自民党が憲法9条を改正したい理由
小山内頼人
(おさない・よりひと) 青森県青森市在住。会社員/市民ジャーナリスト。「市民ジャーナリストチーム青森」のメンバーとして積極的に原発問題などに取り組んでいる。 twitter:@yori1335
自民党はなぜ憲法9条を改正しなければならないと言っているのでしょうか?
憲法9条改正の根本理由として自民党が訴えていることは簡単に言うと『中国・北朝鮮の挑発行為に対抗するため』であるかのようですが、ここに議論のすり替えがあると思います。
1955年に結党した自民党の「政策大綱」では、憲法改正の目的を『自衛軍を整備して、直接間接の侵略に備え、逐次駐留軍の撤退を可能ならしめることを目途とし』としています。
米軍基地を撤退させるために防衛能力を持つ目的だったのです。この自民党の結党精神を踏襲すると安倍晋三氏は発言しています。これは現在日本政府が行なっていることと大きく乖離します。
第一に、日本政府は米軍基地の撤退どころか、同盟他国の軍隊を使ってプレゼンスを高めようとする米軍の軍事戦略のとおりに、安全保障のために日米同盟の強化が最も必要だと訴え、日米の軍事的一体化(自衛隊を米軍の傭兵化)を進めています。
第二に、集団的自衛権の行使を議論するときに、国連憲章51条で認められている限定的な集団的自衛権と、アメリカが日本に要求している先制攻撃ロジックを意図的に混同させています。国連憲章51条では、自衛権は、「武力攻撃があった時」「国連安保理が機能するまでの間」だけ限定的に認められているものですが、対してアメリカが主張している自衛権は、イラク戦争に見られるように、実際に武力攻撃がなくても「攻撃してきそうな悪い国」には戦争を仕掛けることができるとして、先制攻撃を正当化するものです。更には自民党は憲法9条の改正案で「自衛目的ならば武力行使を認める」という表現を用い、集団的自衛権と個別的自衛権を意図的に曖昧にしています。いま日本人はこういう議論をスルーしてしまっています。
第三に、これも自民党政策大綱に『積極的自主外交を展開し、各国との国交正常化を図る』とあるのに反し、米国の反共政策・軍事戦略に翻弄され、事実上先制攻撃をちらつかせて北朝鮮や中国を挑発しているのは日本側であること。
安倍晋三は「憲法を変えても、日米安保は変える必要はない」と発言していますが、この論拠は歪んでいるのです。憲法改正論議の前にすべきことはイラク戦争の検証ではないでしょうか。日本国憲法という防波堤を崩し、ブッシュの先制攻撃ドクトリンの国際的拡散を許すことが、一体どうして世界平和につながるのでしょうか?