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2012年米国・日本/ピーター・ウェーバー監督

 われわれは支配者ではなく解放者である。だから武器は携行するな――1945年8月30日、連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーは厚木海軍飛行場に降り立つ直前、専用機内の部下たちに告げる。彼の最大の任務は、敗戦直後の日本に自ら国を再建する道筋をつけること。そこには占領政策を成功裏に終えて、次期大統領選立候補への布石を打つという野心もあった。

 マッカーサーはまず戦争における天皇の責任の所在を明らかにする作業に着手する。重要な点は、国家元首たる天皇が開戦を決断したのか、否か。「天皇は免責になるのか、逮捕されるのか、10日間以内に調べて、報告書を提出しろ」。マッカーサーは情報将校のフェラーズに命ずる。

 調査は難航を極めた。天皇の側近、木戸幸一は約束の面談をすっぽかし、宮内省の関屋貞三郎は、現人神たる天皇は自分の意見は表明しないと言って、開戦当時に天皇が詠んだ歌を繰り返す。捉えどころがない。

 その間に挿入されるフェラーズと日本人女性アヤとの悲恋のエピソードは、重い主題にアクセントをつけるハリウッド的センスなのだろう。フェラーズの結論は、天皇が開戦を命じたのかどうかはわからないが、少なくとも戦争を終わらせたのは彼だ、というものだった。

 この映画はサイパン島南部のテニアン島で原子爆弾を搭載した爆撃機「エノラ・ゲイ」が広島に向かって発ち、爆弾投下後のキノコ雲が空に向かって膨張していく実写映像から始まる。また、フェラーズ准将が調査の過程で面会した近衛文麿元首相(後にA級戦犯に指定され、服毒自殺)に、「欧米は武力によって他国の領土を奪ってきた。われわれはそれに倣っただけだ」と言わせている。いずれのシーンからもアメリカの贖罪の意識が伝わってくる。当時のアメリカが本気で平和を希求し、その理想を後に起草される日本国憲法に反映させたと思わせるに十分な説得力だ。

 天皇がアメリカ大使公邸にマッカーサーを訪れるラスト。上述の関屋はフェラーズを通して「天皇の身体には触れぬよう、目を見て話さぬよう」など事前にいくつもの注文をつける。マッカーサーはそれを無視して握手を求め、天皇も関屋を制してそれに応える。そしてマッカーサーは、日本を再建するために陛下の力を貸してほしいと語り、あの有名なツーショットへとつながるのである。

 公の場でたびたび憲法を遵守することについて言及する現天皇陛下と、憲法に対する反感を露わにする政権与党。この倒錯した現象がどこからくるのか。それを示唆すると同時に、「憲法は押し付けられた」などと簡単に一蹴できない、歴史に対する畏れを抱かせるシーンだった。

(芳地隆之)

 

  

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