マガ9レビュー

(仲藤里美/ころから)

作ること=生きること クラフトワーカーのもの語り

 「手」という言葉はいろいろな表現に使われる。「向こうは手強い」とか「手柄を立てる」、あるいは「わが子を手塩にかけて育てる」など。ところが現代の私たちの日常を見渡してみるに、そうした「手」にまつわる感覚が鈍くなっているのではないかと思うときがある。

 本書には、いまの世の中で失われつつある「手仕事」を取り戻そうとしている人々が登場する。主に東京・雑司が谷の鬼子母神&大鳥神社で毎月1回開催されている「手創り市」に出展しているクラフトワーカーたちだ。彼、彼女の作品は、すてきな陶器のコーヒーカップ、かぎ針編みでつくったニットの帽子、やさしい色合いの漆器や漆箸、絹織物「銘仙」をアレンジした洋服、どこかユーモラスな苔玉やミニ盆栽、インド・ベンガルの職人の手による軽やかなストール、芯に少しずつ蝋を塗り重ねてできていく和蝋燭、木を削り、それに漆を塗るまでを一人でやる木地師兼漆職人の茶碗……。

 それらを手にした著者の関心は作り手の人生にまで広がっていく。

 教師を辞めて修行に入った、もともとものづくりが好きだった、時間に追われる仕事に疑問を感じた――各人のこれまでの歩みは少し変わっているが、とくにドラマチックではない。それでも読ませるのは、著者の「どんな人生にもつまらないものはない」という人への好奇心ゆえだろう。語学好きが講じたあげく、自分がつくったノートや好きな挿絵を束ねて糸を通し自家製本までつくってしまった人、妻の頭のなかに浮かぶイメージを商品にして空想雑貨と銘打って売っている人には思わず笑ってしまった。

 本書に登場する11組のクラフトワーカーに共通するのは「手応え」のある仕事をしたいという思いではないか。私たちが、彼、彼女の日々の生業に共感するとすれば、この時代のなかで生殺与奪の権利を自分以外の何か、誰かに握られていることへの違和感を抱いているからに違いない。

 本書の装丁は、京都・聚落社の和紙職人が染めた和紙でできている。柔らかな手触りを感じながら、ゆっくりページを繰ってほしい。作り手たちの言葉が、著者のフィルターを通ることによって、息遣いまで運んできてくれる。

(芳地隆之)

 

  

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