マガ9レビュー

(金子勝・武本俊彦/集英社新書)

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 日本政府は、これからは「攻めの農業」だという。生産から流通・販売までを結びつけ、収益性のアップを図ることを基本に、消費者起点に立った安全・安心で優れた農産物やその加工品を生産し、売り込んでいくことを目指す、らしい。すばらしいことだが、スローガンは総花的で、いいとこ取りのように聞こえる。

 本書が提言する「コメの6次産業化」。それは「コメを生産して出荷するだけだったのを、ご飯や米菓に加工したり、あるいは直売所で販売したり、消費者に宅配便で直送したりすることへの転換」であり、「その際、農家自身が生産・加工・販売を行うという『事業融合』のタイプもあれば、販売部門や加工部門はそれぞれの専門業者との『事業連携』というタイプもある」との記述を読んで、なるほどと得心した。

 そのような動きはすでに全国各地で展開されている。本書の肝は、そこに自然エネルギーの自給を加えたところにある。

 といって、大企業を誘致し、太陽光や風力の発電所を建設してもらうことはお勧めできない。それで得られた利益は、地元の税収増には貢献するものの、ほとんどが大都市に置かれた本社に吸い上げられるだけであり、しかもその企業が撤退したら、使い古された太陽光パネルなどが産業廃棄物として残されてしまう。

 私の祖父母は香川県の瀬戸内海に近い農家でコメと玉ねぎとミカンをつくっていたが、それだけでは生計が成り立たないので、養豚も営んでいた。その次々世代に当たる私のかつての同級生には、地元で学校の教師や会社勤めの傍ら、田んぼでコメを、畑で野菜をつくっている者が少なくない。そもそも山地の多い日本では専業農家としてやっていけるほど、耕作地を広くもてないから、兼業農家は合理的なのである。

 そして、日本の田舎は自然エネルギーの宝庫。農家と勤め人の組み合わせが可能ならば、農業と発電業の兼業もありだ。地域の特性――自然環境、産業構造、生活慣習など――を活用して生まれる電力を地元に供給し、余った分は売電すればよい。

 エネルギー兼業農家という仕事のスタイルが広がれば、地方は中央政府からの補助金や公共事業、あるいは原子力発電所に依存することなく、経済的に自立できるようになるだろう。

 本書はそのためのとば口である。自分たち流にアレンジしたフォロワーが全国各地で続々現れることを想像しながら読んでいたら、土をいじりたくなってきた。

(芳地隆之)

 

  

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