社会と政治が揺れ動いている今、リベラルの立場から行動し、発言を続けている女性二人。香山リカさんの新刊『リベラルですが、何か?』(イースト新書)刊行記念として、辻元清美さんをゲストに迎えトークイベント「怒れる大女子会」(3月7日開催@下北沢 主催:本屋B&B)が開催されました。社会運動の現場、国会の現場はどうなっているのか? この国の社会と政治を変えていくには、一人ひとりがどう動いて何をすべきなのか? 同じ年で、同時代の空気を共有してきたお二人の対話をお届けします。
香山リカ(かやま・りか)1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。立教大学現代心理学科教授、精神科医。専門は精神病理学。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。NHKラジオ第1「香山リカのココロの美容液」(金曜・夜9:30)でパーソナリティをつとめる。ベストセラー『しがみつかない生き方―「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール』(幻冬舎新書)をはじめ、単著・共著多数。近著は『叩かれ女の正論』(金慶珠・東海大学准教授と共著 イースト新書)、『半知性主義でいこう 戦争ができる国の新しい生き方』(朝日新聞出版)他。
辻元清美(つじもと・きよみ) 1960年奈良県生まれ。大阪育ち。早稲田大学教育学部卒業。学生時代にNGOを創設、世界60カ国と民間外交を進める。1996年、衆議院選挙で初当選。NPO法を議員立法で成立させ、被災者生活再建支援法、情報公開法、男女共同参画基本法、児童売春・ポルノ禁止法などの成立に尽力する。2009年に国土交通副大臣、2011年に災害ボランティア担当の内閣総理大臣補佐官を歴任。著書は『へこたれへん。』(角川書店)、『世代間連帯』(上野千鶴子・東京大学名誉教授と共著 岩波新書)、『いま、「政治の質」を変える』(岩波書店)他。
社会や政治を大きく変えようとしても、
すぐに結果は出ない?
香山 私はこの10年くらい、憲法改正、アイヌ民族差別、ヘイトスピーチや排外主義、安保法制などへの反対といった、いろいろな社会運動に参加してきました。新刊の『リベラルですが、何か?』は、私が関わった活動を通して見えてきたリベラルのこれまでの歩みと、これからのゆくえを考察している本なんです。
この本には二つの対談も収録されていて、一人は、貧困問題に取り組んでいる湯浅誠さん。もう一人は、ヘイトデモに対抗するカウンター行動を実践してきた野間易通さん。その中で二人から共通して言われたのは、「香山さんはどうしてそんなに焦っているの?」と。リベラルサイドの主張がなかなか広がらないことに対して、野間さんからは「そんなに慌てなくても、20年後に社会が良くなっていればいいじゃない」と言われたんです。これって、年齢も関係していると思うんですけど…、辻元さんと私、同じ年ですよね?
辻元 そう、同い年。政治家でいうと、長妻昭さんも、野田聖子さんも同じ。高市早苗さんも…(笑)同じ学年だったはず。
香山 佐藤優さんも同じ年なんだけど、私が焦っているのは、佐藤優さんに「僕たちの頭が正常に動くのはあと10年だ」って言われたんですよ。「この10年に何をやるかが大事で、香山さんは、何でもかんでも脈絡なくやり過ぎている。10年で何と何をきっちりやるか考えなさい」って言われた。そのときに確かに「そうか」と思ったの。だって、10年前から今までってあっという間じゃないですか。
辻元 あっという間ですよ。でも私の場合は、仕事がその日暮らしなんです。だから10年、20年の長期計画は立てられない。今は安倍政権を何とかしたいと思うから、その日、その日が精いっぱいなんですね。とにかく目の前の仕事にエネルギーを使っているので、焦るというより開き直っている感じ。
私は1983年に23歳で国際交流NGO「ピースボート」を設立して、ピースボートの活動をしていたときも、「明日死んでもいい」というくらいの気持ちでやっていた。そのときそのときを精いっぱいやるのは、すぐに結果は出ないかもしれないけれど、この先で結果が出るかしら、という希望につながるような気がする。
香山 でもね、この年になると、10年、20年、30年先になって結果が出るまで生きていられないかもしれないじゃない。だから焦ってしまうんだけど。
辻元 本(『リベラルですが、何か?』)には、香山さんの苦悩も書かれていて、読んでいて「ああ、香山リカも悩んでいるわ…」というのが感想だったのね。
私も、国会では安倍さんや自民党の議員からヤジられて、選挙のときには自民とおおさか維新の両方からバッシングされて、ものすごくへこむこともあるわけですよ。だけど私は私を批判する人たち、それこそ「おまえは何で靖国参拝しないんだー!」と言ってくるような、ネトウヨみたいな人たちに対しても責任がある、私の仕事はその人たちを守らなければいけない仕事なんです。
だから本当にしんどいんだけれど、迷ったときは、土日に大阪の地元の駅前に立って街頭演説をするんですね。あれはまあ、路上ライブみたいなもので。一方的にこちらが言いたいことをいうのが目的ではないんです。子連れのお母さんとか、杖をついた老夫婦が歩いているでしょ。普通に生活している人たちの息遣いを感じるためにやっている。自分の立ち位置をどこに置いて、誰とつながって何をしなきゃいけないのか、教えてくれる気がして、落ち込んだときはいつもそれをやっている。
香山 えらいな。私は、ヘイトデモへのカウンター行動なんかをネット上で叩かれると腹立つし、落ち込むけど、どこかで「これは本業じゃないし」と思っている。逃避しているのかもしれない。
デモや集会に参加することと、
地域でつながることはどちらも必要
辻元 私は、自分が暮らしている地域の人たちとつながるとか、話をするということをしないと、社会は変わらないと思っているわけ。国会前で声を上げることももちろん大切なんだけど、国会前には来ても、それぞれの人が住んでいる市区町村の行政がどうなっているのか、議員がどんな人なのか、関心がない場合がある。市民運動をやっている私の知り合いも、隣に住んでいるおばちゃんとは話をしない。香山さんが「リベラルサイドの主張が広がらない」と言っていたのは、そこが弱いような気がするのね。
だって、いまや全国の自治体で草の根保守が広がり、ネトウヨと同じような主張を議会で叫び倒す地方議員がどんどん増えているんだから。こちらも生活と密着したところで、水が土に沁み渡るように広げていかないとだめだと思う。
香山 だけど、それで間に合う? リベラルな集会に行くと、よく「これから一人が一人に広めていきましょう」とか言うんだけど、「それやっていたら千年かかるわ」と思ってしまうんですよ。
私は最近、社会的地位の高い人たちにも発言してほしいと思って話してみたら、何人もの人から「政治的なことはちょっと」とか言われたんだすね。それでガッカリして撃沈しちゃって。でも、同じ考えの人が集まっている集会に行くと楽しくて、意義のあることをやっている気持ちになるじゃない(笑)。地元で身近な人に広げることと、大きなデモや集会に参加することと、どちらも必要だと思うのね。
辻元 この前、福岡の博多でタクシーに乗ったら、運転手さんが私の顔を見て、いきなりこう言うわけ。「北朝鮮、あんなに経済制裁して追い詰めたら、昔の日本みたいに暴発するんじゃないかな。追い詰めればいいってものじゃないと思いますよ」って。今の政権の人たちより、しっかり見ている。だからね、地に足の着いた生活者にもっと広げていくことをしないと。社会的地位の高い人、文化人といわれる人、本をいっぱい出している人、テレビに出ている人…政治的な発言をしたがらないのなら、いくらあの人らに言ってもアカン(笑)。
香山 一人が一人に広めるだけでは、右傾化していくのを止められないと思って、影響力のある人に動いてほしかったんですよ。
辻元 私も今までさんざんいろいろな人に働きかけて、「政治的なことはちょっと」みたいなことを言われ続けてきた。でも絶望はしないようにしようと思っている。
今は社会の中に、リベラルな女とか、行動する女とか、そういう女性に対して、集中砲火のような攻撃をしてくる風潮があるでしょう。国会で質問をしても、明らかに女性の議員を蔑視して、相手を尊重しようとしない人のヤジを浴びると、精神的なDVを受けているような感じになる。でも、それでいちいち悩んでいたら、こちらが損するだけだから。
香山 リベラル系の女性に対して、昔はこれほど差別的なひどい言葉で攻撃することはなかったですよね。たとえば土井たか子さんなんかも、「独身だ」なんて叩かれることはなかった。「あの人は憲法と結婚した」と言われて尊重されていたじゃない。土井さんも、一部の保守派からはいろいろ批判されていたけれど、辻元さんたちに対する今のバッシングとは全然違うよね。
右に振れ過ぎている政治の軸を、
真ん中に戻したい
辻元 アメリカの大統領選でも、ドナルド・トランプのような人が出てきて少数者に差別的な発言をしている。一方、民主社会主義者を自称するバーニー・サンダースも健闘している。
香山 両極端ですよね。
辻元 経済が右肩上がりできた時代に、自民党はずっと与党だった。そうすると、かつては自民党の中のセンターライトかセンターレフトか、みたいな狭い振り幅の間で富の分配の方法があったわけ。野党も社会党は政権をとらない、議席は3分の1にとどまって、政治的に安定期が続いてきたのね。
ところが経済が低迷して、政権交代も起きて、今は富の分配が政治の役割ではなくなっている。分配というより、とり合いになっている。それに合わせて、振り幅がばーっと右に振れたり、左に振れたりということが日本でも世界でも起きていると思うんです。安倍政権になって右に振れている振り子を真ん中に戻すためには、左の方だけで頑張ればいいかというと、そうではないと私は思うのね。
安保法制の問題では、右の方、保守派といわれている人も反対の声を上げた。中曽根さんの子分だった山崎拓さんや、亀井静香さん、武村正義さん、藤井裕久さんは、日本記者クラブで「国民は納得しておらず、大きな禍根を残す」と反対の姿勢をアピールする会見をしたでしょう。
香山 自民党を出た人や、政治から離れた人は、安倍政権の政策に異を唱えていますよね。元首相の小泉純一郎さんも、脱原発を訴えているし。
辻元 官僚でもそう。私は、1年生議員のときから安全保障委員会にいるんだけど、イラク戦争や辺野古新基地の審議で、防衛官僚とは論戦をやってきたわけですよ。ところが集団的自衛権行使反対のシンポジウムに出たら、隣に柳澤協二さんがいる。ひょっとしたらと思って「あなた、防衛庁にいた柳澤さん?」って言ったら、「そうです」って(笑)。
保守派の人でも、安倍政権はあまりに右に振れ過ぎている、このままいったら危ない、真ん中に戻したいという人たちが出てきている。そう思うと、ただ振り子を左に引っ張ればいいというものでもない。
香山 教えてほしいんだけど、真ん中に戻すってどういうこと?
辻元 真ん中に戻すというのは、いろいろな考え方の人を包摂していくということ。安倍さんがよく、野党の発言に「レッテル貼りだ」って言うじゃないですか。彼にとっては敵か味方かだけで、つまり分断と排除なんです。政治というのはそうではなくて、どんな意見にも聞く耳をもって、包摂していかなくちゃいけないわけ。だからもう一度、政治の軸を真ん中に戻さなきゃいけないと思っている。
香山 ここまで右に振れているのに、それは可能なの? 包摂、あるいは中立って、もちろん理想はそうだと思うんだけど、いまやそんな余裕はないような気がする。「右も左もおたがいの声を聞いて、一緒にやれるようなプラットホームをつくろうよ」という、社会的な懐の深さがなくなっているように、私なんかは見えちゃうんですね。そうしたら極端に左に引っ張っていくしかないのかなと、つい思ってしまうんだけど。
辻元 そういう空気を変えるのが、選挙なんですよ。4月24日に補欠選挙が二つあるんですね。ひとつは辞職した宮崎謙介元議員の京都3区。それと町村信孝元衆議院議長が亡くなった後の北海道5区。この二つの補選で野党が勝てば、「何か動いているのかな」という雰囲気が有権者の中に生まれて、変わってくる。そうすれば右に振り切れそうになっているのが、少し真ん中に寄せてくる。参院選でも、希望が見えてくると思う。
市民が声を上げれば、
野党の議員は勇気づけられる
香山 参院選は、衆参同日選挙になるかもしれないといわれていますよね。参院選に向けて今、各地で市民連合ができて、一人区での野党統一候補が次々決まっているんだけど、もし同日選挙になったら野党共闘がうまくいかなくなるってことはないの?
辻元 いや、そんなことはないと思う。同日選挙になった場合も想定して、野党間の調整をやっているはず。統一候補を決めるのも、水面下ではさんざん話し合いをしてきたんです。市民運動の側の人たちからは、「何で共闘できないんだ!」とか「どないなってんねん!」とか責められたんだけど、政治は技術も必要で、いろいろ調整をしてから出さないとだめになることもある。そこはわかってほしいと思うんだけれど。
香山 じゃあ私たち市民はどうすればいいの? 選挙まで調整がうまくいくのを祈ってじっと待っていればいい?
辻元 ううん、市民運動をどんどんやってほしい。市民運動と政治の関係を私はずっと考えてきた。ピースボートを運営して、政治の外側から「こういう政策を実現してほしい」という市民運動をやり、その後政治の世界に入って、国会の中に入って、総理大臣補佐官になってからは、官邸の中で市民の声を受ける側も経験している。3・11をきっかけに原発反対のデモの声が大きくなっていったときも、私たちは官邸の中でその声を聞いていて「どんどんやって!」みたいな思いだったんですよ。当時の民主党政権、内閣は、脱原発の方向をめざそうとしていたから。
政権の側にいるからといって、すぐに全部の原発を廃止することは難しい。たとえば原発立地県である福井県の県議会では「再稼働しろ」という声が圧倒的に強いわけでしょう。でも、原発反対の市民の声が大きくなれば、「ほら、反対している人がこんなにたくさんいるじゃないですか」と言えるわけですね。
市民が「改憲反対」「安保法制を廃止しろ」「私たちは忘れていないぞ」と声を上げることは、同じ思いの議員を動きやすくするのです。選挙で野党が勝つためには、市民と野党の議員が協力しながら、それぞれの場所で声を上げていくことが大事なんじゃないかな。
香山 最近の市民の動きでいうと、待機児童の問題がありますよね。「保育園落ちた日本死ね!!!」という匿名のブログが国会で取り上げられて、子育てをしている人たちが抗議行動をしている。これは右とか左とか関係なく、普通の母親たちが立ち上がって、急速に広がっていくように見えるんだけど、政治家はどう見ているの?
辻元 ああいうのが、今の政権は嫌なんですよ。どこからわき起こってきたのかわからないけど、普通の人が集まって、どんどん声が大きくなりそうな現象はものすごく気になっていると思う。
湯浅誠さんが「年越し派遣村」の村長をやったときも、日比谷公園という厚生労働省のすぐ隣で行ったことによって、それまで世の中に隠れていた貧困問題が、あれで一気に見えてしまったわけ。同じように待機児童の問題も、国会前で「保育園落ちたの私だ」っていうプラカードを掲げて可視化した。ああいう動きを、今の政権は警戒していると思いますね。
香山 「保育園落ちた日本死ね!!!」みたいなインパクトのあるメッセージで問題を可視化すれば、社会を変えられる?
辻元 自分たちが思い描くような世の中にするには、いろいろな方法がありますよね。あちこちでいろいろな形の市民の動きがガスのようにブクブク出てきている。今度の選挙は、たぶん厳しい選挙になる。でも、この国が抱えているさまざまな問題に向き合って、同じ思いで行動している市民の姿が見えれば見えるほど、私たち野党は勇気づけられる。元気づけられるんですよ。
【イベント参加者との質疑応答】
対談後、会場からの質問に香山さんと辻元さんが答えました。一部を抜粋してご紹介します。
――安倍政権はメディアコントロールが長けているといわれています。支持率が落ちないのは、安倍政権の思惑に誘導されている人が多いからでしょうか?
辻元 安倍政権は株価に支えられていて、生活が苦しくても株価が下がらなければ、いつか経済は良くなっていくんじゃないかという国民の願望に引っ張られているフシがありますよね。
それと安倍さんたちは、ことあるごとに民主党政権をバッシングするでしょう。安倍さんは「リーマンショックや大震災のような危機的な事態が起きれば、消費税を10%に増税できない」と言っている。だけど、その二つは民主党政権で起きているんです。リーマンショックの直後に民主党政権が誕生して、1年半後に東日本大震災があった。そんな状況で政権を担って、経済もゼロからちょっと上向きにしたのに、「民主党政権の経済政策はどうだった、こうだった」と言う。
そういうネガティブキャンペーンがネット上でもさかんに行われていて、「自民党政権は民主党政権よりはマシ」みたいな気分が蔓延しているために、支持率が保たれているのかなと思ったりします。
香山 私は、安倍政権は幅広く支持されているなと思っています。
たとえば、熱烈に支持しているネトウヨ的な人たちがいますよね。敵を見つけて、朝日新聞であったり、民主党であったり、中国や韓国であったり、「この人たちのせいで、みなさんの名誉が傷ついているんですよ」みたいな安倍さんたちの主張に共感している層ですね。
かと思えば、政権がやっていることにはほとんど関心がないけれど、なんとなく支持している人たちもいる。安倍さんって、見た目が「強面のオヤジ」ではないじゃない? だから安倍さんの薄っぺらな発言を聞いても、「育ちがよさそうじゃない」「感じ悪くないじゃない」というように、ふわっと支持している。
それこそ包摂じゃないけれど、自民党はいろいろな層の人たちを、取り込んでいますよね。熱烈支持の人から、なんとなく支持している人から、その日の生活で精いっぱいで深くものごとを考えるゆとりのない人まで。不幸なことだと思いますけど。
――香山さんがヘイトスピーチに対して、カウンター行動をされている動画をネットで見ました。ビックリしたんですけど、実際の現場はどのようなものなのでしょうか?
香山 カウンターは、その場に行ってヘイトスピーチをしている人たちを激しく叱るというのが役割なんですね。だって「朝鮮人死ねー!」とか、「いい朝鮮人も悪い朝鮮人もみんな殺せー!」とか言いながら歩いているんですから。実際に初めて見たときは、私の人生で、直接目撃したものの中では最悪の光景でした。
現場では彼らと話し合うなんて余地はまったくなくて、とにかく叱るしかない。そうすると今度はヘイトスピーチがカウンター側に向けられて、「香山リカ死ねー!」と言われる。そうやって罵詈雑言をカウンター側に向けさせて、彼らのひどい言葉が路上に垂れ流されるのを防ぐしかない状態になっているんです。ヘイトスピーチの現場は、ぜひ一度行って見てみるといいと思いますよ。
辻元 日本の国内で行われているヘイトスピーチは、国連の人種差別撤廃委員会から法規制するように勧告されて問題になっているんです。
昨年、民主党や社民党は、差別の規制を立法化するための法案(人種差別撤廃施策推進法案)を参院に提出したんですね。ところが自民党が反対した。「表現の自由との兼ね合いがある」といって採決が見送られたんです。私たちは、選択的夫婦別姓を含む民法改正案とか、LGBTの差別禁止法案とか、人権関係の法案をいくつか出しているので、何とか法律をつくって解決していきたいと思っています。
――難民問題は今、世界中で重要な問題になっています。日本は、難民・移民問題にどう対応したらいいのでしょうか? 辻元さんは、イスラム教徒の受け入れについては、どのように考えますか?
辻元 日本の難民・移民の受け入れは進んでいなくて、私はまず難民を受け入れない国というのは国際的に恥ずかしいと思っているわけですね。現政権は、排他的なルールを敷いているので、国際的なスタンダードにのっとって受け入れる方向にしなくてはいけないと考えています。
イスラム教徒の難民についていえば、現地のNGOの人の話を聞くと、「日本に来たい」と希望する人はそんなに多くないという現実がある。それはやはり文化とか、慣習とか、言葉の壁があるから。一方で「日本で病気の治療をしたい」という要望は多いそうです。だから、そういう要望があるなら、人道支援として受け入れていくべきだと私は思っているんです。
それから移民については、これも受け入れる制度をつくろうという議論はしているけれど進んでいない。ただし、移民の問題は、かりに政治が国を開こうとしても、移民を受け入れる土壌がないとだめなんです。いきなり受け入れても、社会の中に共生していく空気がなければ、来た人が幸せになれるかどうわからない。移民に関しては、日本はヘイトスピーチなんかを許している国だから、政治と社会が並行して土壌から変えていかなあかんな、と思っています。
――精神科の医師としての香山さんにお聞きしたいのですが、安倍さんの発言はあまりにもおかしい。専門家の間では、どのようにとらえられているのでしょうか?
香山 精神科医の研究会などでは、面白い活発な議論があって「私から見たらこういう状況だ」ということも話します。だけど外では言いづらいんですね。従来は、政治家のような公人がどういう状況にあるのか、社会病理学的な見地から批評する方法論があったんです。それが今は、すごくやりにくくなっている。
それは私の個人の経験では、橋下徹・前大阪市長からですね。橋下さんの態度に対して、専門的な視点で論述したら、ものすごく攻撃された。「病気呼ばわりするとは何とかだ」と言われて、いろいろな人たちから叩かれたんです。
イギリスの精神科医のデービッド・オーエンという人は、ヒュブリス・シンドローム(傲慢症候群)という概念を提唱していて、ブッシュ元大統領やブレア元首相を分析しているんですね。私もそれを使って、安倍さんの状況を本に書きましたけど、公人が分析の対象になるのは当たり前のこと。それが自由にできないのは異常だと思います。
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香山さんの新著『リベラルですが、何か?』は、スタッフレビューでも紹介しています。こちらもあわせてご覧ください。
結果を出さないと、と焦る香山さんにも、草の根でじっくり広げていかないと、という辻元さんにも、思わずうなずいてしまいます。国会前には来ても住んでいる市区町村の議員のことを知らない人は多いという意見には、私たちも学ぶところがあるはず。
意見の活発化は歓迎すべきことである。しかし、活発化しているのは意見ではない様だ。感情の発露、つまり雑音、騒音である。彼等は、権力を批判する行為に対して雑音、騒音を浴びせることで自分のバランスを図っているのだろう。これは、若者達がいかに社会に不安を抱いているかの裏返しでもある。同時に、民主主義が後退していることの表れでもあるのだ。なぜなら、民主主義は国民が権力を監視し、批判し改善を要求することができるから進歩するからだ。自分の不安を取り除くことが優先、人権保障が後退することに気づかないのだ。「明日の自分は今日作る」。想像力がものをいう時代になった。 政権側は国民に不安を煽り求心力を高めていく。この常套手段が功を奏している。「中国脅威論」等はその典型例だ。学校では中国侵略の歴史を教えることがないのだ。「良きことはカタツムリの速度で動く」(ガンディの言葉)。香山さん、辻元さん頑張って下さい。