時々お散歩日記

 まずは、沖縄県名護市長選での普天間飛行場の辺野古移設に絶対反対の稲嶺進さんの当選、そして、福島県南相馬市で脱原発を主張する桜井勝延さんの当選の報に、久しぶりにホッと嬉しい息を吐く。
 地方からの安倍強権政治への反抗が、現実化しつつある。
 支持率が高止まりしているのをいいことに、数に物を言わせて押しまくる安倍政治手法に、「どうも、なんか違うんじゃないかな?」と首をかしげる人たちが現れ始めたということだ。

 昨年来、自民党の推薦・支持候補が、日本各地のかなり重要な地方首長選挙で連続して敗れている。
 主なもので、青森市長選、名古屋市長選、さいたま市長選、静岡県知事選、横須賀市長選、川崎市長選、福島市長選、そして今回の名護、南相馬と続く。福島県内では、現職首長がほとんど連敗という惨状だが、その中で「反原発」を明確な争点にした桜井さんは当選した。
 アベノミクスとやらの成果を強調し、大企業の業績上昇を褒め上げ、財界に久々のベースアップを要請する安倍内閣だが、逆に地方では円安による値上げのみが目立ち、一般国民の生活はほとんど横這いか下方修正しなければならない有り様だ。大企業が多い都会はいざ知らず、地方にはそうとう不満が鬱積している。そこへ4月からの消費増税が追い打ちをかける。少々の株高景気など、これで吹っ飛ぶかもしれない。
 安倍内閣の行く先は、かなり険しいと見るべきだろう。
 
 その安倍内閣の分水嶺になると思われるのが、23日告示、2月9日に投開票される「東京都知事選」だ。ここで、自民推薦の舛添要一氏が落選すれば、安倍の求心力は一気にしぼむ。安倍暴政を阻止するためには、舛添氏落選が必須だ。だから当然、対抗候補を応援したい。
 しかし、これがものすごく悩ましい。「脱原発」を政策のメインに掲げる有力な候補者がふたりいるからだ。
 ああ、このままでは票が割れてしまう。

 先週の「お散歩日記」で、僕は、脱原発を主張する主要候補の一本化を心から望む、と書いた。ほんとうに、それは心からの願いだった。だが、どうも実現しそうもない………。切ない。
 名護市長選でも南相馬市長選でも、対決の構図は極めて分かりやすかった。名護では米軍基地問題、南相馬では原発問題、いわゆる「シングルイシュー選挙」である。しかも、反基地、脱原発の陣営は一本化されていた。闘い方はシンプルだったわけだ。
 だが、東京都知事選はそうはいかない。今のところ、「脱原発候補の一本化」は、不調に終わりそうだ。

 20日(月)、参議院議員会館で「脱原発都知事を実現する会」が記者会見を開いた。僕も取材に行った。
 この会の共同代表の鎌田慧さんとは長い知り合いだ。鎌田さんの『原発列島を行く』(集英社新書)の編集を担当したという縁もある。その鎌田さんが、つらそうな表情を浮かべながら、脱原発候補一本化ができなかったことをとつとつと話した。そして結論として、「実現する会」は、細川氏支持の勝手連を作って応援することに決めたという。
 政治家は、さして悩みも苦しみもしないくせに「苦渋の決断をせざるを得なかった」などとよく言う。カッコつけんじゃねえよ、と突っ込みたくなる。
 しかし、今回の鎌田さんらの決定は、そんな政治家連中とは違い、そうとうに苦悩に満ちたものだったに違いない。なぜなら、前回の都知事選では先頭に立って宇都宮氏支持を説いて回った方たちだからだ。では、そんな方たちが今回はなぜ、細川氏支持に至ったのか。
 鎌田さんは、東京新聞の「本音のコラム」(21日)にこう書いている。

(略)今回の知事選は原発再稼働と安倍内閣の戦争準備を止めるものだ。「良心」の表明ではなく、「良心」の政治的な達成のための大胆な発想と行動が必要とされている。(略)

 「良心の表明」ではなく「良心の政治的達成」…。とりあえず、僕は頷く。勝たなければ意味がない…ということ。それはその通りだ。
 この記者会見で、同席した広瀬隆さんはこう強調していた。
 「これは、細川対舛添の闘いではなく、細川対安倍の闘いなんです。安倍の戦争への道を断つためには、勝たなければならないんです」と。
 おふたりの言うことは、とても分かりやすい。けれど、僕はやはりちょっと躊躇してしまうのだ。細川さんに関してはともかく、小泉元首相の影が濃すぎる…。
 
 この「マガジン9」が創刊されたのは、2005年3月だった。振り返れば、よく9年間も続いてきたと思う。それはさておき、なぜ創刊が2005年だったのか。
 当時は、小泉政権の絶頂期。そして、有事立法や自衛隊の海外派遣、イラク戦争への加担など、なにやら危ない雰囲気が漂っていたころだ。このまま黙っていていいんだろうか…と、危機感を持った数人が相談して、当時はあまりなかった「ウェブ・マガジン」の創刊をもくろんだ。キナ臭い成り行きにきちんと向き合うことのできるリベラルな言論の場を用意したい。そんな共通の思いからだった。
 だから、僕はむろん「脱原発・反原発」には双手を挙げて大賛成なのだが、小泉元首相の影にはいささか心が萎えるのだ。
 しかし、しかし……。
 安倍政治をこのまま見過ごしておけば、小泉氏の影よりももっと酷いことになりかねない。そう思うから、揺れるんだ。

 僕は前回の都知事選の際は、なんの迷いもなく宇都宮さんを支持したし、若干の運動のお手伝いもした。宇都宮さんの誠実な人柄はよく分かったし、これまでの弁護士としての活動の中身にもほんとうに共感できたのだから、それは当然だった。
 だが、残念なことに、結果は惨敗。
 では、「脱原発都知事を実現する会」の記者会見の場で披露された瀬戸内寂聴さんのメッセージのように「安倍首相の戦争への道を阻止する」ためには、どうすればいいのか。
 筋を通して純化路線で行くか、多少の差異は認めつつ節を曲げてでも現実の暴政阻止に動くか……。悩みは深い。
 そこへ、小さな朗報が入ってきた。南相馬市長選挙で勝った桜井勝延さんが、なんと、宇都宮・細川両陣営の一本化を求めて上京する、というのだ。
 朝日新聞(21日)が報じた。

 「脱原発」を訴えて19日の福島県南相馬市長選で再選された桜井勝延氏は20日、都知事選に立候補を予定している宇都宮健児氏(67)と細川護熙氏(76)の「脱原発候補の一本化」に向け、自らが世話人を務める「脱原発を目指す首長会議」のネットワークを生かして「両陣営を説得していく」と明らかにした。桜井氏は、東京電力福島第一原発の事故の後、早期の原発ゼロをめざし、村上達也・前茨城県東海村長らと会議を結成し、宇都宮氏らとも共闘。細川氏とは同市沿岸に災害がれきを活用した防潮堤を造るプロジェクトで協力してきた。
 桜井氏は「宇都宮氏と細川氏の両方を知る私が『理念を共有するなら妥協は必要』と働きかける。脱原発の国づくりをしていくために、苦しんでいる現場の声を伝えていく」と話し、説得のために近く上京する考えも示した。

 ほんとうに、これを実現させてほしい。
 一本化できれば、必ず勝てる。僕はそう確信する。だから、桜井さんの説得に一縷の望みを託す。
 桜井さんの選挙戦は、自民系候補が分裂したという幸運にも恵まれた。相手が分裂し、こちらが単独なら勝てる。桜井さんはまさにそれを体現した方だ。説得力はある。対抗馬ふたりの合計獲得票は1万6352票、桜井さんは1万7123票。かなり僅差の勝利だった。つまり、まとまれば勝てるが、分裂すれば危うい…ということの証しでもある。その桜井さんが説得にあたるというのだから、望みはあると思う。
 ぜひ、早急に、おふたりとお会いし、最後の説得を試みてほしい。戦争への道を許さないためにも…。

 最近購入した歌集『オレがマリオ』(俵万智、文藝春秋、1250円+税)所収の歌。

チェルノブイリ、スリーマイルに挟まれてフクシマを見る七時のニュース
子を連れて西へ西へと逃げてゆく愚かな母と言うならば言え
漢字練習「家」のページに子は書きぬ「じぶんの家に早くかえりたい」
「オレが今マリオなんだよ」島に来て子はゲーム機に触れなくなりぬ

 「家にかえりたい」男の子が「オレがマリオ」と言えるようになったのは、俵さん親子が石垣島に移住したからだ。同じことを、どの子も言えるようになってほしい。
そのためには、やはり原発を止めることだと、僕は思うんだ。

 

  

※コメントは承認制です。
166 東京都知事選の悩み…」 に3件のコメント

  1. 鈴木さんの悩みは多くの脱原発を思う人たちに共通するものではないでしょうか。そして、お互いの欠点、短所をつつきあう姿にため息をついているのではないでしょうか。
    敵は舛添さんのはずなのに。

  2. うまれつきおうな より:

    他の執筆者より現実と願望の区別がついている感じがして一番納得ができる意見だと思う。そりゃあ反保守なら誰も危険人物より平和主義者、ダーティよりクリーン、シングルイシューより視野の広い人がいいに決まっているし、小泉氏への恨みも忘れてないだろうし、現実に竿さしてダメになった社会党や民主党の教訓もあるだろう。が、言ってはなんだがあれこれと条件をつけられるのは強者だけではないか?候補者を一本化してさえ連戦連敗のリベラル側が「脱原発で福祉に熱心でお金にきれいで」など条件を並べたてるのは、例えは悪いが一度もモテたこともない女が「年収600万以上で家事を分担してくれてハゲ家系じゃなくて腹筋割れててイケメンの人」とか言ってるようで読んでてゲンナリしてしまう。まして人気投票が気に食わないから、と不利な行動をとるのは<現状を憂いているから説教で解決しよう>という保守老人と大差ない。大事なのは誰が性格よくて最良か、ではなくて<性格良ければいい、そんなのウソだと>ほとんどの人が思っていると知ってるかとDV男、ギャンブル男
    (アベノミクスや原発などバクチとしか思えない)は絶対ダメということだろう。ハゲはカツラを買えばいいし腹筋は運動すればいいし裏切りを恐れるなら出刃包丁でも砥いでおけばいい。小泉氏が許せないなら「罪滅ぼしに死ぬまで脱原発のために働け!」と言えばいい。ただ、弱者にはチャンスは何度もないことと、この国の人は忘れっぽいことは計算しておいたほうがいいと思う。

  3. 東京都知事選でまずいと思うのが反安倍票が細川候補と宇都宮候補に分かれてその結果舛添が当選みたいなことにならないかってこと
    どうやったらこの反安倍票をまとめることができるのかかが争点になりそうだな

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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