会員制市民ネット「デモクラTV」では「沖縄タイムス・新沖縄通信」という1時間番組を毎月最終月曜日午後8時からオンエアしています(以降はアーカイブでいつでも視聴可能です)。これは「沖縄タイムス」と「デモクラTV」の共同企画で、毎月の沖縄での出来事や、沖縄基地問題などを分かりやすく解説する番組です。さらに「別冊」として、テーマごとに短くまとめた30分間の解説番組を10本制作しました。このコーナーでは、その「別冊」を解説とともにご紹介していきます。
(第7回)
「日米地位協定」の問題点
沖縄で米軍関係者による事件事故が起こると、必ずと言っていいほど「日米地位協定」の改定を求める声が上がります。でも、地位協定の問題は沖縄だけの問題ではありません。基地が過剰に集中するため沖縄の問題と考えられがちですが、地位協定は全国に適用されていますから、身近に起こりうる問題と捉えなければなりません。
地位協定は、国内の米軍基地の施設、区域の使用や米軍人、軍属の待遇などについて定めています。条文を読むと分かりますが、基地の使用方法、管理権などについて米軍にすべてを委ね、返還された場合でも日本が原状回復することになっています。米軍機の運用も日本の航空法を適用しないなど、極めて米側に有利な取り決めになっています。
日本の航空法が適用されないため、普天間飛行場や横田基地などは住宅密集地に置かれ、住宅の真上を飛ぶなどの運用が認められています。米軍が優先的に使う空域や海域も定められており、民間航空の運航や漁業へも少なからず影響を及ぼしています。
米軍関係者が犯罪を起こした時の司法権限についても定めています。米軍が公務中に起こした事件事故であれば、米軍側が軍法会議で裁きます。公務外であれば、日本側が裁きます。
ただし、容疑者の身柄が米軍側にあるときには、日本側が起訴するまで身柄は日本側へ引き渡されません。だから米兵や軍属などの容疑者は、基地に逃げ込んでしまえば、日本の警察は逮捕も取り調べも十分にできず、起訴まで持ち込むことができない事態も起こるのです。
米兵らによる犯罪が多発する沖縄では、この協定こそが米兵の犯罪による悲劇が繰り返される遠因となっているとの考えが浸透しています。米兵らは罪を犯しても基地内に逃げのびれば大丈夫だと思い、遵法意識が低くなるのだと思われているのです。復帰後だけでも約9千件の米軍関係の犯罪が起こり、殺人や強姦などの凶悪犯罪が574件もあるという事実があるので、そう考えることも理解ができるでしょう。
要するに、犯罪の取り扱いにしろ、環境問題、騒音問題、航空・漁業の問題にしろ、日本の主権がへこんでいるという状態なのです。安全保障がいくら大事だといっても、主権がまっとうされていない状況を認めていいのでしょうか。しかも、この「日米地位協定」は、1960年に締結されて1文字も改定されたことがないのです。
沖縄の改定要望に応じて2015年9月、地位協定の運用に関する環境補足協定が結ばれました。環境汚染が発生した場合の対応や文化財調査への対応などが盛り込まれました。
環境面では、調査のための自治体職員の立ち入りやサンプルの提供などについては全て米軍の裁量です。文化財調査は、返還が決まった基地については返還予定日の7カ月前からの立ち入りを認めるというのが主な内容です。しかし、現在返還合意されている基地のほとんどは明確な日にちが決まっておらず、したがってこの補足協定は、現在のところ、何の有効性も持てない状況です。
汚染についても文化財についても、一刻も早く調査し、跡地利用につなげたいのですが、かないません。
最近発覚した基地内や基地から派生する汚染の例をみても、何に汚染され、どの程度深刻なのかまったく分からないのです。文化財調査では、環境補足協定によって、従来はできた調査が拒否されることも頻発しており、むしろ後退したと批判されています。
主権がへこんでいる状況にもかかわらず、地位協定の改定について政府は腰が重いどころか、そのままでいいと考えています。諸外国の地位協定と比べても有利だと現状を肯定しています。
しかし、日本以外の国では、特に冷戦後、米側と粘り強い交渉を経て改定している国もあります。先の大戦で同じ敗戦国だったドイツやイタリアでは、基地管理権を取り戻したり、基地での訓練を許可制にしたりと、さまざまな面で主権を回復する方向で改めています。
何度も言いますが、主権がへこんでいる状況は改めないといけません。できないことではないのです。主権者たる国民が看過していい問題とは到底思えません。
(宮城栄作/沖縄タイムス東京支社編集部長)
日米地位協定については、今年7月に掲載した伊勢崎賢治さんの記事「日米地位協定は『沖縄の問題』ではない。左右の垣根を越えて、抜本的改定に向けた議論を」でも取り上げていますが、この中でも「日米地位協定は特殊で不平等」なものだと述べられています。沖縄だけでなく、国の主権にかかわるこの問題。私たちも改定を求める声をあげるべきではないでしょうか。