おしどりマコ&ケンの「脱ってみる?」

「脱ってみる?」というタイトルですが、脱らないほうがいいものもあるよね、例えば、文楽!

大阪で、大好きな文楽がなんかピンチ、ということを知って、ダッシュで観にいきました。いろいろ思うところあるけれど、仲良しの文楽劇場の方が、「こんな形で文楽が有名になっちゃって、ちょっと悲しい…」と、おっしゃってたので、文楽の好きなところだけを書きます☆

(写真は舞台裏で出演を待っているみなさん!)

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 ちなみに、おしどりが大阪にいた時代は、ときどき文楽を観にいっておりました。過去のわたくしの若さと、ケンパルの相変わらずっぷりをご覧あれ!

http://oshidori-mako.laff.jp/blog/2009/11/post-4b24.html
http://oshidori-mako.laff.jp/blog/2009/11/post-bfba.html

文楽に限らず、歌舞伎もよく行っておりました。藤間勘世師匠に日舞をお稽古つけて頂いたり(不出来な生徒で怒られてばっかり★)、意外とお着物もサッサカ着られる私たちです。

大阪で、おしどりをめちゃくちゃかわいがってくださった、落語作家の先生が「舞台をたくさん観ろ! とにかくいろんな芸をたくさん観て、自分を50年かけて作り上げろ!」とおっしゃって、歌舞伎や文楽も連れていってくださり、いろいろ教えてくださいました。

松竹座の4階で、歴代の役者さんの写真を見ながら、「この人は酒飲みで、女で失敗したけど、すごいハマり役があるんや!」などなど写真1枚ずつ解説してくださったり、文楽劇場で、惚れ込んだ義太夫の方のお話を延々してくださったり(もう開演したのにロビーで延々と!)。

その落語作家の先生と、週3回くらいのハイペースで遊んでいて、私が風邪でダウンしているときも電話がかかってきて、「風邪で寝込んでいるらしいな? 飲みにいくか!」。

マコ「ムリですて… 熱が39度あるんですもん。」

「そしたら、うちまで行くわ、近所で鍋でも食べたら治るやろ」

マコ「えー!! ムリですって!」

という制止もきかず、30分後に「今、家の前におるから、出てきて。鍋行こう」と、ティッシュの箱をかかえ、冷えピタをはったまま、づぼらやのテッチリを食べたこともあります。むちゃくちゃだ…。

ちなみに、その先生は日沢伸哉さんといいます。先生、と呼ぶと、「先生言うな! そんなアホみたいな呼び方するな!」と本気で怒りはる方でした。

日沢さんは、ラジオの構成もされていて、おしどりをラジオに呼んでくださり、そのあと、いつものように一緒にお昼ゴハンを食べ、「君らは早く、東京に行け、何をグズグズしてるんや、僕も東京に行くから、次、ゴハンを食べるのは東京やぞ」という話をされ、別れたあと、その晩に、くも膜下出血で倒れ、そのまま帰らぬ人となりました。

信じられなかったけどね!

それから、東京にくる準備をして、1年後、東京に引っ越してきました。

ちなみに、日沢さんの出身は岩手なので、私たちが東京に引っ越してすぐに東日本大震災があり、日沢さんからしょっちゅう岩手のお話を伺っていたので、どんなに悲しまれるだろう、生きてらしたらどれほど尽力されるだろう、と思ったことも、今、動いている理由の一つでーす☆

日沢さん話が長くなってしまった!

その日沢さんが高校卒業後、岩手から関西にきて、舞台通いと映画館通いを始め、初めて文楽劇場で文楽の公演を観たとき。

「なんじゃあ、こりゃぁぁぁああああ!」と衝撃を受けたんですって。

文楽での音は、太夫さんの語りと、お三味線だけ。

舞台の上手の廻しと呼ばれるところがクルっとひっくり返って、忍者屋敷のように太夫さんとお三味線さんが登場したと思ったら、マイクも無いのに、劇場いっぱいワンワン響く大きな声で語りだし、三味線一丁がベンベンと弦が切れるのではないかというくらい鳴る!

こ、こ、これが太棹の音色か…(他に、三味線は清元、常磐津などの中棹、長唄、小唄などの細棹があります。音色も音量も全然違うんですよー)。

なんかすごいド迫力! でも言ってる言葉が全然わからない!

しかし舞台では、麗しい美女の人形がヨヨと泣いてる、えー、今、どういう場面なんや!? なんかよくわからんけど、義太夫のこのド迫力はわかる!!

というわけで、日沢さんは、太夫さんからハマったそうです。

今は文楽劇場では、セリフが舞台の上の電光掲示板みたいなとこに出てくるので、よくわかりますよ!

これは太夫さんが読まれる「床本」でーす。

(豊竹靖大夫師に教えて頂いているところ)

 先輩、師匠のを譲り受けたり、古書店で昔、義太夫が流行ったときに床本を手に入れたりすることもあるけど、基本は、自分で手書きするんですって…。そして、それを自分で綴じて、本にするんですって…。

この床本は靖大夫師の作、とのこと。

「夏祭浪花鑑」は文楽も歌舞伎も好きだけど、文楽のセリフまわしはなんか印象的。

(浮気を責められて)

「据え膳と河豚汁食わぬは男の内ではないわいやい!」

「ソレソレソレその口がなほ憎い!」

これはおしどり家でいろんなバージョンで流行りました(^^)

昔の芸は言葉がわかりにくいけど、よくよく聴くと、本当に面白いんです!

漫才始めて数か月のとき、師匠の付き人で、松竹の大師匠がたのお仕事に行ったことがありました。

そのとき、浪曲の女性の師匠がいらっしゃって(お名前を覚えていないのが残念なところ!)、生の浪曲は初めてなので、興味深々で観ていると、何やら娘さんの心中もの。無理やり意に沿わぬ結婚を強いられそうになった娘さんが母親に一言。

「おっかさん…道頓堀の川の上には、フタが出来ませんのやえ…」

わー強烈! このセリフにやられました。

つまり、娘さんは母親に、「ムリ言うと私、川に飛び込んで自殺するから」と静かに脅しているのです。

これも、おしどり家で流行りました(^^)

マコ「ケンちゃん…隅田川の上には、フタができませんのやえ…」

ケン「何よ、マコちゃん、マコちゃん泳ぎ上手いから、飛び込んでもスイスイ泳ぐやん!」

マコ「誰が私やといいましたか…」

ケン「あ、僕か… 隅田川の上にフタが出来るといいねぇ…」

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 うん、文楽の話からすごい脱線しまくりですね!

だって、文楽に特化して話しにくいんですもん。全部好きだから。

でも、初めは私も、文楽や歌舞伎のセリフを聞き取るのは苦労したし、今でも床本や番付がないと、手に負えません(ちなみに歌舞伎で毎回演目ごとに出されるパンフレットを、お江戸では「筋書」、上方では「番付」とよびまーす)。

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 日舞を習い始めた頃も、邦楽がちっとも聞き取れませんでした。難しいな、と思ってたら、踊りの師匠にも、日沢さんにも同じようなことを言われました。

それは「見る」「聞く」やったらあかん、「観る」「聴く」ができてへん、ていうこと。ただ、目ぇあけて、耳になんか聞こえる、というのと違う、観て聴くことができるかどうかは、本人の能力次第なんや、と言われたのです。

日沢さんはテレビのお仕事もされてましたが、画面に字幕を入れて、面白いところを伝えるのは、本当にお嫌いでした。

お客さんが観て聴くことができへん、甘やかしたらあかん、どんどんお客さんの能力が低くなって、結局は自分たちの首を絞めることになるのに! と、おっしゃってました。

私たちも、ネタを作るとき、いろいろ考えます。昭和の漫才の映像や台本を見ると、かなーり高尚なネタも多くって、オペラやクラシックや歌舞伎などがふんだんに取り入れられてんの! 日本史や世界史の話や、国際情勢や政治家のネタもけっこうあって。

へーえ、昔のお客さんはけっこうインテリねぇ、と一旦思いましたが、そうではないのかもしれません。

私はいまだに、忠臣蔵の話をちゃんと読んだことが無いけれど、でも、なんとなく知っているのは、よく何かのネタにされるから。

昭和の漫才が高尚なのは、お客さんを甘やかさなかったからかもしれません!

と、思った私は、アガメムノンとか出てくるものっすごい難解なネタを作っていた時期がありました。

しかし、ケンパルが覚えきれず、ただ、叱り続けるだけのネタになってしまいましたとさ。

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 文楽のわかりやすいスゴイとこもサラっとご紹介しておきます。

文楽がユネスコの無形文化遺産になったのは2003年。歌舞伎が無形文化遺産になったのは2005年なので、文楽のほうが早く世界に認められていたのです。

2007年には人形遣いの吉田簑助さんが、2008年には太夫の竹本住大夫さんがフランスの芸術文化勲章の最高位のコマンドゥールを授与されたり。

ミュージカル「ライオンキング」の演出をしたジュリー・テイモアさんは文楽の影響を受けて、役者が自分の顔を見せつつ、動物の仕掛けを動かしながら演技する、人形遣いのような演出を思いついた、と本で読んだこともあります。

もちろん日本でも重要無形文化財に指定されてたり、人間国宝の方もいらっしゃるけど、世界に認められているのって、嬉しくない?

オリンピックで日本人選手がメダルとるとなんか嬉しいのと同じかそれ以上に、わーいってなります。

でも別に認められていようがいまいが、私は文楽がなんか面白いから好きでーす。

今、調べたら、9月24日まで、東京の国立劇場小劇場で「夏祭浪花鑑」やってるのね…観たい…。

11月は国立文楽劇場で仮名手本忠臣蔵!

12月の国立劇場小劇場公演では社会人のための文楽鑑賞教室もあるので、興味ある方はご覧になってね!

私は8月、大阪の文楽を観て、震災以降、始めて客席から舞台を観て泣きそうになりましたよ!

「ただ今の太夫ー! あいつとめまするはー!○○大夫ーー!!」の後にすかさず「待ってましたぁ!」と大向こう掛けられるくらいに通ってみてください。

大向こうも奥が深くってさ、歌舞伎の大向こうはプロがいらして、木戸銭ご免で素晴らしい大向こうを掛けられるんだよ…(語りだすと長いので割愛)。

最後に靖大夫師の見台をご披露しまーす。師匠ゆずりの素晴らしいお品!

「今は特注か中古で譲り受けるしかないんです。今はヤフオクとかもあるから…」

――えー、ヤフオクで入手!?

「昔は義太夫が流行ってましたので、いろいろとあるんです。でも、中古だと、中板の部分に家紋が入っていることが多くって…」

――そういうときはどうされるんですか? 削り落とすんですか?

「いえ、裏返して、真っ黒な方を正面に向けて使うのです。ほら、組み立て式だから!」

 

 なんというエコ! 賢い仕組み!

 最後に、少しブレているけれど、奇跡の写真を送ります。

アホ役の文楽人形に、ここまで似ているとは、ケンパル!!!

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【今週の針金】
お話がよくわからないのにいつの間にか泣いてますねん。

「おしどり針金アート展」開催!

おしどりケンさんによる針金アート展が開催!
これまでの「脱ってみる?」に登場した針金も、全点展示されるとのことですので、お近くの方はぜひ!

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『おしどり 針金アート展』
【日時】9月28日(金)~30日(日)15:00~20:00
  (29日のみ18:00まで)
【会場】下北沢 ギャラリーHIBOU HIBOU
  (東京都世田谷区北沢2-7-2)
【料金】 入場無料
▼詳細はこちら
http://oshidori-ken.laff.jp/blog/2012/09/post-f6bd.html

 

  

※コメントは承認制です。
第52回「脱・文楽」はしちゃいけない件。」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    なんともシビれる台詞の数々、
    文楽見たことないけど見てみたくなった! という人もいるのでは?
    「お客さんを呼び込む努力が足りない」などどして、
    文楽への補助金打ち切りを表明している橋下徹・大阪市長。
    たしかに、誰もがすぐに楽しめる「わかりやすい」ものではないけれど、
    だからってそんなに簡単に「脱っちゃって」いいのか。
    決して「わかりやすく」はないその中に豊かさがあるからこそ、
    文楽は上方の誇る伝統芸能となってきたはずなのです。

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おしどり

おしどり:マコとケンの夫婦コンビ。横山ホットブラザーズ、横山マコトの弟子。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2003年結成、芸歴は2005年から。ケンは大阪生まれ、パントマイムや針金やテルミンをあやつる。パントマイムダンサーとしてヨーロッパの劇場をまわる。マコと出会い、ぞっこんになり、芸人に。マコは神戸生まれ、鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんどん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。ブログ:http://oshidori.laff.jp/ twitter:マコ:@makomelo ケン:@oshidori_ken その他、news logでもコラムを連載中。

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