マガ9レビュー

(原田泰著/中公新書)

 通りに人が行き倒れていたり、子どもが物乞いをしたりしているような社会に誰も住みたいとは思わないだろう(「自分が金持ちになれるのであれば、貧乏人が増えても構わない」という人は除く)。日本国憲法25条には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と定められている。にもかかわらず、貧困層が拡大している現状においては、国がすべての成人1人ひとりにお金を配って、これを実現すればいい。

 このベーシック・インカム(BI)を導入すべしというのが本書の主張である。こう書くと「BIはバラマキであり、国民が無条件に一定額を受け取れば、働かない人も出てくる」といった批判がくるだろう。それを想定済みの著者は、群馬県の吾妻川で建設されている八ッ場ダムの建設を例に挙げて、こう書く。

 「総額1000億円にもなるだろう工事で、どれだけの雇用が生まれたのだろうか。(中略)必要のないダムを必要だとして予算を要求し、設計し、難しい工事をしていた人々は働いていたことになるのだろうか」(現在、議論になっている建設総額2520億円の新国立競技場もしかり)。

 BIはバラマキかもしれない。しかし、税金の無駄遣いではない。本書によれば、BIを導入する代わりに、所得控除を廃止することで、シンプルに所得へ課税することができる。配偶者や子どもの扶養控除、基礎控除なども同様だ。代わりに子どもにもBIを支給すればいい(本書では成人全員に年間84万円、子どもに同3万円を与えるケースで計算している)。将来続出するといわれる無年金者もぎりぎり救えるだろう。

 問題は本当に困っている人に福祉のお金が届かないことなのである。失業給付制度が、失職するケースが少ない正社員に手厚く、非正規社員には十分行き届かないという奇妙なものであることを考えれば、BIはまだ公平だといえるのではないだろうか。

 これらの制度改革により、国の支出は減ることを示す計算については直接読んでほしい。

 BIは世界のどの国にも導入されていない。ベストな策ではないかもしれない。しかし、現行の制度よりもベターならば、その方がいいとする著者の思考と文章はいつも直截でクールだ。

(芳地隆之)

 

  

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