癒しの島・沖縄の深層 記事

 憲法を変えずして、国民の知る権利やメディアの報道・取材の自由を大幅に制限する稀代の悪法が強行採決されようとしている。どの情報が特定秘密なのかも判然とせずに、公開もされない。秘密保護の期間も30年が一挙に60年に延長され、指定期間経過後に公開されるかどうかも曖昧なままである。しかし、巨大政党にすり寄るみんなの党や日本維新の会は与党案より後退した案としか思えない修正協議のみで、採決に参加する方針を決めた。自民、公明の連立与党が衆参両議院で過半数を握っているという数の論理で、日本の将来に大きな禍根を残す特定秘密保護法が成立すれば、間違いなく戦時下なみのファシズム時代への突入である。

 国会での徹底論議を避けて、野党との修正協議を「密室」で決めようとすること自体が、この法案の危険性を十分に証明しているのではないか。安倍政権は何が何でも臨時国会会期中に法案を通過させようとしているが、それは日米軍事同盟の強化、集団的自衛権の行使容認、武器輸出三原則の解除、そして憲法改悪をして国防軍創設…などの戦争準備に向けた体制づくりのためだ。
 その意味では特定秘密保護法は国策としてもウルトラC並みの強力な武器になることを知っている安倍政権の確信犯的な法案である。世論が覚醒しないうちに、急げ急げという拙速なやり方も民意とは真逆で、法案が成立すれば国民の知る権利も報道の自由も市民運動も大きく規制されて、民主主義は確実に形骸化、空洞化の途をたどることになるだろう。

 今回は沖縄の普天間基地、辺野古新基地、名護市長選をめぐる沖縄の動きを取り上げる予定だったが、稀代の悪法「特定秘密保護法」の強行採決が迫っており、その危険な本質についても言及せざるを得なかった。この件では筆者もあちこちのメディアで批判を書いてきたが、マガジン9の読者にもその危険性をぜひ理解してもらいたいという気持ちである。

 で、普天間基地移設問題である。沖縄では普天間基地の代替基地として辺野古新基地建設が1996年から17年間取りざたされてきた。しかし、民主党・鳩山由紀夫内閣の誕生によって、「普天間基地の移設先は最低でも県外」という主張が県内世論の大勢を占めるようになった。仲井真弘多知事も辺野古新基地推進から県外移設に舵を切った。辺野古のある名護市長も「辺野古の海にも陸にもつくらせない」を主張した稲嶺進氏に交代した。そして、来年1月に行われる名護市長選に稲嶺現市長は再出馬を表明。その後、名護市の保守系は辺野古新基地容認派の末松文信県議を市長選候補として発表し、保守対革新の対立選挙になるものと思われていた。そこに割り込む形で立候補を表明したのが前名護市長の島袋吉和氏である。島袋氏は前市長時代から辺野古新基地建設の推進派で、今回も「辺野古基地なくして北部の振興なし」と明言する確信犯的な推進派である。
 保守系二人の候補者が一本化されなければ、保守系候補が共倒れになるとの危機感を持った安倍内閣は菅義偉官房長官、石破茂幹事長を表に立てて、県外移設を主張している自民党沖縄県連と沖縄選出国会議員の切り崩し工作に動き出したのである。このままでは、辺野古新基地建設のための公有水面埋めたての申請に対して仲井真知事が「承認しない」という決断を下す可能性があるためだ。菅官房長官も石破幹事長も、「辺野古移設が出来なければ普天間基地は固定化される」と口をそろえて自民党沖縄県連幹部に対して激しく「恫喝」したのだ。しかし、沖縄県民は、米国の知日派たちでさえ、県民世論を無視して辺野古新基地建設を強行することに異を唱えている事実を知っている。仲井真知事も政府の発言に対して「固定化という発想、言葉が出てくるのは一種の堕落だ」と不快感を示している。
 沖縄の政治は利権絡みもあって複雑だ。県外移設を唱えて当選した島尻安伊子参議院議員と西銘恒三郎衆議院議員は公約を破り、辺野古推進派に転じた。自民党からどういうアメで懐柔されたかは定かでないが、有権者を裏切って公約を撤回した2人の罪は大きい。それだけではない。昨年12月の衆議院選挙で「県外移設」を公約に掲げて当選した国場幸之助、宮崎政久、比嘉奈津美という3人の自民党新人議員に辺野古基地推進への転向を迫り、同調しなければ、自民党を除名するとの意向を示し、恫喝をかけているのである。しかも、西銘議員は、自分のブログで「自分は極めて正直に振る舞っている。ボクは正直だ」と開き直っているのだからタチが悪い。島尻議員も負けてはいない。辺野古移設に関し「難産になるかもしれないが、待望の子供が生まれた時にはみんなでお祝いしてもらえる環境にしていきたい」と語り、地元紙でも問題発言として批判されている。
 2人とも以前から個人的に面識があり何回か話もしてきたが、公約を破り政権に媚び諂う姿は想定外だった。永田町や自民党の体質が人間を豹変させるのかもしれないが、「沖縄はゆすり・たかりの名人」と言ったケビン・メア元在沖縄総領事は「やっぱり沖縄だ」と喜ぶのではないか。そして、2人の次の選挙は危ないだろう。と書いたところへ、先に挙げた自民党選出の3人の国会議員が共に辺野古移設容認の姿勢に転じた。最後まで抵抗した国場幸之助議員も公約は撤回しないと言明したものの、辺野古移設は容認としたのである。これで、自民党選出の国会議員5人すべてが辺野古移設容認に転じたのだ。選挙民の意思よりも石破幹事長の締め付けにギブアップしたことになる。

 次は自民党沖縄県連が標的である。すでに強い圧力を受け、厳しい判断を迫られている状況だ。仲井真知事も辺野古埋め立てに関しては「承認する、承認しない、その中間もある」と微妙に発言を修正している。名護市市長選の末松文信候補も「仲井真知事が埋め立てを容認すれば、それを支持する」とも表明しているが、まだ移設容認派一本化への道筋は不透明だ。名護市長選挙に向けて沖縄政界は自民党の水面下の圧力で、辺野古移設への路線転換の嵐が吹き始めた。一体、どういうことなのだ。特定秘密保護法同様に安倍政権の強行突破作戦の本質が見えてきた。

 

  

※コメントは承認制です。
オカドメノートNo.132特定秘密保護法同様に強行突破か? 沖縄基地移設問題」 に4件のコメント

  1. magazine9 より:

    辺野古の埋め立てについては、沖縄防衛局が今年3月、基地建設に反対する住民らの監視の目を盗むようにして、県に埋め立て申請を出しました。仲井真知事はその可否判断の時期を「今年末から来年明け」としてきており、なんとしてでも埋め立てを進めたい現政権には、焦りもあるのかもしれません。それにしても、まさに「恫喝」としか言いようのないやり口を、こうまで堂々とやるものかと、唖然としてしまいます(さらに言うなら、「普天間固定化を防ぐために辺野古移転」の言葉は、沖縄県民全体に対する恫喝としか思えません)。

  2. ピースメーカー より:

    ごく最近の事件を例示しますが、中国が先週末に尖閣諸島上空周辺を含む東シナ海に防空識別圏を設定するという、日本を含む近隣諸国への「恫喝」に対して、どのように対応して問題を解決すべきかということに明確に返答できない限り、如何に安倍政権の政策が「恫喝」だと批判しても、根本的な解決には結びつかないでしょう。
    自民党沖縄第2区の宮崎政久衆議院議員は会見で「状況が変化」したと釈明し、琉球新報は社説で「だが『変化』したのは党本部の圧力の度合いと宮崎氏の意思だけだ。」と批判しましたが、宮崎議員が述べた通り、たしかに中国の対日政策は悪い方向に変化しつづけ、歯止めがまったく効きません。
    「恫喝」に対して真正面から反撃するにしろ、平和的に解決するにしろ、早急に在日米軍基地の存在理由となっている問題を真剣に取り組まなければ、いずれ「普天間固定化を防ぐために辺野古移転」は強行されるでしょう。
    しかしながら、岡留さんも、マガジン9の他の執筆者も、沖縄の地方紙も、この問題を中国の外交政策とリンクさせて考えることを全く放棄して、いつものおなじみの批判に終始しているようにしか思えません。
    さらに言うならば、「危険!危険!」と特定秘密保護法にはあれだけ批判を展開しておきながら、それ以上の情報統制国家である中国に対して、なんら危機感を表さないリベラルな知識人の有様を見て、「特定秘密保護法とはホントに危険なシロモノなのか?」と、いささか疑問に思う日本の一般市民は私だけではないかもしれません。

  3. ピースメーカー より:

    先日、「しかしながら、岡留さんも、マガジン9の他の執筆者も、沖縄の地方紙も、この問題を中国の外交政策とリンクさせて考えることを全く放棄して、いつものおなじみの批判に終始している」と批判的な投稿をしましたが、天木直人氏の、『防空識別圏問題をめぐる中国の正論と限界』という評論が面白かったので紹介させて頂きます。

    ”そもそも防空識別圏は米国が考え出したものである。それを日本政府関係者も認めている(11月28日毎日新聞)。なぜ領空の外側の公共の空に広範囲の防空識別圏を設置し識別機を飛ばしたり軍事演習を行なわなければいけないのか。戦争の危機につながるそのような防空識別圏をなぜ1969年に日本政府は設置したのか。
    しかも閣議を経た政府の決定や、国会承認を得た法律ではなく、防衛庁の内部規則に過ぎない一片の訓令で米国から引き継いだのか。その事実や経緯を日本のメディアや国民はどこまで知っていたというのか。突如として中国側からつきつけられた今度の防空識別圏問題で我々が真っ先に問うべきはこのことである。
    しかしこの事について疑問を呈するメディアや有識者は皆無だ。政府も有識者もメディアも中国に対する批判と警戒一色だ。中国国防省の報道官が語ったという。この問題で日米が口を挟む筋合いはないと。 日本が防空識別圏の撤回を求めるなら、まず日本が44年前に設定した防空識別圏を撤回してほしいと。(続く)”

  4. ピースメーカー より:

    ”(続き) これは正論ではないのか。 「日米は何をやっても正しく、そして許されるが、中国が同じようなことをするのは認めない」というのであればともかく、この中国の反論に日米両政府は説得力のある反論ができるのか。出来ないからこそ中国批判を高めるのだ。日米結束の重要性を強調するのだ。
    しかし中国はこう付加えた。日本が撤回するのであれば、44年間経った後で中国も撤回を検討すると。これには苦笑せざるを得なかった。こういう発言を行なうから中国は駄目なのだ。これが中国の限界である。私がCCTVで中国側ももっと自制的にならなければいけないと語ったのはそういう意味である。(了)”

    ここで天木氏がおっしゃられる「中国の限界」とは、詳細に言えば「中国も米国と同様の覇権主義国家であることによる限界」となるでしょう。
    結局、中国の覇権主義的外交政策を転換させる手段を考え出し、実行し、成功を収めない限り、東アジア諸国による平和的な共同体の構築は、夢のまた夢でしょう。

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岡留安則

おかどめ やすのり:1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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