(田口理穂/大月書店)
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ドイツでは再生可能エネルギーによる電力を電力会社に買い取らせる固定価格買取制度が、その普及を進めてきた。今後は固定価格が2割以上引き下げられるという。理由は電気料金の高騰を抑えるためとのことで、それをもってドイツの自然エネルギー政策の失敗と評する日本の論者もいるが、むしろ、ドイツ政府は公的援助を減らすことによって、再生可能エネルギーに市場競争力をもたせる段階へ進ませようとしているのではないか。
1986年のチェルノブイリ原発事故によって萌芽した自然エネルギー志向が、ドイツを同分野のトップランナーに押し上げたといえる。そのスタートはドイツ南部の小さな町シェーナウに住む人々の危機感からであった。
本書は、5人の子供をもつスラーデク夫妻の反原発運動が原発に頼らない電力会社を自前で立ち上げ、それが欧州規模に普及するまでを描く。まだドイツでも電力会社が発電・送電・配電を独占していたころだ。電力の自由化が議論に上がるずっと以前に、シェーナウの人々は自分たちの町へ電力を供給する大手電力会社から送電網を買い取ることを決める。
当時は考えられない行為だった。電力会社からは「訴えられないだけでも、ありがたく思え」と脅された。それでも市民は寄付を募ってファンドを設立し、様々なハードルを乗り越えて送電網の買い取りを実現する。そしてシェーナウ電力会社を立ち上げ、太陽光や熱電併給による発電設備をもつにいたるのである。
その過程を描く筆者の文章はほのぼの、ときにユーモラスだ。「楽しくなければ運動は続かない」というシェーナウの人々のモットーが伝わってくる。
シェーナウ電力会社はエコロジーの思想だけで支えられているのではない。コスト面でも、たとえばドイツのグリーンピースエネルギー調査によれば、2010年の風力発電が1キロワット時あたり7.6セント(8円)、水力が6.5セント(7円)と、原子力の12.8セント(13円)より安いとの結果が出ている。この計算には再生可能エネルギーへの補助金と原子力へのそれの差額も考慮されているが、前者は固定価格買取制度がなくなっても生き残れる業界を目指していることはいうまでもない。
ドイツのエネルギー政策の概況については第5章で知ることができる。シェーナウでの小さな試みから国のエネルギー政策の方向性が定められるまでを、ひとつのストーリーとして読んでほしい。同じ志をもつ日本の読者はきっと勇気づけられるだろう。
(芳地隆之)