■かつてない「強力布陣」だったシリアの反政府勢力
――一方、アサド政権を支持していたのはどんな人たちなのでしょう?
シリアって、人口比ではイスラム教のスンナ派が中心ですけど、アラウィー派やシーア派もいるし、キリスト教徒やユダヤ教徒もいる。民族的にはクルド人も含むモザイク国家です。そこでイスラム国家建設の動きが強まったわけですから、宗教的少数派の人々は当然危機感を抱く。別に現政権が好きなわけじゃないけど、イスラム国家になって抑圧されるよりはましだと、政府側を支持するようになった人たちも多かったようです。
また、最初のころこそ「民主化」を支持していた市民たちも、実際に武力闘争になっていくと変わっていきます。反政府勢力はいろんな勢力が入り混じって、しかもまとまらない。これでは安定した政権なんてできそうにない。だったら、まだ現政権のほうがましだ、民主化よりも安全、安定した暮らしだということになります。
特にシリアの民衆たちは、1970年代から現在に至るまで、隣国の内戦をずっと見てきています。1990年まではレバノンから難民が入ってきた。そして2000年代からはイラク戦争です。こちらもフセイン政権崩壊後にたくさんの難民が出て、シリアに押し寄せてきた。つまりは、中央政府を失った後の内戦状態がどんなに悲惨なものかを、シリア人は目の当たりにし続けてきたわけです。だから、あまり冒険主義に走らないというか、まずは安定を求める傾向が強い。今度は自分たちの番かもしれないと考えて、あくまで消極的にではありますが、政権を支持している人も少なくありません。
――そうした対立構図は、おそらく他の国でもありえたものだと思いますが、なぜシリアの戦いはここまで拡大し、ここまで多くの犠牲を生んでしまったのでしょうか?
これまで、アラブの独裁政権が自分たちを正当化するために掲げていたのが「自分たちは、イスラム過激派の勢力拡大を防いでいるんだ」という論理でした。それが正しかったとは言いませんが、「アラブの春」があって各地で独裁政権が倒れたことが、イスラム過激派にのっていた「重石」を外す結果をもたらしたわけです。独裁政権が壊れて、パンドラの箱から過激派たちが飛び出して、リビアからは旧政権の武器も地域に出回って、それらがどっとシリアの戦場に流れ込みました。
アラブ民族主義を口実にしてきた独裁者では、リビアのカダフィ、イラクのフセイン、そしてシリアのアサドの3人が代表格でした。エジプトのムバラクも同じ系統です。ところが、フセインはイラク戦争で、さらに「アラブの春」でカダフィもムバラクも倒れ、いまやアサドしか残っていない。もっとも、今いるアサド大統領は長期独裁政権を築いたハーフェズではなくその息子ですが。アラブ民族主義とイスラム勢力は歴史的な対立関係にあります。アサド体制の打倒に地域のスンナ派勢力が総結集したこと、同時に反イスラエルでシリアと同盟関係にあるイランなどシーア派勢力が政権を支援していること、さらに米ロや中国などの思惑が絡む複雑な構図が解決を難しくしてきました。
「これまでシリアの問題になんか全然関心を払ってこなかった日本人が、いざ軍事介入だとなったら、集団的自衛権の問題との絡みで突然意見を言い始めるのはおこがましい」。
先日、伊勢崎賢治さんにシリアの争乱についてご意見を伺ったとき、伊勢崎さんが(自分はシリアに行ったこともないし、専門家でもないから詳しいことはわからないが、と前置きしつつ)おっしゃっていた言葉です(動画をこちらで見られます)。
もちろん、すべての問題に精通することはできないし(田原さんも「結局は、その国の人が何を食べて、毎日どんなことを思って生きてるのかといったことを知らなければ、本当の意味で問題の理解はできないのかもしれない」といったことを仰っていました)、知ったからといってそれだけで争いを止められるわけではないけれど、機会があるならば耳を傾けるようにはしていきたい。そしてその上で、自分たちに、日本にできることはないのか、考えていきたい。シリアの、エジプトのニュースを見つつ、そんなことを考えています。
最初の頃、アサドが妥協して選挙やった時点で手打ちにしとけば、ここまで酷い事態にはならなかったんだよね。でも周りが煽って選挙否定してしまった。今はなんとか落ち着きかかってるけど、まだ良くわからないね。今アメリカがデフォルトしかけている件、共和党の人質の1つにシリア軍事介入が含まれてる気もする。さすがにオバマは一言もいわないけど、可能性はある。