認制です。
雨宮処凛さん×成田圭祐さん×松本哉さん「2017年 希望はどこにある? ここにある!!!」〜“とんでもない場所”でつながろう〜(その2)」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    「今の世の中を変えたいという思いや希望は、投票箱におさまらない」「オルタナティブな世界を作っていないと、選挙でたとえ勝ったとしても、すぐにまた同じことが繰り返される」など、「選挙」をどう捉えるか、についてもはっとさせられました。IRAのお店の様子を紹介した、動画も是非、ご覧ください。

  2. さすが柄谷行人!

  3. James Hopkins「反戦ネットワーク(2002/08)」賛同 より:

    さて、件の松本クンはかつて法廷で、”俺は東京が好きなんだ!”と口頭陳述?していたとのことらしいが、わたしなどにはむしろ、”東京”といふ名称こそが”胡散くさい”ものにおもわれる。むしろいっそのこと”東京”を昔ながらに”江戸”と改称ないし呼称したほうが、この国は背骨が通るのではないかななどと考えているのだが、どうだろうか?
    ”江戸の打ちこわし、死人怪我人これと無し”といった風情がよろしいかなとつねづねおもっているのだが。
    今後とも、江戸東京都下の庶民を襲う、曰く”新自由主義の維新風情”連中どもの蛮行ひきまわしには、容赦しない愉快な”火消し”として活躍してほしくおもふ。
    ひどく事故った福島の”核燃料プラント”は残念ながら鎮火しそうにないが。

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