ジャン=ポール・ジョー監督の最新作『セヴァンの地球のなおし方』(Severn, The voice of our children)の日本公開に際し、監督のインタビューを寄稿いただきました。
ジャン=ポール・ジョー Jean-Paul Jaud ● 監督・プロデューサー。フランス生まれ。1979年より監督として多くのテレビ番組の制作を行う。スポーツ番組の制作と中継を担当し、スポーツ映像に革命をもたらすほか、移りゆく四季の中で織り成される人々の暮らしを追ったドキュメンタリーを制作。2004年結腸ガンを患ったことを機会に、生きるための必須行為「食」を取り巻く事象を振り返り、前作『未来の食卓』を製作。本作の続編はGMO(遺伝子組換作物)と原子力をテーマにする予定で、福島、祝島にも撮影で訪れている。2011年6月のフランス映画祭(東京)では、「原発絶対反対」のハチマキ姿で挨拶をし、多くのマスコミ取材にもハチマキ姿で対応。
1992年、ブラジル・リオで開催された地球サミットで、スタンディングオベーションをうけるほど聴衆を感銘させるスピーチをしたのは二人だった。一人はキューバのフィデル・カストロ。もう一人は、カナダからサミットに参加していたセヴァン・スズキ(12歳)だった。
ジャン=ポール・ジョー監督の最新作『セヴァンの地球のなおし方』(Severn, The voice of our children)は、今から19年前のセヴァンのスピーチがベースになった作品だ。12歳のセヴァンのスピーチ映像だけでなく、映画のナビゲーターをつとめる現在のセヴァン(撮影時29歳)も登場する。「どうやってなおすかわからないものを、壊し続けるのはもうやめてください」と環境破壊をやめるよう訴えた12歳のセヴァンのメッセージは、ジョー監督の手で映画となり、再び私たちに訴える。
有機農業をテーマにした前作『未来の食卓』(2008年)に続く本作品では、原子力の罪についてもふれている。日本に滞在中のジョー監督に、最新作について聞いた。
——セヴァンとの出会いについて教えてください
前作『未来の食卓』の編集が終わった2008年5月、インターネットを見ていて、セヴァンのスピーチを見つけました。16年前に彼女がいっていたことが、より現実味を増していると痛感しました。セヴァンに会いたいと思いましたが、なかなか連絡がつかず困っていたころ、モントリオール映画祭でグリンピース・ケベックのメンバーと知り合いになりました。『未来の食卓』を気に入ってくれた彼らは、セヴァンと連絡をとる手助けをしてくれ、私は彼女に会い、映画への出演をお願いすることができたのです。
映画『セヴァンの地球のなおし方』より
——映画には日本で有機農業を実践する人がでてきますが、福岡県で有機米を生産する古野隆雄さんとの出会いは。
『未来を変える80人』(シルヴァン・ダルニル、マチュー・ルルー)の本を読んで古野さんの合鴨農法による完全無農薬有機米について知り、日本に行くことがあればぜひ会いたいと思っていました。
(同じく映画に登場する)福井県今立郡池田町の「池田のおばちゃんたち」(ジョー監督が親しみを込めてこう呼ぶ)は、人類学者の雨宮裕子さんから教えてもらいました。古野さんは海外からくる農業者に、無償で知識を伝授していますし、池田のおばちゃんたちは、有機農法のノウハウを子どもたちに教えています。
——ほかにもサメの乱獲反対を訴えているフランスの少女や、学校給食に有機食材と地産地消を取り入れたフランスのバルジャック村など、地球をなおす行動をしている人たちが、紹介されていますね。また、広島の原爆や、美浜原発の水蒸気事故(2004年)の映像もあります。原子力と人類の関わりについて触れた理由はなんでしょうか。
映画の根底にはセヴァンのスピーチがあります。セヴァンの有名な環境サミットでのスピーチは、原発について言及していませんが、映画の撮影のために訪れたカナダのハイダグワイ島では、セヴァンはカメラに向かって、原発は『悪魔との契約』であり『次世代への究極の犯罪』と話したのです。ですので、私の作品でも原発について語らないわけにはいかなくなったのです。
——セヴァンの一言がきっかけだったのですね。
自らが使う農薬で白血病になってしまったフランスの農夫・ヤニック・シュネ氏の表情は、広島の原爆で被爆した子どもたちと同じ表情をしていました。(注:シュネ氏は2011年1月に亡くなっている)人間が生き延びるためには、原発や農薬は必要ないのです。古野さんの合鴨農法のように、合鴨を水田に放して害虫駆除をすれば、肥料や殺虫剤は必要ありません。米の収穫量は通常の農法の場合に比べて30%も上回っているそうです。
映画『セヴァンの地球のなおし方』より
——古野さんに広島の原爆について意見を求めていましたね。
広島でおきた惨事を知ったときからずっと、人類はなぜ同じ人類にこんな仕打ちができるのか疑問に思っていまして、2008年3月にフランス映画祭に招待された際、滞在期間を延長して、一人で広島に行きました。
天気のいい日に、路面電車に乗って原爆ドームに行きました。原爆ドームを眺めると、建物の切れ間から太陽の光が見えて、1945年8月6日、600メートル上空から原爆が投下された原爆の光とダブって見えました。平和記念館にも立ち寄り、原発はやめなくてはと強く確信しました。
——有機農業を進めるバルジャック村から40キロ先にあるクリュアス原発への懸念も描いていますね。映画とは関係ありませんが、フランスやドイツでは、原発に近い地域では、事故による被曝を防ぐためのヨウ素が、あらかじめ配布されていますが、日本ではそうした対策がないことが、今回の福島原発事故で明らかになりました。原発を進めるフランス政府だからこそ、事故対策もしているという印象を受けますが。
それは違うと思います。原発から身を守るということは、原発がないということです。
——福島と祝島にも撮影で行かれていますね。頭のハチマキは、祝島の原発反対デモで、島民が使っているものですよね。
はい。祝島のハチマキです。次の作品では、原発をテーマにしようと考えているので撮影に行きました。上関原発建設計画に30年ちかく反対してきた祝島島民が、毎週行っているデモにも参加してきました。
福島に行くことは危険じゃないかと心配してくれる人もいましたが、原発が犯した犯罪をこの目で見て、証言することは、重要だと思いました。福島では、ある酪農家が「人類は怪物(原発)を創造してしまった。その怪物が今、福島で、怒りの旗をあげている。怪物を作り出したのは人間なのに、怪物の怒りを鎮めることができないでいる」と語ってくれました。新宿で6月11日に行われた原発に反対するデモにも行きました。
「原発絶対反対」のハチマキ姿でインタビューを受けるジョー監督(撮影:奥田みのり)
——次回作についての構想を教えてください。
テーマとしては、原発と遺伝子組換作物を考えています。
日本の技術は、原子力エネルギーに代わる再生可能エネルギーを開発する力を持っているはずです。原発は必要ないし、農薬も遺伝子組換作物もいりません。動植物が農薬の役割を果たすことは、古野さんが実践されています。生物多様性をリスペクトした農法であれば、命を危険にさらす農薬よりも、ずっと生産をあげられるのです。
広島の被爆者と、農薬によって白血病になった農夫の表情が同じに見えるように、原発も農薬も人間の健康を蝕むものです。原子力中心のエネルギーや遺伝子組換作物で利益を得ているのは、少数の良心をもたない投機的目的でやっている人たちに過ぎませんし。
また、両方とも一度始めてしまったら、もとの状態に戻すことは難しく、人間が制御することは不可能です。こうしたことについて迅速に伝える映画、つまり私の3作目をつくらなければならないと考えています。
——原発については最近、フランスの週刊紙の世論調査で、77%が脱原発を支持したと聞きました。
いいことですね。しかし驚く数字ではありません。というのも、フランスでは遺伝子組み換えに85%の人が反対し、農薬の使用には80%の人が反対しているのです。つまり、フランス人は現在の状況を自覚し、変えなくてはいけないと知っている。しかしながら、セヴァンが映画でいっていることでもあり、私も望んでいることですが、発言するだけではなく、実行に移さなければいけないのです。
■映画『セヴァンの地球のなおし方』
6月25日、東京都写真美術館、渋谷アップリンクほか全国順次公開
http://www.uplink.co.jp/severn/
監督が問題視している農薬や遺伝子組換作物、原発とともにある未来は、子どもたちに何をもたらすのか。農薬は土地だけでなく、農業に従事する人々をも蝕む。遺伝子組換作物によって、駆逐されていく生物の種。失われていく多様性。溜まり続ける放射性廃棄物の課題は将来世代へのツケでしかない。セヴァンは現在のこうしたやり方は、「次世代に対する不当行為」だという。
『セヴァンの地球のなおし方』の原題は「私たちの子どもの声」。次世代の子どもたちが、映画を媒介にして、我々にSOSを送っている。