時々お散歩日記

 台風が来た。日本列島なんてちっぽけだなあと、台風が来るたびに思う。暴風域に本州の半分ほどがすっぽり覆われてしまうほどの国土しかない。そこに、54基もの原発を造ったんだもの、この国の原子力(いや、エネルギー)行政、やっぱり歪んでいたんだ。
 今回の台風18号では、福井県にも「特別警報」が出た。数十年に1度の大災害が起きる可能性、だという。そして台風は東電事故原発のある福島県をも通り抜けていった。
 福井県は、日本の原発銀座といわれる地域。なんと、14基もの原発が立ち並んだ、まさに“銀座”だ。美浜町では、がけ崩れでおひとりが亡くなられたという。美浜町、そう、美浜原発のある町だ。
 原発には被害はなかったようだが、福島ではこの後が危ない。大量の雨が降った。それは地下へ染み込み、または高濃度放射性物質が流出した排水溝などを伝って汚染され、海へ注ぐ。
 大雨が降れば、汚染水は増える。それが海を汚染する。防ぎようもない事実。それを実証する事態が起きていた。やはり、台風だ。朝日新聞(9月17日付)。

 東京電力は16日午後、台風18号の大雨で、福島第一原発で汚染水をためているタンク周囲の堰の内側にたまった水を放出した。ストロンチウムなどの濃度が法で定める放出限度(1リットルあたり30ベクレル)より低いといい、緊急措置と説明している。(略)

 雨が降れば汚染水が増える。東電は、たまった雨水を放水するしかなかった。それを正当化するために「法で定める限度より低い」と説明したが、素直に信じられるだろうか。
 東電はこれまで、ストロンチウムに関しては「検査に時間がかかるので、すぐには発表できない」と言い訳してきた。
 専門検査機関の同位体研究所は「従来は3週間かかっていた検査を、新方式によって3~7日に短縮できるようになった」と言っている。
 つまり最短でも3日はかかる検査だ。15~16日に降った雨水の放射性ストロンチウムの値を、東電はなぜ1日もかからず発表できたのか。おかしいではないか。要するに、海へ流してしまうためには、そう言うしかなかったということだろう。

 僕は15日に、こんなツイートをした。

 台風が接近している。福島も進路に入っている。大雨が降ればまた地下水が溢れ、汚染水が増えるだろう。さらに強風が吹けば、事故原発4号機の核燃料プールの危険性も増大する。私たちは、いつまでこんな不安の中で暮らしていかなければならないのだろう?

 素人の私でさえ、このくらいのことは分かる。その素人の汚染水に関する予測が、この台風で簡単に実証されてしまったではないか。雨で増えた汚染水の放出だ。
 東電福島原発は事故後、大雨にも強風にも、ましてや地震などの自然災害の前にはまったくの無防備だ。それでも「安全だ」「放射能は完全にブロックされている」「コントロール下にある」「これまでも現在も未来も健康に問題はない」と、安倍は言い続ける。大ウソツキめ!
 安倍の子分も同じことだ。毎日新聞(17日付)に、こんな記事が載っていた。

 山本一太科学技術担当相は16日、ウィーンで開幕した国際原子力機関(IAEA)の年次総会で演説し、東京電力福島第1原発の汚染水漏れについて「抜本的解決に向け政府が責任をもって取り組み、国際社会への正しい情報発信を強化する」と強調した。
 山本氏は汚染水の影響について「原発の港湾外で放射線量の増加は検出されていない」とも述べ、海洋汚染の不安払拭にも努めた。また、「時宜を得た正確な情報提供」を求める近隣諸国などの懸念を解消するため、「国際的な原子力安全の強化に貢献する決意」も改めて強調した。(略)
 山本氏は演説後の記者会見で、汚染水漏れについて東京電力幹部が「コントロール下にない」と発言した問題について「外洋への影響などトータルで考えればコントロールできている」と反論。(略)

 なんという内容の伴わない綺麗ごと。さすがに「すべてをコントロールしている」とは言えなかったのか、「トータルに考えれば…」などと留保をつけている。国際社会の公の場で、ほとんど詭弁ともいえないデタラメな発言をする安倍の腰巾着閣僚。
 記者会見では、多くの外国人記者たちから「日本はきちんと情報開示していない」と批判の集中砲火を浴びたという。恥ずかしい…。

 今の日本、そんな綺麗ごとで済ませられる状況にあるのだろうか。
 日本列島は、地震の活動期に入ったといわれる。何千年に1度の活発な地震活動時期と指摘する学者も多い。
 さらに最近の異常気象。数十年に1度というような豪雨、繰り返される竜巻や突風、そして台風。それらが報じられるたびに、僕は原発を思い浮かべる。
 埼玉や茨城、栃木その他の各地で大きな被害をもたらした竜巻(突風)。もしそれが、最も危険といわれる事故原発4号機の核燃料貯蔵プールを直撃したら…。想像するだけで背筋が寒い。
 僕は臆病なのか、神経が弱すぎるのか、恐怖心が人一倍強いということなのか? では、安倍やその取り巻き、原発大好き推進派の人々の神経は、僕の数倍も数十倍も強靭なのだろうか。そこんところが、僕にはよく理解できない。

 今回の台風18号は、原発の危険性・脆弱性を、別の角度からも暴いてくれた。
 高速増殖炉「もんじゅ」という金食い虫の原発がある。まだ実験炉の段階だが、すでに1兆円を超える金をつぎ込んでいるにもかかわらず、事故や不具合発覚が続いて、まったく運転のメドが立っていない。
 高速増殖炉とは、燃料として使った以上のプルトニウムを産み出すことで、半永久的に燃料供給の可能な「夢の原発」だという。それが、金をつぎ込むばかりの「悪夢の原発」と化して久しい。アメリカもフランスも、とうの昔に諦めて開発から撤退した代物だ。ではなぜ、日本だけは撤退しないのか。むろん、その裏には原子力ムラの存在がある。
 「もんじゅ」は日本原子力研究開発機構という組織が運営しているが、この組織が「検査済み」と報告していたはずの器具・部品が、実に1万点も検査されていなかったことが判明。原子力規制委員会に「運営を任せていい組織とはとても思えない」とまで批判された。
 ところが鈴木篤之理事長は「あまりに多くの部品があり、見逃しも仕方ない」と開き直り、さすがの規制委も、呆れて二の句が告げなかったという。鈴木理事長は更迭された。
 この鈴木氏、元原子力安全委員会委員長。つまり、原子力ムラの美味しい汁を吸い尽くしてきた人物だった。
 「もんじゅ」には、現在も毎日(毎月ではない!)5千万円もの維持費が投入されている。金食い虫といわれてもしょうがない。原子力ムラの資金源のひとつだ。
 なお、「もんじゅ」を巡っては、西村成生さん(当時、動燃=動力炉・核燃料開発事業団=後の日本原子力研究開発機構、の総務部次長)の不審な死(享年49歳)が大きな問題となった。
 そして、西村さんが残した「西村メモ」と呼ばれる膨大な資料が、原子力ムラの巨大で黒い闇の一端を明らかにした。巨大な闇については、メモに基づいた「週刊朝日」の一連の報道と、それを単行本化した『原子力ムラの陰謀—機密ファイルが暴く闇』(今西憲之+週刊朝日取材班、朝日新聞出版、1700円+税)に詳しい。原子力ムラの金と力…。恐ろしい記述が続く。凡百のホラー小説など、足許にも及ばない恐怖だ。
 その「もんじゅ」も、台風では恐ろしいことになっていた。こういうことだ(東京新聞17日付)。

 原子力規制庁は十六日、福井敦賀市にある日本原子力研究開発機構(原子力機構)の高速増殖炉もんじゅから、原発の状態を把握する国の「緊急時対策支援システム(ERSS)」へのデータ送信が同日未明に停止したと発表した。台風18号の影響かどうかを含め原因は不明。もんじゅに続くトンネルが土砂崩れや倒木で通行不能になり、補修担当者が構内に入れず、復旧のめどは立っていない。(略)

 恐ろしい話だ。緊急時に対応するためのデータ送信ができないということは、もし「もんじゅ」で事故や不具合が起きたとしても、対策の立てようがないということだ。事故隠しや虚偽報告などが厳しく批判され、仕方なし動燃を解体、原子力機構に吸収合併させたのはいいが、内実はまだこんなありさまだ。
 データが得られないから、今回の送信不能事故が台風の影響かどうかさえ、なかなか確定できない。後で、台風によって光ケーブルが切断されたため、と判明したようだが。
 しかも、他の多くの原発とも共通する弱点なのだが、陸上からここへ達する道路がたった1本しかない。1本だけの道路が通行不能となれば、原発は陸の孤島と化す。対処のしようがない。
 「道路を多く造るのは、テロ対策上からも得策ではない」と、ある評論家が書いていたが、自然災害にこんなに弱い原発はテロ対策以前の問題ではないか。 
 電力会社と政府が組み、住民の横っ面を札束でひっぱたいて、過疎地に原発を造り続けてきた。だから、山の中を縫うようにして険しい海岸への原発道路を造らなければならなかった。そのツケがこんなところにも出てきているのだ。
 台風や大地震で原発に過酷事故が起きた場合、その災害によって道路もまた破壊される。海上からは大時化(おおしけ)や津波に阻まれて近づくことさえできない。そうなれば、原発事故を止められない。その例が福島原発事故だったのだ。
 福島は大地震だった。「もんじゅ」の場合は、台風で担当者が一時とはいえ構内へ入れなくなった。ではそれを防ぐにはどうすればいいのか。
 答えは簡単だ。数本の原発へつながるルートを新しく造り、原発本体への大幅な安全対策を施すか、または、過疎地ではない人口密集地へ原発を移転させるか…。
 だがそれには、膨大な金と大きな反対運動を乗り切らなければならない。答えは簡単だが、それを実現するのはほぼ不可能だ。

 自然災害のこんなに多い国も珍しいだろう。台風は9月~10月が本番だ。日本列島周辺の海水温度は、例年に比べて数度高いという。海水温が高ければ、それだけ台風が大型化するという。日本列島への台風襲来は、残念ながらこの先も避けられない。
 台風が襲い、地震が来るたびに、僕らは怯えながら原発の無事を祈るしかない。そんな愚かしい暮らしを、これからも続けようというのか、原発推進派の方々は。
 自然は「原発は危ないよ」と、何度も何度も我々に教えてくれているではないか。いい加減、学んだらどうか。

 2013年9月15日、唯一稼働中だった大飯原発4号機が、定期検査のために停止した。日本国内で動いている原発は、とりあえずこれで皆無となった。少なくとも、「運転中の過酷事故」の心配だけはしないで済む。

 原発ゼロ状態でも、我々の暮らしは続いているじゃないか。「電力不足」と電力会社も日本政府も声を枯らすが、記録的猛暑といわれた今夏も電力不足は起きなかったし、なぜか電力各社も具体的な「節電目標」を提示しなかった。
 このままでいいんじゃないかと、僕は思う。停止させたまま、廃炉の道を探る。それしか我々に道はない。
 僕は、強くそう思う。

 

  

※コメントは承認制です。
151 台風と原発」 に1件のコメント

  1. 原発汚染水は確かに大変な問題なんだけど、今状況的にここでは、憲法第九条の精神に基づいて「世界平和」について語るべきなのでは?巻頭の芳地隆之さんにしても状況分析してるだけでさ、はっきりした主張してないじゃん。マガジン9って名乗ってる以上、それはマズいんじゃないかと。「平和」と「戦争反対」が本業でしょう。そうそうそれからデモ情報も原発ばかりになっちゃってるし、あそこも3回に1回ぐらいは「戦争反対」関係のデモが入ってもいい気がするな〜。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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