癒しの島・沖縄の深層 記事

 沖縄地元紙の「琉球新報」(9月25日号)の一面トップ記事が、高レベルの放射性廃棄物の最終処分場を八重山の離島の地中深くに埋めるための検討が行われた事実をスクープしていた。核燃料のサイクルの商業利用を目的に設立された日本原燃サービス(現日本原燃、青森県六ヶ所村)で当時常任顧問だった故・井上幸夫沖縄開発事務次官が1980年、放射性廃棄物最終処分場を八重山の離島に造りたいと沖縄を調査訪問していたのだという。井上氏は沖縄県の大城盛三県参事監を訪れ、「八重山の離島にプルトニウムを廃棄する最終処分場を造ろうと思い、場所を探しに行ったが、あまり思わしくなかった」などと語っていたという。離島の名前も明らかにせず、当時の資料も残っていないというが、証言の信ぴょう性は高そうだ。

 青森県六ヶ所村では、高レベルの放射性廃棄物質がガラス固体化され、日本原燃の施設内で長期保存されており、さらに原発敷地内の貯蔵プールにも放射性廃棄物が放置されたままで最終処分のメドはまったくついていない。仮に、多重のバリアーを施して地層に深く埋めたとしても放射能が地下水に漏れ出す可能性があり、地震や火山活動への対応は不十分とされており、最終的な処分方法はいまだに確立されていない。にもかかわらず、全国54基の原発で高レベルの放射性廃棄物が排出されているのが現実なのだ。プルトニウムは核兵器にも転用可能であり、日本原燃はこの最終処分先を全国の市町村に公募しているものの、こんな危険な廃棄物に手をあげる自治体はなく、モンゴルの砂漠に埋める計画も浮上している。表向きになっていないが、おそらく八重山の離島以外にも持ちかけた可能性もあるはずだ。

 今回の琉球新報のスクープに関しても、情報隠しはお家芸の日本原燃は否定するだろうが、原発建設も過疎の村に札びらでホッペを叩く作戦だし、米軍の辺野古新基地建設も全く同じ構図だ。福島第一原発のチェルノブイリを超える原発事故が起きても、「原発利益共同体」の推進グループはいまだにこの過疎地をターゲットにした札束攻略が功を奏すると思い込んでいるのだろう。つい先日も、山口県上関町では、原発誘致派の町長が反対派を破り三選を果たした。その反面、浜岡原発から10キロ圏内にある牧之原市議会では原発永久停止の決議がなされた。地方によってこうしたばらつきが出るのはなぜなのか。

 それは、民主党の方針がブレて不明確なせいでもある。三人目の民主党総理に選ばれた野田総理は就任早々脱原発路線を大きく修正した。国策である原発に対して、明確な方針を示すことは政権党の責任である。しかし、野田総理が国連演説で「日本の原発の安全性を世界最高水準に高める」と発言し、今後とも原発の海外輸出を進めると宣言した。脱原発を捨てて、原発推進に舵を切ったも同然の言いぐさである。野田内閣の政調会長をつとめる前原氏も早期の原発再稼働をたきつけている中心人物だ。政調副会長の仙谷由人はもともと原発海外輸出派である。野田内閣は前総理の菅直人と違って、再生ネルギーへの転換に主力を置く脱原発路線ではなく、「当面は」とゴマカシつつ原発をさらに推進する魂胆のようだ。その背景には野田政権を支える財務官僚を中心とした霞ヶ関や、財界、「原発利益共同体」、メディアの後押しがあるためだろう。原発なくしては国力も経済力も衰退していくという虚妄の論理だ。それだけではない。オバマ大統領との会談で、「日米関係は基軸」とゴマをすったものの、日米合意=辺野古新基地建設やTPP参加を強く要請された。当然、原発推進の米国が、日本政府が原発推進の看板を下ろすことに同意するはずがない。

 菅総理が、あまりにも凄まじいバッシングに対し感情的に開き直って、脱原発と再生エネルギー法の成立に政治生命を賭け、場合によっては脱原発で国民の信を問う解散総選挙に踏み切る意向を匂わせたのは正解だったというべきかもしれない。いまだに福島第一原発の収拾の先行きは見えない中で、原発再稼働や原発推進を打ち出した野田政権の本音はもはや明らかだ。普天間基地問題にしても、辺野古に代替施設をつくる案に早急にメドをつけるべきと米国政府に迫られた。そのため、野田総理は早急な沖縄訪問の調整を進めている。しかし、沖縄県の仲井真知事は、辺野古は無理として県外移設に踏み切るように強く要請している。それも、野田総理や玄葉外相が訪米した同時期に、仲井真知事は米国の大学の講演で述べたのだ。最近は米国議会においても辺野古新基地建設は見直すべきとの意見が多い。オバマ大統領やクリントン国務長官もそうした米国議会の動きに警戒感を示しており、ぐずぐずしている日本政府に苛立ちを発したものと思われる。

 しかし、これまでも総理や関係閣僚が沖縄を度々訪問して、日米合意通りの辺野古新基地建設を要請したが、仲井真知事の姿勢はいささかもぶれていない。野田総理が沖縄を訪問しても、県民は怒りの抗議行動で迎えるに違いない。民主党三人目の総理が誕生しても沖縄県民に受け入れられる可能性はゼロである。ただ一つの危惧は、沖縄県が求めている一括交付金3000億円を野田内閣が辺野古新基地建設にリンクさせる形で取引を求めてきた時だ。沖縄側もそのアメとムチという従来の政府のやり口に対して、沖縄県として大きな覚悟が試されるはずだ。

 それにしても、天下り禁止や公務員制度改革の急先鋒だった改革派の経産官僚・古賀茂明氏を枝野大臣が首を切ったり、民主党野田政権もえげつない。政治主導の心意気など今やすっかり影を潜めてしまった。

 

  

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オカドメノートNo.118政財界の「原発なくして国力も経済力も衰退」という虚妄の論理を、
原発推進の米国も後押し
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    かつて辺野古基地容認の立場を取っていた仲井真知事ですが、
    中央政府の度重なる要請にも、
    今のところ「県内移転は無理」の姿勢に変化は見られないよう。
    それを支えているのが、沖縄の人々の強い意志であることは言うまでもありません。
    基地問題にも原発にも共通する「アメとムチ」の構図が、
    これ以上続くことがあってはならない、と強く思います。

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岡留安則

おかどめ やすのり:1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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