会員制市民ネット「デモクラTV」では「沖縄タイムス・新沖縄通信」という1時間番組を毎月最終月曜日午後8時からオンエアしています(以降はアーカイブでいつでも視聴可能です)。これは「沖縄タイムス」と「デモクラTV」の共同企画で、毎月の沖縄での出来事や、沖縄基地問題などを分かりやすく解説する番組です。さらに「別冊」として、テーマごとに短くまとめた30分間の解説番組を10本制作しました。このコーナーでは、その「別冊」を解説とともにご紹介していきます。
(第5回)
海兵隊と抑止力
沖縄に米軍海兵隊がいないと日本の安全が守れない、海兵隊はか弱い日本を守るために沖縄にいるとなんとなく思っていませんか。
そんなことはありません。
当たり前のことですが、米軍は米国の本土防衛を最終目標とする世界戦略に基づいて展開されています。日本防衛を目的として日本に駐留しているのではありません。日本に何かあれば、米軍がすぐに出動し守ってくれると考えるのは、あまりに短絡的です。
外交研究者らが発見した米国の公文書をいくつか紹介します。
「在日米軍は日本本土を防衛するために日本に駐留しているわけではなく、韓国、台湾、東南アジアの戦略的防衛のために駐留している」(1971年)
「在日米軍および基地は日本の防衛に直接関与しない」(1974年)
いずれも国務省や統合参謀本部の文書です。
自分たちの国益に深刻な影響がでると判断しない限り、自国軍を戦わせることはないわけです。自国民のことを考えれば当たり前の考えですし、国家とは冷徹なものです。
日米安保条約でも日米ガイドラインでも、尖閣諸島をはじめ日本の領土の防衛は日本の役割、米軍はこれを支援すると規定しているにすぎません。
新ガイドラインで明らかなのは「日本を守るのは日本であって、在日米軍ではない」という事実です。安保条約の第5条では、米軍の日本防衛を定めているといわれます。「自国の憲法上の規定および手順に従って共通の危険に対処するように行動する」とあるからです。
しかしこれは、読んで分かるように、米軍は出動するかもしれないし、しないかもしれない、そんな曖昧な規定でしかありません。「武力行使」という言葉が入るNATO条約に比べ一段レベルが低く、なによりもどういった状況になれば日本を守るのかという部分が分かりません。直ちに米軍が守ってくれると考えるのは幻想といえます。
よく問題になる尖閣については、2014年に在日米軍司令官が記者会見で、日中が東シナ海で衝突した場合の対処を問われて、次のように発言しています。
「衝突が発生することを望まない。仮に発生した場合、『救助』が我々の最重要な責任だ。米軍が直接介入したら危険なことになる」
中国が尖閣を占領したら?
「そのような事態を発生させないことが重要だ。もし発生したら、まずは早期の日米首脳会談を促す。次に自衛隊の能力を信ずる」
どうでしょうか。米国は、むしろ日本の有事に巻き込まれることを恐れているのです。有事を避けるため、何をしなければならないのかを考えることが大事ですが、今は何も進んでいない、やっていないことが問題なのです。
日本にいる海兵隊は、米国太平洋軍海兵隊第3遠征軍太平洋基地の前方展開部隊として配置されています。
在沖縄の海兵隊の構成、人数、装備から見ても、グアム移転計画などから考えても、沖縄にいる海兵隊は日本の防衛にとっての「抑止力」ではありません。これは多くの軍事、外交の専門家が分析しています。さらに元防衛大臣の森本敏氏も認めているように、軍事的には沖縄に駐留する必然性もありません。そのことに沖縄県民の大半は気づいているのです。だから、辺野古新基地に反対しているのです。
日本の抑止力に寄与しているのは、米空軍や海軍、航空自衛隊です。何度もいいますが、海兵隊では決してありません。空軍については嘉手納基地があります。沖縄の米軍基地の7割を占める海兵隊を沖縄以外に移駐させるプランを冷静かつ論理的に日本側から米国に提言できる、せめて主体性のある国になりたいものです。
(宮城栄作/沖縄タイムス東京支社編集部長)
米軍では、陸・海・空にならんで第4軍とされるのが海兵隊です。普天間飛行場に配備された航空機部隊を運ぶ揚陸艦の母港は沖縄ではなく長崎県佐世保市にあることは、辺野古埋め立てをめぐる裁判でも取り上げられました。1年の半分は沖縄県外で訓練をしており、また米軍再編によって主戦力がグアムへと移転すると言われます。海兵隊は「沖縄に」いる必要があるのか、「抑止力」といえるのか、こうした背景を理解したうえで考える必要があります。