マガ9レビュー

(山下祐介/ちくま新書)

 昨年(2014年)5月に発表された日本創成会議・人口問題検討分科会の報告「成長を続ける21世紀のために『ストップ少子化・地方元気戦略』」(通称「増田リポート」)は、このまま人口減少が進めば、「2040年までに全国の市町村の半数が消滅する可能性がある」として世間に衝撃を与えた。人口統計に基づいたその予測に異論はないものの、私には大いに違和感があった。というのも、増田リポートが「これから人口が減っていったら大変なことになるぞ」と私たちに脅しをかけているように感じたからである。

 そうした脅しの後にしばしばくるのが、「そのような事態を避けたかったら、こちらの言う処方箋に従いなさい」といった論調だ。同リポートの場合のそれは、東京から人口を地方に移動させることと同時に、各地方において選択と集中を推進すること、具体的には県庁所在地などの中核都市に人を集めよという政策である。

 『限界集落の真実――過疎の村は消えるか』で、ダムの建設など人工的な政策で消えた集落はあっても、人口減少が進んだことによってなくなった集落はない、として過疎地を切り捨てようとする政策に異議を唱えた著者は、増田リポートの目指すところは各地方に東京のような人口集中地域をつくることにあると指摘する。その根底にあるのは、日本がいかに国際競争力をつけるかという経済効率を第一とする考え方であり、論点が、人口減少問題の解決から、いかに日本の国力をつくるかという議論に横滑りしていくのである。

 そうした経済効率向上に傾いた発想こそが現在の少子高齢化を生んだのではなかったか。はたして増田リポートが主張するような政策が、人口減少をストップさせ、さらにいえば日本経済を成長基調に乗せられるのかといえば、疑問である。

 地方の中核都市は、その規模からして住民参加を難しくさせる。著者は「平成の大合併」が、財政(カネ)をとるか、自治(心)をとるかの二者択一を迫るものであったとして、「素直に国の意向に従って財政の方をとったところが、結局は人口減少が止まらなくなり、あらためて地域政策をやり直そうにも地方自治の手がかりが失われて手のつけようのない事態に陥っている」という。住民の肌感覚に近い市町村の役所と地域の人々との連携が今後はより求められよう。

 子育て支援のために保育園を増やし、待機児童をなくすという目標は大切だ。しかし、子育てのために夫婦が共働きを「しなければならない」という状況になるとすれば本末転倒である。子どもを産み育てたい社会とはどういうもので、そのために国のかたちはどうあるべきか。

 増田リポート批判を越え、新たな国家ビジョンを示しているところに本書の真骨頂はある。

(芳地隆之)

 

  

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

最新10title : マガ9レビュー

Featuring Top 10/66 of マガ9レビュー

マガ9のコンテンツ

カテゴリー