時々お散歩日記

 連休も終わった。僕は、ふたつの集会と会議と、金曜国会前抗議に参加しただけで、遠くへは出かけなかった。どこへ行っても人の波。集会やデモにたくさんの人が集まるのは嬉しいけれど、行楽地での人混みは苦手だ。だから、家の近所のお散歩…。
 地元のお祭り(くらやみ祭り)も、凄い人出。特に5日の御輿渡御(みこしとぎょ)は、毎年、歩けないほどのすごい混雑。それを避け、前日の4日にちょっとだけ祭りの雰囲気を楽しんできた。たくさんの屋台、恒例のお化け屋敷もあったよ。
 こんなふうに流れている人の世は、なかなか面白い。和やかに、緩やかに、そして楽しく…。
 だけど、もう一方の世の中は、なんだか薄暗くキナ臭い。

 本気で呆れてしまうのが、安倍晋三首相の外遊。
 (僕は、野田佳彦前首相が大飯原発再稼働宣言をしたときに、怒りのあまり、個人的に”野田呼び捨て宣言”をしてしまった。以来、このコラムとツイッター等では、少し品がないとは思ったけれど、ずっと”野田”と呼び捨てで通してきた。だが、比べてみるとまだ野田前首相のほうがカワイかったかも知れない。それほどに、安倍首相のやり口はひどすぎる。だから僕は、またも「呼び捨て宣言」をせざるを得なくなった。下品だとは思うが、これ以降”安倍”と呼び捨てにする)

 で、安倍の外遊だ。
 ここまで財界べったりの首相ってのも珍しい。いや、首相だけじゃない。内閣そのものが、まるで金持ち旦那にいいように使われるだけのパシリ集団じゃないか。
 東京新聞(5月4日付)が、こんな記事を書いていた。

反省なき原発輸出行脚
「政官業」タッグ復活
「事故経験し安全技術向上」首相強弁

 三日までの中東訪問で安倍晋三首相は日本の原発を各国に売り込んだ。外遊には原発企業のトップらも同行。国内では東京電力福島第一原発事故の影響で十六万人が故郷に戻れず、脱原発を望む世論が強い。しかし、安倍政権は世論に背を向けて、過去の自民党政権と同じ「政官業」による原発推進路線を海外で復活させた。(略)
 首相は三日、アンカラでの記者会見で「中東諸国から、日本の最高水準の技術、過酷な事故を経験した中での安全性への高い期待を寄せられた」と発言。日本原発をめぐる虚構の「安全神話」に代わり、「事故を経験したから安全技術が高まった」という理屈で臆面もなく原発輸出を進める考えを示した。
 首相は昨年九月の自民党総裁選で「代替エネルギーを確実にし、原発依存度を減らしていく」と述べた。今では、原発再稼働を進める考えは示しても、原発依存度の低減は口にしなくなった。(略)
 今回の首相の中東訪問には、三菱重工業の宮永俊一社長や原発輸出への融資を検討する政府100%出資の国際協力銀行(JBIC)の奥田碩総裁らが同行。「政官業」でタッグを組み、原発輸出を推進する姿勢を明確にした。(略)

 少々引用が長くなったが、安倍内閣の姿勢がはっきりと出ている記事だと思う。いつの間にか、こっそりと「原発依存度の低減」という自らの約束を捨て去っているのも、ズルイ。
 三菱重工業は、むろん原発メーカーとして有名だし、国際協力銀行は何の制約もなく原発輸出への出資ができる、という意味でかなり問題のある金融機関だといわれている。
 しかも、この国際協力銀行の奥田総裁とは、トヨタ自動車の元社長であり、現在は経団連名誉会長でもある財界のドンなのだ。つまり、安倍は財界と原発産業の大立者を引き連れて(というより彼らの露払いとして)原発輸出の商売に出かけたのだ。
 しかもしかも、安倍は言うに事欠いて「日本の最高水準の技術、過酷な事故を経験した中での安全性への高い期待…」などと、ほとんど普通の感覚の人ならば唖然とするような言葉を吐き散らしたのだ。開いた口が塞がる暇もない。
 福島原発事故は、いつ収束したというのか。いまだに汚染水ひとつ処理できず、海洋投棄すら考えざるを得ないような状況ではないか。ネズミによる停電を繰り返し、メルトダウンした核燃料の冷却すらおぼつかないままだ。
 これを「事故を経験したから安全技術が高まった」だと? ギャグにもならない。東京新聞は安倍を「臆面もなく…」と批判しているが、僕は「恥知らず」という言葉を安倍に進呈したいと思う。
 もし、原発輸出先と目されるトルコやUAE(アラブ首長国連邦)で原発過酷事故が起きたら、いったい誰がどう責任を取るのか。十分な原子力技術者もいない国へ、目先の利益に目がくらみ、安易に原発を輸出していいものなのか。
 しかもトルコは、日本と同じような地震多発国である。福島原発事故の大きな原因のひとつが地震の揺れであった可能性も指摘されているが、その解明もまだなされていない。そんな原発を地震国へ売り込むという神経は凄まじい。
 原発輸出は、数兆円の規模になるという。かつて”エコノミック・アニマル”と、ある種の皮肉や蔑みを込めて日本へ投げつけられた言葉が思い出される。いや、危険極まりない原発を売り込もうとしている分、エコノミック・アニマルより始末が悪い。
 「自虐史観は克服せねばなりません」などと言う安倍だが、むしろ日本への批判のタネを外国へ出かけては撒き散らしているのが、安倍自身ではないか。これ以上の”自虐”はあるか? 口を開けば「国益のため」と言うけれど、国益を損ねているのは自分自身だ、ということに気づかない程度の政治家である。
 原発輸出は安倍内閣の重要政策だ。”アベノミクス”とやらの一環と位置づけているらしい。
 茂木敏充経産相も連休中にブラジルへ出かけ、ロバン鉱業エネルギー相と会談、安倍とまったく同じように「福島原発事故の教訓を生かし、ブラジルの原発計画に協力したい」と述べ、原発受注の前提となる原子力協定の締結交渉に入った。
 ここでも「福島原発事故」を安全性の理由に使っている。
 16万人もの「原発難民」をそのままにし、事故原因の解明さえほとんど手つかずの状態なのに、「世界最高水準の安全性」などと、どの口で言えるのか。僕にはまるで理解できない。
 どうしても原発を輸出したいというのなら、最低限、事故原因の完全な解明が大前提だろう。それもせずに(できるはずもないが)輸出に狂奔するのは、もはや正気の沙汰とは思えない。
 命よりカネ…。こういう連中にぴったりの言葉がある。死の商人である。

 それにしても、最近の政治家たちの”言葉の劣化”には、目を覆いたくなる(耳を塞ぎたくなる)ばかりだ。
 例えば、猪瀬直樹東京都知事の、米紙ニューヨークタイムズでの東京五輪招致についてのインタビューの件。まさにイスラム諸国への差別意識丸出しだった。しかも、イスラム諸国への無理解を指摘されると、すぐに「発言の一部を取り上げられた。ボクの本意ではなく誤解だ」とみっともない弁解を繰り返した。
 発言を批判されたときにダメ政治家どもが使う常套句、「言葉の一部を取り上げられた」「表現不足だった」「本意ではない」「誤解された」等々、まさにパターンどおりの猪瀬都知事の言い訳、いやはや…。
 ニューヨークタイムズ側から「それなら、録音を全部公開してもいい」と反論されると一転、「私の言い方にも言葉が足りない部分があった。発言を撤回してお詫びする」と全面謝罪。アメリカまで恥を掻きに出かけただけ。これで、石原慎太郎前都知事の老残の悲願だった”東京オリンピック”の芽はほとんど枯れちまった。
 ところが、そこで止めておけばいいものを、猪瀬知事、さらに恥の上塗り。自身のツイッターで次のように発言したのだ(4月30日)。

 今回の件で誰が味方か敵か、よくわかったのは収穫でした。またNYTのおかげでこの時期のガイドラインの線引きがわかり貴重な体験となりました。五輪招致、ますますいき盛んんです。(原文のママ)

 こういうのを、汚い表現だが”最後っ屁”という。この人、オリンピックの意義というものをまったく理解していない。
 古代オリンピックでは、たとえ戦火を交えている国同士でも、オリンピック期間中は休戦して平和の方向を探るための祭典とする、というのが黙契だったのだ。それなのに「誰が敵か味方か」などと、むしろ戦いを奨励するような発言をしている。こんな男が首長をしている都市で、「平和の祭典」が開けるものか。
 「作家として言葉を大事にする」が、石原前知事とその一の子分の猪瀬現知事のキャッチフレーズだったはずだ。それがウソだったことが、あっという間にバレちまった。
 石原慎太郎がどんなどぎつい差別発言や暴言を繰り返しても、きちんと批判しなかった(できなかった)マスメディアのだらしなさを傍で見ていて、猪瀬知事も「石原さんはアレだけ凄いことをしゃべっても大丈夫だった。だからオレも言いたいことは言う。なにしろオレには史上最高得票の重みがあるんだから」などと勘違いしたのだろう。
 権力者をのさばらせておくと、こんなひどいことになるという、まさに絵に描いたような実例である。

 麻生副総理の能天気ぶりは今に始まったことではないが、彼の失言も止まらない。東京新聞(5月5日付)によれば、こうだ。

 麻生太郎副総理兼財務相は四日、インドの首都ニューデリーでの講演で「インドは陸上で中国と国境を接し、日本は海上で接触を持っているが、われわれは過去千五百年以上の長きにわたり、中国との関係が極めてスムーズにいったという歴史は過去にない」と発言した。
 沖縄県・尖閣諸島をめぐり日中は対立。アジア開発銀行(ADB)年次総会期間中に開催される予定だった日中韓財務相・中央銀行総裁会議が中止になるなど外交が停滞しており、中国側をさらに刺激しそうだ。(略)

 インドと中国の国境紛争を意識して、インドを持ち上げるためのリップサービスのつもりだったらしい。だが、少しでも日本の歴史を知っていれば、こんな発言になるはずはない。
 中国文化が日本に与えた影響を知らないのだろうか。日本が遣隋使や遣唐使を中国へ送り、進んだ文化を取り入れようと努力し続け、それに対し中国側がさまざまな文物や人物を日本へ提供してきた歴史を…。
 漢字というものは中国から伝わったんだよ、麻生さん。「あ、そうか。あなたは中国と仲良くしたくないから、あんなに漢字を知らなかったんだね…」と、皮肉のひとつも言いたくなる。
 安倍内閣になって、靖国などをめぐって一段と日中関係がぎくしゃくしている時期に、わざわざこんな発言をして相手を刺激する、その意図が分からない。

 政治家失格の政治家たちが、連休中に我々の税金を使って外遊し、やたらと”国益に反する”発言(失言)を重ねて帰ってくる。
 こんな連中が”憲法改正”などと喚いている。
 ほんとうに冗談じゃない、と僕は思う。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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