マガ9レビュー

(香山リカ著/イースト新書)

 2015年の夏、安保法制反対の抗議行動で人々があふれる国会前の路上で、香山さんは声をかけた私にこう言った。
 「マガジン9? ああ、私しばらく何もご協力してませんでしたよね。なんでもやりますから! また、何かやりましょう!」
 正直言って、少し驚いた。著者の方から「なんでもやる」と申し出を受けることは、そんなにあることではない。加えて、マガジン9は潤沢に謝礼をお支払いしているわけではないからだ。

 その出来事の少し前あたりから、香山リカ、どうしたんだろう? と思っていた。保守の論陣をはる某漫画家とアイヌ民族問題で論争となりネット上で炎上、ある意味こてんぱんにやられてしまったのだが、ひるむ間もなく彼女はたちあがった。国会前での安保法制反対の活動のみならず、反原発や改憲反対、女性やマイノリティーによりそうイベント等で積極的に登壇しスピーチする姿もよく見かける。さらには、ヘイトスピーチをまき散らす団体のデモに対し、一人で立ち向かい声をあげ顔をゆがめて非難する姿がSNSで拡散され、賞賛とひどい言いがかりをたくさんその身に受けてもいた。
 あの、80年代から活躍してきたサブカルのクール・ビューティ。どうしたんだ? 何があった? と私は注目していた。もちろん、尊敬の念をこめて。

 近著『リベラルですが、何か?』(イースト新書)は、その彼女が自身の変化の理由と、現在の状況に対する危機感を正直につづっている。分析と自戒、そして今後への決意表明ともいえる内容だ。
 新自由主義と弱者切り捨てがデフォルトとなり、差別がまかりとおり、平和主義が風前のともしびとなっているこの状況にリベラル勢力が抗しきれていないことについて、香山さんは〈いまの日本の政治の場でも社会においてもリベラル派あるいはリベラル的世論が著しく勢いを失っている決定的な要因は、「湾岸戦争反対声明」の後のリベラル知識人たちの沈黙にあったのではないだろうか〉〈「ポストモダンの時代」「物語も歴史も終わった」などと言い、(中略)浮かれていたリベラル派たちの読み間違いに大きな責任がある〉と、自身を含めたリベラル知識人たちが冷笑系のスタンスを崩さず何もしてこなかったことを理由にあげる。その一方で、反対側の人たちは着々と「新しい物語」を提供し、足場を固めてきたのだと。
 香山さんと同世代の私には、この忸怩たる気持ちがよくわかる。私は、彼女のように発表の場を持ち、影響力を持てる「知識人」ではなかったけれど、平和と人権は守ることが当然だと教えられ信じてきた世代だ。戦争もなく、右肩あがりの時代を生き、男女平等であり、差別はいけないことと思ってきた。別に冷笑系で来たとは思っていないけれど、気が付いてみたら、世の中、大変なことになっていた。こうなってしまったのは、現在大人である私たちがどこかで間違ってしまったのではないだろうか? いや、何もしてこなかったから、何も見てこなかったから、こうなったのではないか? と感じている。何をすればよかったのか? これから何をしていけばいいのか? と自問自答しながら、国会前や反原発集会へと足を運んでいるからだ。香山さんは、そんな私たちのSTRUGGLE(奮闘努力)の象徴のように思える。

 本書の後半、香山さんは野間易道氏と湯浅誠氏という(彼女よりも年下で、サブカル世代ではない)実践的な活動家二人と、対談をしている。反省と危機感、そして今後の展望を探る香山さんに対して語る二人の言葉は、興味深く示唆に富む。
 通読して思う。安保法制反対だったり、反原発だったり、ヘイトスピーチ反対だったり、辺野古基地建設反対だったり、反貧困だったり、男女平等やLGBTの権利の尊重だったり、保育園や介護施設充実だったり、自然保護だったり、「最低賃金をあげろ」だったり、被災地復興だったり……一人ひとりがあきらめずにSTRUGGLEしていくしかないんじゃないか。できることを、できる場所で。
〈私はもう誰にも遠慮せず、何にも忖度せず、自由と平和と民主主義のためにジブンができるあらゆることをやっていこう〉――香山さんは、2015年にこう結論を出したという。
 香山さん、STRUGGLE! 一緒にもがきながら、戦っていきましょう。

(気仙沼 椿)

 

  

※コメントは承認制です。
vol.266 リベラルですが、何か?」 に1件のコメント

  1. 軽いな〜こんな軽くていいんだろうか? まあそれはいいとしても、ポストモダンに関して、俺の見解は全然違ってて、ポストモダンは流行として終わったのではなく、現実になってしまったから問題なんですよ。近代や民主主義、グローバリゼーションやリベラルを、「お前らの時代は終わったんだよ。早くそこどけー!」という感じで、近代批判をしてた思想家も含めて全ての存在を脅かすものとして、海の向こうで武器持って立っている。さらに一部はテロという形ですでにこちら側に入り込んでいる。その現実を直視せずにリベラルに逃げ込むのってどーなのよってこと!元々リベラルの人はいいんだけどね。

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