時々お散歩日記

 「NHKニュース」を見ていて、すごく違和感を持ってしまうことがある。例えば、こんな具合だ。 
 「政府は経済のグローバル化に備えて、平成19年に決めた政令を見直し…」などという言い回しだ。これ、原稿を書いている記者も読んでいるアナウンサーも、おかしいとは思わないのだろうか。僕は、とても奇妙な感じがするのだ。

 “グローバル化”って、世界標準に近づけるって意味だと思う(多分)。そうであるならば、“平成”なんて、日本でしか通用しない年号を使うことと矛盾しないか?

 こんなのも困る。

 「昨夜、俳優の○○さんがお亡くなりになりました。○○さんは大正12年1月生まれで…」などというときだ。さて、大正12年生まれって、じゃあ、いったいいくつなんだ? こんな年齢を瞬時に計算できる人なんて、ほとんどいないだろう。

 これを「1923年1月の生まれで」と言ってくれれば、「ああ、○○さんはもう90歳だったんだ」とすぐ理解できる。こういう場合、他のメディアはさすがに西暦を使う。新聞などは多くが年号と西暦を併用している。読者や視聴者のことを考えたら、それが当たり前だろう。それでもNHKは、頑として西暦を使わない。

 「昭和32年に大流行した××が、なぜか今年、突然再流行の兆しを見せています…」てなこと言われたって、いったい何年前のことだか、少なくとも僕はすぐには分からない。

 さらに困るのは、経済統計などの表を年号で示されたときだ。「昭和52年と平成25年では、こんな違いがあります…」。これを即座に判断できる人はエライッ! 僕は、エラクない。

 繰り返すが、それでもNHKは、頑として西暦を使わない。視聴者のことなんか何も考えていないんだろうな、きっと。じゃあ、誰のために放送しているのか?

 むろん、外国のニュースや出来事を伝える場合は、さすがに西暦を使う。いくらなんでも「イギリスでは平成20年に…」などというわけにもいかないだろうし。しかし、日本のことを報じる場合は100%年号使用だ。ウソだと思うなら、NHKニュース(ニュース以外でもそうだが)を注意深く聞いてみるがいい。

 なぜか? 理由は簡単。政府や官庁が発表する文書や統計のほとんどが、今でも平成(年号)を使用しているからなのだ。つまり、NHKというのは「政府や官庁の発表をそのまま伝えます」という日本の報道機関の悪しき典型的な姿を、現在も堅持しているというわけだ。

 「NHKは政府の広報機関にすぎない」だなどと批判される理由がここにある。 
 そしてもうひとつ、NHKが西暦を使わない理由があるという。

 「NHKは右翼の抗議を恐れているので、西暦を使用できないのです」。数人のジャーナリストから聞いた話だ。

 「NHKは日本の良き伝統と文化を守るのが使命だ。その文化のひとつである年号使用を止めるようなことがあったら、断固として抗議することになる。西暦を使えというのは、日本文化を破壊しようとする左翼の陰謀だ」と、ある右派系人物に言われたことがあるという。

 NHKはそんなことで年号にこだわるのか、とも思うけれど、特に右派系の政治家に弱いのはNHKの体質である。かつて、安倍晋三を含む自民党政治家たちの介入によって、番組を改編させられた…という事件もあったほどだ(注・2001年、NHK・ETV特集『問われる戦時性暴力』番組改変事件)。
 うーむ、こうなると、何がなんだか分からなくなる。右翼は年号が大切で、左翼はそんなもの要らない…というわけ?

 でも、そんな単純なことで「右翼・左翼」を分けられるのだろうか。ところが、実はある種の人たちが、こんな単純な論法を使うのだ。典型例が安倍首相だ。彼の“単純2分法”はひどいものだけれど、以下のケースには怒りを通り越して呆れるしかない。「ITmediaニュース」のネット上の記事だ。

安倍首相、「左翼の人達が演説妨害」
Facebook投稿を削除か


 安倍首相が都議選の応援演説の様子を「聴衆の中に左翼の人達が入って来ていて」などと報告したFacebook投稿が閲覧できない状態になっている。

 安倍晋三首相が6月9日夜、自身のFacebookページに(略)街頭演説の報告を投稿したが、10日朝になってこの投稿は閲覧できない状態になった。ただ、公式Twitterには投稿が残っていたが、10日正午ごろに削除された。
  
 投稿は東京・渋谷での都議選の応援演説についての報告。

 「渋谷には本当に沢山の皆さんが集まって頂き感激しました。聴衆の中に左翼の人達が入って来ていて、マイクと太鼓で憎しみを込めて(笑)がなって一生懸命演説妨害してましたが、かえってみんなファイトが湧いて盛り上がりました。ありがとう。前の方にいた子供に「うるさい」と一喝されてました。立派。彼らは恥ずかしい大人の代表たちでした。」と記した。

 投稿には多くの「いいね!」がついた一方、現地で活動していたのは環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に反対する団体だったという指摘があり、自民党内や同党支持層でも賛否あるTPPの反対派を「左翼の人達」とひとからげにするのは首相としていかがなものかという声も挙がっていた。(略)

「憎しみを込めて(笑)」なんて、余裕を見せたつもりだったろうが、これが(笑)じゃなく、ホントのお笑いになっちゃった。

 「あれ? 間違えちゃったかな、ボク」というわけで、フェイスブックの分はすぐに削除したらしいのだが、公式ツイッターの文章はしばらく残っていて、これがRTで流れ続けてみんなバレちゃったという、お粗末の一席…。

 この人の頭の中は単純ストレートだ。フォークもカーブもない。左翼というのは、すべて「自分に反対する悪い人たち」で「恥ずかしい大人」なのである。

 つまり彼の認識では、「左翼は、自分に反対する人達」なのだったが、これがいつの間にか「自分に反対する人達は、左翼」と、“定義”が逆転してしまっている。TPP反対を叫ぶ人たちを単純に「左翼」と捉えてしまったことが、その証明である。

 こう批判されても、多分この人は「え? 何が逆転してるって?」と、言われていることが分からないだろう。なにしろ、「侵略の定義はいまだ学問的にも定まっていない」などと平気で言う人だから、“定義の意味”も分かるはずがない。

 小泉純一郎元首相は「私に反対するヤツは抵抗勢力」と、政局を単純化して大成功しちゃった。安倍はそれを真似ていい気分になっていたのだが、今回はひどすぎた。さすがに注意する人が周辺にいたのだろう。こっそり削除して知らん顔。

 だが、そうは問屋が卸さない。一旦ネット上に流れたものは、様々な人の手を経て流れ続ける。「ボク、そんなの知らないも~ん」と言ったって、「安倍公式ツイッター」が証拠なのだ。僕だって見たも~ん。
 各社が毎月行う“世論調査”では、安倍内閣はジリジリと支持率を下げ始めた。民主党など他の野党がだらしないし、反自民でまとまる気配もないために、いまだに自民党の支持率は高止まりしているが、何かが起きれば一気に流動化する可能性も含んでいる。

 安倍の“朝令暮改”のひどさが、次第に明らかになりつつある。それが流動化の引き金になるかもしれない。
 例えば安倍は「10年間で平均年収を1人当たり150万円増やします」という“成長戦略第3弾”なるものをぶち上げた。国民はほとんどがアッケに取られた。でも、誰も信じちゃいない。

 この150万円、よく考えるとものすごくおかしい。だって、これはGNP(国民総生産)でもGDP(国内総生産)でもなく、GDI(国民総所得)というまったく聞き慣れない概念からむりやり導き出されたもので、かなりの経済通を自認する人だって「GDIなんて初めて聞いた」と言っているほどの代物。慌てた内閣府が「GDPとGNI(GNP)の違いについて」という文章をHPに掲げて解説している。

 つまり、GDPが国内での総生産を示すのに対し、GDIはそれに企業や個人が海外で得た所得などをも合算した数字だという。海外所得は海外で課税されるので、日本企業の所得が日本へすべてが還流するわけではないし、むろん、儲けた企業がそれを国民へ分配することなどありえない。要するに机上の計算にすぎない。

 だから、これによって「国民1人あたりの所得が年間150万円増える」なんてことは絶対にないのだ。

 もし、あなたが夫婦と子どもふたりの(政府がいうところの)平均家族構成なら、なんと年間に600万円も所得が増える、というバラ色の未来が待っている。信じられます?
 安倍が自分でこんな調子のいい概念を思いついたとは、とても考えられない。誰か(T氏かS氏あたり?)の入れ知恵に違いない。

 「こんな数字もありますよ」と教わって「あ、それいただき」と飛びついただけだろう。

 だが、当然のように批判噴出。すると、すぐに安倍は前言撤回、言い方を微妙に変え始めた。ズルイ! 朝日新聞(9日付)ではこうだ。


 ね、この人、いい加減でしょ? 自分の言ったことに何の責任も取らない。ヤバイとみれば、さっと削除したり言い方をごまかしたり。

 安倍は、こうやって調子のいいことを次々にぶち上げて、なんとなく景気が上向いているようなムード作りには、一旦は成功したように見えた。しかしそれが口先ばかりの机上の空論、砂上の楼閣だということが、次第にバレてきた。

 6月7日に600円以上も急騰した株価が、週が明けると見るも無惨に萎んでしまったのも、それを見越した市場の反応だったのだろう。

 安倍は「株価が多少落ちたことをもって、アベノミクスの失敗だという人がいるが、それは大間違いです。これから景気はどんどんよくなるんです」と主張しているが、さて、ではどんな手があるのか?
 安倍に残された数少ない“手”が「原発輸出」である。アベノミクスとやらの皮が剥げ落ち始めたのに、なんと原発大国のフランスが助っ人役を買って出た。日本国民にすれば、よけいなお世話、いい迷惑。

 ではなぜ、日本とフランスは“原発同盟”を組んだのか?
 アメリカでこのほど、カリフォルニア州サンオノフレ原発の2、3号機の廃炉が決定した。この原子炉の蒸気発生器は、日本の三菱重工が請け負ったものだが、多くの部分で故障や不具合が見つかり、放射能漏れを起こした。

 経営会社の南カリフォルニア・エジソン社(SCE)は「メンテナンスなどには多額の費用がかかり、もはや経営的に成り立たないので廃炉を決定した。我々は三菱重工に対し損害賠償を請求する」との声明を発表、この原発からの撤退を表明した。

 アメリカでは、1979年のスリーマイル島原発事故以来、1基の原発も新設されていない。さらに、現在の米原子力規制委員会(NRC)アリソン・マクファーレン委員長は「使用済み核燃料の最終処分方法が確立されるまで、原発新設は認めない」との立場を表明しており、米国内での原発新設はほぼ絶望的だ。

 アメリカには現在、104基の原発があるが、新規の原発建設がないのだから、既存の原発は次々に老朽化し、廃炉へ追い込まれていく。アメリカは、ドイツとは違った意味で「脱原発」への道を歩みだしているといっていい。

 このため米原発メーカーは、自国ではほぼ立地先を失った。そこで米原発メーカーは、日本の原発企業と組むことで生き延びようと考えた。米2大メーカーのうち、ウェスティングハウス社(WH)は東芝が買い取り、ゼネラル・エレクトリック社(GE)は日立製作所と提携した。つまり、米国の原発政策は世界戦略に日本企業を巧みに組み込むことで成立しているといっていい。

 なお、日本の3大原発メーカーのひとつ三菱重工は、これまでWHと提携していたが、WHが東芝に買収されたことで、仏アレバ社との連携に動いた。

 かくして全世界の原発市場は、フランスと日本、そして日本企業の裏にあるアメリカという3国の思惑で動いている状況だ。

 フランスのオランド大統領が来日、安倍と笑顔で握手していたのは、世界の原発市場をこの3国で独占しようという“日仏米・原発3国同盟”の握手だったのだ。

 世界経済の中でほとんど存在感を失いつつある日本にとって、この原発同盟は「日本ここにあり」を示す、最終最大のチャンスだと、安倍は思ったに違いない。危険など度外視して美味しい話にしがみつく。危ないアベノミクスの本質である。

 「日独伊3国同盟」の悲惨な末路は、歴史が証明している通りだが、今回の3国同盟はどういう末路を辿るのだろう。
 もうひとつ心配なことがある。かつて「3国同盟」を煽り、戦争への道を切り拓いたのは、当時のマスメディア(主に新聞)だったが、あの時と同じように、現在のNHKなどの報道機関がアベノミクス翼賛になってはいないだろうか、ということだ。
 安倍にとっては「原発に反対する人達」はアベノミクスの「原発再稼働や輸出」の敵対者、つまり左翼である。だとすれば、いまだに各種調査で6~7割に達する「脱原発」の人たちは、安倍にとっては、左翼ということになる。

 安倍の、味方(右翼)と敵(左翼)という単純無思考分類法。

 安倍分類では、国会前に集まる人々は(僕も含めて)敵(左翼)なのだろうな、きっと。

 国会前のデモ隊から、期せずして「安倍は辞めろ!」という声が挙がり始めたのは、左翼だからじゃないのだが…。
osannpo右

 

  

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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