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藻谷浩介 NHK広島取材班/角川oneテーマ21

 タイトルは、NHKがかつて制作した番組であり、書籍化された『マネー資本主義』の対極にあるものとして生み出された造語である。カネがカネを生む錬金術のような世界ではなく、私たちの身近にある自然に手を加えることによって、新しい価値をつくり出していく。そんな経済活動のあり方だ。
 本書では様々な事例が紹介される。
 標高1000メートル級の山々が連なる岡山県真庭市にある30ほどの製材業者は、住宅着工の低迷(安い外国産材の輸入による打撃もあるだろう)などにより厳しい経営を続けているが、そのうちの1社、銘建工業は、丸太を加工する段階で発生する木くず(年間約4t)を自社の発電施設に利用して売電し(出力2000kWh。一般家庭2000世帯分に相当)、それでも消費しきれないものを木質ペレットにして販売している。それまで木くずは産業廃棄物として有料(年間2億4000万円)で処理されていた。
 同社がモデルとするのはオーストリアだ。アルプスの山々が切り立つヨーロッパの小国では、化石燃料から木材へのエネルギーシフトが進み、いまではコンクリート並みの強度をもつ集成材(クロス・レミネイテッド・ティンバー)による木造の高層住宅が建設されるまでになっている。
オーストリアは憲法に「脱原発」を明記している国だ。国際市況に大きく左右される、石油や天然ガス、ウランなどのエネルギー価格に振り回されることなく、自分たちの足下にある資源を最大限に生かす――これが里山資本主義の考え方である。
 エネルギーだけではない。広島県庄原市の高齢者や障害者の施設を運営する社会福祉法人は、近所の農家のお年寄りが自分たちでは食べきれず腐らせていた野菜を買い取ることで、お年寄りに新しい実入りをつくり、自らは食費の抑制につなげている。
 こう書くと、当たり前のように聞こえるかもしれないが、お金を地域のなかで回すことの大切さに気づかないほど、私たちはグローバル市場に取り込まれていた。
 里山資本主義は、新しい経済活動を通してコミュニティを新たに再生する役割も果たすだろう。
 自分たちの食い扶持は自分たちで調達する。足りない部分はお互いに融通し合う。生殺与奪の権利を、マネー資本主義や原子力発電所に握らせることなく、自らの手に。それがもたらす安心感にこそ、私たちの未来がある。

(芳地隆之)

 

  

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vol.223 里山資本主義
日本経済は「安心の原理」で動く
」 に1件のコメント

  1. 別に里山じゃなくってもいいと思うんだけども、人類共通のごく一般の人にとって幸せとは「地元の学校に行って、地元で就職して、地元で結婚して、地元で子育てして、地元で親の面倒みて、先祖伝来の墓に入る」てことだと思うんですよ。故郷捨てるのは、中原中也とか石川啄木とかみたいな一部の奇人変人だけで良くって。その幸せの基本がしっかり認識されていないところに、世界的な問題があると思いますね。みんな地元で暮らせるようになれば、排外主義のヘイトスピーチなんてものも起きなくなる。

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