マガ9レビュー

(鵜飼秀徳著/日経BP社)

 増田寛也元総務相が座長を務める「日本創成会議」が昨年5月に「2040年までに全国896自治体で、20~39歳の女性が半減し、人口減少が止まらず行政機能の維持が困難になる」という「消滅可能都市」リストを発表し、多くの基礎自治体に衝撃を与えたのは記憶に新しい。その増田氏の著作『地方消滅』(中公新書)は新書大賞2015を受賞した。

 本書のタイトルは2番煎じのようだが、具体的な数値を出して警鐘を鳴らした、いわゆる増田リポートに対し、こちらは地方のお寺が置かれた現状を報告するルポルタージュである。

 現在、全国に約7万7000ある寺院のうち、住職がいない無住寺院は約2万カ寺、さらに宗教活動を停止した不活動寺院は2000カ寺以上だという。そこから浮かび上がってくるのは、時代の変化に対応できず、存続の危機に立たされている寺院の姿だ。地縁・血縁が薄れ、核家族化が進むとともに、檀家制度は機能しなくなり、住職の収入は減少している。独居老人が人知れず亡くなったため、葬式を行わず、火葬場で10分読経をするだけに僧侶が呼ばれることも珍しくない。本書では、集合住宅の一室で活動から始めた住職らの生き残りのための苦労や工夫も紹介されている。

 ここで問われているのは旧態依然の宗教のあり方である。「戦争に加担した日本仏教」などが語られる「三章 宗教崩壊の歴史を振り返る」は、初めはやや唐突感はあったものの、私たちの宗教の歴史として知っておくべきという点で得心した。

 日本人の宗教に対する姿勢はいい加減だとは、内外でしばしば指摘されるところである。先祖を参るためお寺で墓参りをし、クリスマスを祝い、神社で願掛けをする。節操がないといわれれば、確かにそうなのだが、本書を読むと、日本人の宗教観は、信仰よりも、地域のつながりを重視していることがわかる。地域住民の多くは「場」としてのお寺を必要としているだろう。

 とすれば、お寺がこれから担っていくべきは、布教活動だけではなく、人々が気軽に集まれる場を自らのところで形成することだろう。

(芳地隆之)

 

  

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

最新10title : マガ9レビュー

Featuring Top 10/66 of マガ9レビュー

マガ9のコンテンツ

カテゴリー