マガ9レビュー

(高橋真樹著/岩波ジュニア新書)

 全国各地で行われている自然エネルギーに関する本書のリポートが楽しそうなのはなぜか。それらが脱原発運動にとどまらない、地域を持続可能なものにしていこうとする住民の試みだからだと思う。

 神奈川県小田原市では、100年前につくられた水路を掘り起し、小水力発電の整備を行っている。1世紀前、同市の山林では「流れ込み式」とも呼ばれる発電事業が行われていた。出力が1000キロワット(一般家庭300世帯分の電気)以下の水力発電を指すそれは、大工事を必要とするダム式の水力発電に対して、川の流れを止めずに発電することが可能なのである。

 福島県南相馬市では、放射能の影響で耕作放棄地になる危険性のある農地に、ソーラーパネルを並べながら、農業と発電を同時に行うソーラーシェアリングの挑戦がなされている。岐阜県郡上市の小水力発電プロジェクトは、そもそも少子化による廃校の危機に瀕した地元の小学校を残したいというところからスタートした。

 「ご当地電力」は実に様々だ。自然環境や産業構造によって、自然エネルギーのあり方だけでなく、モチベーションさえ違うものの、担い手の中心が地域の人々であることに変わりはない。彼、彼女らに共通するのは大手電力会社に首根っこを掴まれているような立場から自由になることだろう。

 福島県喜多方市で江戸時代からつづく造り酒屋「大和川酒造店」の9代目当主だった佐藤彌右衛門さんが「会津電力株式会社」を立ち上げたのは、「きれいな水と食料さえあれば、地域は自立してやっていける」という信念を福島原発事故でひっくり返されたからだ。佐藤さんはいま、「エネルギーの植民地」という構造を変えようとしている。

 本書を読んであらためて思う。町づくりとは、イベントで人をたくさん呼びよせることではなく、そこに住む人が自前で生活できるような仕組みをつくることなのだ、と。

 むやみに風力発電やソーラーパネルを設置することよりも、断熱材を活用した住宅によってエアコン不要の省エネに努めることの大切さを本書が説いていることも強調しておこう。

(芳地隆之)

 

  

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