東日本大震災から半年以上が経過しても、福島原発事故の収拾のメドがまったくつかない。瓦礫や放射能に汚染された土砂などの除染も中間処理の一時的な置き場すら確保できていない。まして、除染してもセシウムなどの半永久的な放射線物質をどう処理するかの具体的な計画も立っていない。政府は避難区域、計画的避難区域の解除を打ち出したものの、住民が元のような生活にもどるにはまだ気の遠くなるような時間の経過を要するのではないか。まさかとは思ったが、琉球大学機器分析支援センターの調査によると、福島原発から放射性物質のヨウ素やセシウムが気流に乗って沖縄にまで到着していたことも判明した。3・11の原発事故後の3月25日から一か月にわたり沖縄に到着していたという。同センターによると、最高値は4月6日にセシウム137が一立方㍍あたり1.57ミリベクレルを記録したという。「到達量は微量なので人体に影響はない」との事だが、放射線が日本の辺境・沖縄だけではなく、韓国、ロシアなどの海外までまき散らされている可能性も高い。安全神話をばら撒いてきた東京電力や経済産業省、原発企業や御用評論家の罪は大きい。
沖縄には放射線だけでなく、霞が関からの「汚染物質」もストレートに届く。いうまでもなく、普天間基地の代替施設としての辺野古新基地建設だ。在日米軍基地の74%が集中する沖縄に新たな米軍基地をつくるというのは常識的にはありえない話だ。県知事以下、沖縄県民の8割の人たちは「ノーモア、米軍基地」である。きれいな海を埋め立てて、滑走路をつくり、欠陥機との見方も根強いオスプレイを配備しようというのだから、あまりにも傲慢不遜なやり口だ。総理に就任した野田佳彦氏が、オバマ大統領と会談した際、辺野古新基地の建設促進を促された。それを受けて、対米従属の政治家と霞が関は大慌てである。これまでも菅総理や関係閣僚が幾度となく沖縄を訪問し、仲井真知事に新基地建設を要請したが、知事の意見は「辺野古は無理なので県外移設を検討して欲しい」というもの。知事のこの意見は二期目になってからはいささかもブレていない。
にもかかわらず、野田新総理は先発隊として斎藤勁官房副長官を送り込んで、辺野古新基地建設に同意を求めた。斎藤氏は以前から度々沖縄を訪れており、民主党本部とは違って、普天間基地の「県外・国外」移設を主張してきた人物だ。民主党沖縄県連の相談役も務めており、前回の県知事選ではグアム移転派の伊波洋一候補を応援しようとして、岡田前幹事長に恫喝をかけられたこともある信念の人。しかし、今回は野田内閣の官房副長官に就任したことで、日米合意=辺野古新基地建設に方向転換したのだ。見事なまでの転向だが、政治家の言説がいかに軽いかの証明でもある。斎藤官房副長官は「海にも陸にも基地はつくらせない」と公言している稲嶺名護市長とも会談した。稲嶺氏も辺野古新基地建設に反対してきた斎藤議員だからこそ、面会を了承したのだ。これじゃ、斎藤議員はスパイみたいな役回りではないか。
この斎藤官房副長官に続いて、野田総理は、前原政調会長、北沢前防衛大臣、川端沖縄担当大臣、一川防衛大臣、玄葉外相らを次々と沖縄に送り込む計画を立てている。最後は野田総理大臣自身が乗り込む予定である。しかし、いくら野田政権が民主党の有力議員を送り込んでも、新基地建設を受け入れる可能性は限りなくゼロに近い。ならば、民主党はなぜそこまで執着をみせるのか。一つには米国に対して一生懸命やっていますというアピールもあるのだろうが、今、沖縄側が要求している一括交付金3000億円問題で仲井真知事と政治取引する魂胆かもしれない。
最近の米国議会では、辺野古新基地建設にこだわらない意見が数多く出始めている。グアムへの海兵隊の移設にしても、膨大な軍事費に頭を抱える米国議会は予算の凍結を打ち出している。軍事費削減が至上課題の米国にとって、沖縄の海兵隊に軍事的な重きは置いていないのである。何が何でも辺野古に新基地をつくろうと狙っているのは防衛省や外務省であり、親日家をきどる安保マフィアの連中である。中でも、辺野古に新基地をつくることで最もメリットを甘受できるのは防衛官僚なのだ。沖縄には自衛隊の自前の飛行場がない。現在は、那覇空港と軍民共用のみだ。自前で使える軍事基地は防衛省にとっての悲願なのだ。
防衛省のもう一つの悲願は国境の町・与那国町への陸上自衛隊の駐屯である。尖閣諸島周辺では、中国との緊張が高まる傾向にある。そこに防衛省が目をつけて、与那国町長に経済効果、過疎化対策のアメを投げたのである。その結果、与那国は自衛隊誘致を巡り住民が二分される状況が続いている。防衛省としては、与那国が成功すれば、宮古、石垣にも陸自の派遣を狙っている。韓国と海を隔てて国境のある長崎県の対馬の自衛隊誘致と同じである。しかし、対馬にしても60年代に約7万人いた住民の人口は現在では3万5千人まで減少している。いや、これは、過疎の街に原発を誘致する手口とそっくりではないか。原発再稼働を画策した玄海原発のある玄海町もこのままでは来年度は約44億円の税収が落ち込む予定だという。
今、石垣、与那国、竹富町のある八重山が教科書問題の採択で揺れている。なぜか、石垣、与那国が高校の「公民」の教科書採択において育鵬社に決めたのだ。育鵬社は、「新しい歴史教科書をつくる会」から分離した団体が扶桑社から独立して出した教科書。竹富島だけは東京書籍に決めたため、いまだに分裂状態なのだ。同一地域では同じ教科書を使うという決まりになっているため、文部科学省も頭を抱えているのだ。この背景も興味深い。沖縄的に言えば、教科書問題においては「集団自決」における軍の関与が削除された経緯もある。さらに、石垣市長は革新系の大浜市長を破って当選した、右寄りの思想を持つ人物。市長になってから尖閣諸島に強制上陸したこともある。これも、霞が関、東京方面からの「汚染物質」の一つという事かもしれない。
「過疎の町に原発を誘致する」ことが、
過疎や財政難の問題の根本的解決にはならないことは、
すでにいくつものケースで明らかになりつつあります。
米軍基地や自衛隊基地についても、同じことが言えるはず。
基地や原発に頼らない、違う形の「自立」の模索とその支援が、
いま何よりも必要なのではないでしょうか。