日本の若者は、政治や社会運動、平和運動には関心がない。
そう言われることが少なくないですが、本当にそうでしょうか?
各方面で活躍する若者に、かれらが取り組んでいる活動の内容や、動機について聞いてみました。
大久保美希
(おおくぼ みき) 1986年3月東京生まれ。教育学専攻の早稲田大学4年生。大学3年時の一年間のカナダ・バンクーバー留学中に出会った開発学や市民運動がきっかけで、帰国後にアフリカ平和再建委員会(ARC)でボランティア活動を行う。現在はARCのキャンペーン「ストップ子ども兵士アクション」国内活動チーフとして、子ども兵士の実態を描いたドキュメンタリー『Invisible Children(「邦題:見えない子どもたち」)』の上映運動に取り組む。
■人に広める難しさを感じて
──前回、大久保さんがお話の最後に、「先進国の人が変わらないと問題は絶対に変わらないんだ」と言っていたことが印象に残っています。これはどういうことでしょうか?
そうですね、フェアトレードを例にとりましょう。この問題を掘り下げていくと、背景にはフェアでない今の貿易構造があります。前回も言いましたが、いま世界では労働力に見合わない値段で「途上国」の生産者がつくった商品が安く買いたたかれています。これは先進国の私達がその商品を買っているから成り立つわけです。だから一消費者としての自分がそれを買い続けている限り、その構造は変わりません。
これは世界の構造と自分との関わりの一つではないでしょうか。つまり自分が「途上国」の貧困を間接的に産み出しているということになっているのかな、と思うんですよね。もちろん、フェアトレードでなくてもいいんですけど、いまの消費行動を改めていったら、向こうの人たちの生活状況も必ず変わるはず。
──こういう話を身近な人にも話しますか?
実はそこが難しいですね。私、カナダでは前回お話したような衝撃を受けたわけです。(多民族主義・多文化主義の国である)カナダでは、人々のバックグラウンドが全然違う。だから「言わなきゃわかんないじゃん」っていうのが日常で、ほんの些細なことでも言いまくる。それに最初、カルチャーショックを感じてたんです。それが、日本に帰ってきたら、またカルチャーショックですよ。すごく「空気がおとなしい」。例えば家族に自分の想いを伝えようとしてもあんまり興味を示さなかったし。でも、留学中にブログをやってたんですが、それを読んでいた友達の何人かは共感してくれています。今もフェアトレードを一緒にやったりしてます。
ARC主催の上映会では、司会を務めています。
■日本の市民運動に感じる違和感
──カナダと違って日本でこういう活動をしている若者って、そんなに多いわけじゃないと思うんですが、そこで活動している時に接する上の世代の人たちと、ジェネレーション(世代間)ギャップを感じることってありますか?
ありますね。例えば平和運動をやっている上の世代の方々の中には「9条を守らなきゃいけない!」という「当然の前提」みたいなものがあるような気がしますが、社会活動や国際協力の活動をしている若者にとって、9条護憲は必ずしもそうではありません。そういう感覚の違う若者に平和を訴えるときには、それなりの工夫が必要ですよね。でも、あまりに若者のことを理解していないようなやり方だったりして、上手だとは言えないと思う。
──どういうところがでしょうか?
今の若者は、イベントでもおしゃれさやスタイルを追求するじゃないですか。そういうことって、わりと大事なのですが、そこに気を使っているところが、なかなか無いですよね。上の世代の人たちって、とても想いが強いじゃないですか。けど、「多くの人を巻き込まなきゃ」、というところの視点が足りないと思いますね。だから、若者の賛同者は別に増やすつもりはないんだな、と感じてしまいます。
あと、こんなことがありました。帰国してすぐに、路上でアムネスティのサポーター募集キャンペーンをした時のこと。なかなか人が立ち止まってくれないのですが、中でも50〜60代のおじさんが、私をつかまえて逆に自分の平和論みたいなものをすごい主張してくるんです。そして「若者は駄目だ、駄目だ」って言うんですよ。こちらが一生懸命問題状況を伝えようと呼びかけをしてるのに、その話は聞かずにですよ(笑)。
もちろん、憲法や平和への理解が近い人はすごく大事だと思うので、上の世代の方たちが声を上げて下さることは、すごい重要だと思っています。それを前提とした上での話ですよ。
上映会前後には簡単なレクチャーを行っています。
■「イラク派兵反対運動」と「国際協力」の差異
──帰国後、実際に参加されたイベントの中に、護憲運動や反戦運動などはあったんですか?
いえ。実はあんまり憲法に関する問題とか、イラク派兵とかに関するイベントには行かなかったんです。アフリカとか国際協力とかのキーワードに関わるものに行ったのが多かったです。さっき話しましたが、その運動が発する雰囲気とかも違うので。
──イラク反戦とか憲法の運動と、国際協力系の運動って、お互い連携があんまり無いんですか?
ちょっと無いかな、と思いますね。
──なぜでしょう?
「イラク派兵」と「国際協力」とでは、インターネットで検索をかけた時のキーワードが結びついてないのかな。そして例えば、イラク派兵問題を扱うのって、政治とか経済とか、そういった知識そのものや自分自身の意識やスタンスとかが、強く問われている気がします。
一方で国際協力だと、どちらかというとボランティアしたいとか、自分ができる範囲で行動してみようとか。国の政治に強い関心が無くとも、成り立ってしまうような活動が多いと思うんですよね。そこは大きな違いです。
今の若者と上の世代との間に、9条や今の平和というものへの認識のズレがすごくあるわけです。そう言った場合、ボランティアって、なんだかエネルギーが発散しやすい場所なんです。政治や憲法論といった議論の渦の中に入っていくよりは、外に自分がエネルギーを発散させる場所として、ボランティアとか国際協力とかが若者の選択肢としてあると思うんですよね。キーワードも明るい。これは私が感覚的にそう思っていることですが。
──カナダだと反戦運動系と国際協力系の両方が持つ側面は結びついているんですか?
結構、結びついていると思います。そもそもの前提として、カナダでは若者が自分たちの国の政治や首相に対する何かしらの見解とかを、授業でなくとも常に議論しちゃうんですよね。そんなとき、心の中で「日本ではこんな議論する人いないな」と思ってました。
そういう前提が違っている。そのうえで、興味がある人は国際協力とかそういう道にも入っていくんじゃないでしょうか。それから教育も大きいと思いますね。日本の学校教育って、考えることや意見を言うことは本当に少ないですよね。
ARCのボランティアスタッフと。20代が中心です。
■「平和を創る」という目標に向けた一つの運動
──ところで、大久保さんがなさっている「子ども兵士」を考える活動って「平和運動」だと思いますか?
平和運動なのかどうかわからないんですけど、平和を創るという目標に向けた一つの運動だと認識しています。平和運動という言葉には私の中でステレオタイプがあって。固定化された「運動」が集会をするとかデモをするとか、どうしてもそうなってしまっているんです。私個人の感覚ですけど。
ゼミではずっと「平和の文化を創る教育」というテーマで授業をやっています。平和に向けた人の行動様式って、色んな角度から色んなテーマで出来るもの、たとえば消費者が日々の行動を変えていくとかも平和の文化を創っていく一活動だと思ってます。そんな感じで、平和を創る活動というのは、多種多様なものであっていいと思うんです。私もその中の一つでありたいということです。私はラディカルさよりは心の広さを追求したいので。
──わかるような気がします。それでは、大久保さんがおっしゃる「平和」って何でしょう?
平和とは? その答えはちょっと私、用意してませんでした(笑)。これは運動を通じて知り合った上の世代の方に教えられて印象に残ってるんですが、オノヨーコさんのこんな言葉があるそうです。「戦争は価値観が統一されているからまとまりやすい。でも、平和はすごく多様なやり方や方向性があるので、なかなかまとまれない」。
──なるほど。名言ですね。今日はどうもありがとうございました。
国際貢献は、現地に行かずとも日本の中でできることがある。
そう考えるようになった彼女が、運動の中で感じたさまざまなこと。
実体験から、リアルに語ってくれました。
日本でも「社会活動」が、当たり前のことになる時代がくることを期待します。
大久保さん、ありがとうございました!