■「アラブの春」は、今も続いている
――今年8月には、米国が軍事介入の意思を表明。その後、ロシアがシリア政府に化学兵器の廃棄を迫るなどの動きがあったことで、ひとまず軍事介入は見送られる形になりましたが、米ロはじめ西側諸国は、ここまでのシリアの騒乱をどう見ていたのでしょうか。
先ほどお話ししたように、イスラム過激派がシリアの反政府勢力の主軸になってきている。そのことの深刻さを西側諸国も去年の暮れごろから認識するようになりました。つまり、アサド政権が倒れると、イスラム過激派の勢力が拡大してしまう、それはもっとまずいのではと考え始めたんです。
米国の中東政策では何よりもイスラエルの意向が大きく影響しますが、イスラエルは当初から、アサド政権が倒れたら隣国のシリアは群雄割拠状態になり、得体のしれない連中が国境を越えて攻撃してくるかもしれないと考えて、政権の打倒には乗り気でありませんでした。ロシアはロシアで、国内にも同じようにイスラム過激派の問題を抱えているし、それをあまり調子づかせたくない。そこで米ロは今年5月、イスラム過激派の封じ込めを第一の目的として、アサド体制を改革しつつ維持するという方向で談合したわけです。内戦終結に向けた国際会議「ジュネーブ2」(※)の開催決定がそれです。
あとは枝葉末節な話です。化学兵器疑惑を受けて、米国が軍事介入する構えを見せたけれど、あれは米国の「芝居」に過ぎなかったと私は考えています。そもそもオバマ政権はようやく前政権の置きみやげであるアフガンやイラクの泥沼から脱却して、国内問題に集中できる環境を手にしつつあります。ブッシュ政権時代への後戻りはイヤでしょう。
※ジュネーブ2…2012年6月にスイスのジュネーブで開かれた国際会議に続く、第2回目の国際平和会議。5月に米ロがその開催で合意したことを発表し、現在は11月半ばの開催が見込まれている。
――今後は、どうなっていくのでしょう?
まず化学兵器処理に関する議論が進んで、その後で和平会議開催への調整へ、という流れに向かうでしょうね。アサド自身は大統領を辞するかもしれない――どちらにしても、来年は形だけとはいえシリア大統領選がありますし――けれど、体制そのものは維持されることになると思います。それと引き換えに、政権側も少々は民主化をする方向で妥協するとか、そういう「手打ち」が考えられますね。もちろん、それで反政府側におとなしく従うわけはありません。イスラム過激派は言うに及ばず、ここまで殺し合いをやってしまった以上、個人レベルの恨みつらみも後戻りできないレベルにある。だから、戦闘自体はずるずると長引く可能性が高い。とはいえ、軍事的な勝敗は見えており、米ロも介入して早期に収拾しようという方向へは向かっていくとは思います。
――エジプトでも、ムバラク政権を倒して誕生したムルシ政権が7月の軍事クーデターで倒れました。一時は「民主化」のイメージとともに華々しく語られた「アラブの春」とは何だったのか、という声もあります。
「アラブの春」という言葉自体が西側諸国による甘い空想の産物です。その言葉が現地で使われていないわけではないですが、あくまで翻訳された外来語としてです。
ただ、アラブに「革命のシーズン」があったことは事実です。結論から言えば、それはいまも続いている。エジプトではムバラク政権が倒れる前もその後も、軍が強大な権力を握っていて、その意味では政治的な「革命」はまだ来ていません。でも、革命というのは普通の人びとが集団で覚醒するという精神的な意味も持っている。いままでの体制に規定された自分から別の自分になる。それはムバラク打倒闘争の過程でみられたし、いまももっと先へ向けて試行錯誤が続けられている状況だと思います。
エジプトではナセル、サダト、ムバラクと、軍の力を背景にした独裁体制が半世紀以上にわたって続いてきました。シリアのアサド体制だって40年以上です。それをひっくり返して、さらにその後にどういう社会をつくっていくのか、という課題がわずか1年や2年で片付くはずがありません。どう考えても、5年10年単位でかかるでしょう。
前に進むこともあれば、後ずさりすることもある。右往左往しながら進んでいくしかないのです。それを日本人のせっかちな尺度で、短兵急に測るべきではない。革命の試行錯誤という観点から、アラブ各地の状況を見ていく必要があると思います。
「これまでシリアの問題になんか全然関心を払ってこなかった日本人が、いざ軍事介入だとなったら、集団的自衛権の問題との絡みで突然意見を言い始めるのはおこがましい」。
先日、伊勢崎賢治さんにシリアの争乱についてご意見を伺ったとき、伊勢崎さんが(自分はシリアに行ったこともないし、専門家でもないから詳しいことはわからないが、と前置きしつつ)おっしゃっていた言葉です(動画をこちらで見られます)。
もちろん、すべての問題に精通することはできないし(田原さんも「結局は、その国の人が何を食べて、毎日どんなことを思って生きてるのかといったことを知らなければ、本当の意味で問題の理解はできないのかもしれない」といったことを仰っていました)、知ったからといってそれだけで争いを止められるわけではないけれど、機会があるならば耳を傾けるようにはしていきたい。そしてその上で、自分たちに、日本にできることはないのか、考えていきたい。シリアの、エジプトのニュースを見つつ、そんなことを考えています。
最初の頃、アサドが妥協して選挙やった時点で手打ちにしとけば、ここまで酷い事態にはならなかったんだよね。でも周りが煽って選挙否定してしまった。今はなんとか落ち着きかかってるけど、まだ良くわからないね。今アメリカがデフォルトしかけている件、共和党の人質の1つにシリア軍事介入が含まれてる気もする。さすがにオバマは一言もいわないけど、可能性はある。