NHKスペシャル取材班/主婦と生活社
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あなたは、終電が過ぎ去った駅前界隈を高齢者が歩いているのを見たら、どう思うだろうか。お年寄りが深夜、外にいることに違和感を覚えないかもしれない。あるいは気になっても、声をかけるのは憚られるか。しかし、その人がアルツハイマー病を患っており、家族や身寄りもなく、施設を転々としたあげくにそこで徘徊しているとしたら……。
本書は昨年、NHKスペシャルとして放映され、大きな反響を呼んだ番組の書籍化である。
2013年9月時点の日本の総人口は1億2726万人。うち、65才以上の高齢者人口は3186万人で、全人口に占める高齢者の割合は25%。日本は4人に1人が高齢者の社会になった。
振り込め詐欺の被害額の大きさなどを聞くと、私たちは「お年寄りはお金をもっている」と思いがちだが、日本の高齢者の貧困率(年間の可処分所得の中央値の2分の1である124.25万円以下)は22%。OECD30カ国の平均である13%を大きく上回っている。
特別養護老人ホーム(特養)は年金収入が低い高齢者にも安心して利用できる施設とはいえ、全国に約6000カ所、入所者は約43万9000人。いかんせん数が足りず、全国で約42万人が入所希望の待機登録をしている。
本書に登場する高齢者のほとんどは、戦後の日本で地道に働いてきた人たちだ。配偶者が亡くなる、会社が倒産するといった不幸を機に、転げ落ちるように漂流の身となった。その姿の痛々しさ、それを救えぬ世の理不尽さ、そして「明日は我が身」との思いを強くせざるをえない。
最終章では茨城県で高齢者の共同住宅を運営する岡田美智子さんの明るくも献身的な仕事ぶりが描かれる。彼女は子供のころ両親が離婚。母親が働きに出るときは、よく近所の夫婦の家で食事をごちそうになったという。
「今度は、私が恩返しをする番。あんなに面倒見てもらったんだもの。今はこうして健康体でいられるんだから、私がお年寄りを見てあげることができる」
彼女の言葉に深く心を動かされる。と同時に私たちの社会の底辺はこうした個人の善意で支えられている現実も見せつけられる。
月収入10万円以下で、特養に入れない高齢者はどうやって暮らせばいいのか。現行の年金制度は、家族と同居することを前提に設計されたものであり、高齢化の進行と単身世帯の増加により家族のあり方が変容していくなか、従来どおり存続するのは難しい。
高齢者がしばしば「迷惑をかけたくない」と口にするのは、人や社会の世話になりたくないというよりも、「誰かの役に立ちたい」との切実な願いからだ。そこに何かのヒントがある気がする。
年金は目減りを続け、介護保険は破たん寸前のなか、時の為政者は「強い日本を」などと勇ましい。国の土台が崩れかけていることに気づかないのか、あえて目を逸らせているのか。
私たち庶民は、想像力を働かせ、みんなで支え合いながら生きる術を考えていきたい。
(芳地隆之)