マガ9レビュー

(平田オリザ著/講談社現代新書)

 いま、この国に私たちは3つの寂しさを抱えていると著者はいう。①日本は、もはや工業立国ではない、②日本はもう、成長社会に戻ることはない、③日本はもはやアジア唯一の先進国ではない。なかでも③については、「私たち日本人のほとんどの人の中にある無意識の優越意識」が邪魔をし、「この寂しさに耐えられずヘイトスピーチを繰り返す」人々を生むことにもなっている。

 まずは大量生産・大量消費を謳歌していた時代は過ぎ去った事実を真正面から受け止めよ、ということなのだが、では、これからどうやって生きていくのか。本書は、そのヒントを日本の各地で行われている試みを紹介しながら探っていく。

 タイトルから「経済成長を望めなくなったいま、みんなでのんびり暮らしていこう」といったスローライフ的なメッセージを予想する向きもあると思う。しかし、根性と体力でノルマを達成できるような人材がアジアに10億人はいるだろう現在、サービス産業が中心となった日本に住む人々は、他の人が真似できないような発想=付加価値を生む仕事で生き残っていくしかないというのが本筋に近い。下り坂を下りるのにも努力がいるのである。

 しかしながら、この国を見回してみて、そうしたセンスを生む土壌がどれだけあるのだろうか。著者は少子化と絡めてこう論ずる。

 「街中に、映画館もジャズ喫茶もライブハウスも古本屋もなくし、のっぺりとしたつまらない街、男女の出会いのない街を創っておいて、行政が慣れない婚活パーティーなどやっている。本末転倒ではないか」

 男女が偶然に出会える場がどんどん少なくなっている日本のまち、とりわけ人口減少に悩む地方で一番欠けているのは「艶」=「文化」ではないか。

 著者は文化度を測る目安のひとつとして、「お母さんが昼間、子どもを保育園に預けて芝居を見に行っても、後ろ指さされない世の中」を挙げている。そこはたぶん、いまより居心地のいいところだろう。

 そこまで読んで感心していたら、著者の考察は日本を越えて、ソウルや北京にまで飛び、私の想像力を大いに刺激してくれた。

(芳地隆之)

 

  

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