すでにメディア報道でご存じだろうが、民主党閣僚や幹部の沖縄詣でが、激しくなった。ざっとあげただけでも、野田政権の官房副長官の斎藤勁氏を先発隊に、川端達夫沖縄担当大臣、北沢俊美前防衛大臣、一川保夫防衛大臣、玄葉光一郎外務大臣が沖縄を訪問して県知事や自治体関係者との会合をもった。現在は無任所の北沢氏は名護市の辺野古新基地推進派とも密談している。斎藤官房副長官はこの間に二度も訪沖した。この後にも、米国のパネッタ国防長官が訪日し、新基地推進を要請した。最後は前原政調会長や野田総理自身の訪沖も予定されている、まさに、民主党幹部連の総力戦である。
民主党が政権交代してからというもの、鳩山総理が画期的な普天間基地の「県外・国外」移設を主張した。沖縄は、敗戦から米国統治の時代を経て、72年には本土復帰したものの、返還交渉では「米軍による基地の自由使用」が前提とされた。そのおかげで、沖縄県民には軍用機の墜落や事故、米兵による少女暴行事件や強盗や交通事故などを含め、米兵による数多くの犯罪という災難がふりかかってきた。極東一の米軍基地・嘉手納から戦闘機が離発着する騒音は周辺住民の安眠を妨げるだけでなく、精神に異常をきたす住民が出たほどだった。F15戦闘機などの爆音は実際に聞いてみないと実感がないかもしれないが、凄まじいものがある。最近も嘉手納周辺に住む住民約2千人による騒音公害阻止反対の集団訴訟が提起されたが、日米両政府の根幹にかかわる裁判だけに判決の行方は予断を許さない。
にもかかわらず、鳩山総理は最終的には官僚や閣僚の妨害で「最低でも県外」という公約を撤回して、日米合意=辺野古新基地建設路線に転換した。後を継いだ菅総理や野田総理は最初から普天間基地の県外・国外移転の主張は完全無視だった。沖縄県民は鳩山発言で束の間の夢を見たが、その後は奈落の底に突き落とされたみたいなものである。まして、野田政権は完全なる米国追従路線に回帰した。日本の農業を壊滅させる可能性があり、食料自給率のさらなる低下が予想されるTPPに対しても米国の意向を汲みとる方針のようだ。野田総理の政治スタンスからいえば、普天間基地の移設先は辺野古基地しかありえないというドグマに完全に侵されている政治家といっていい。
民主党閣僚や幹部が頻繁に沖縄を訪問しているのは、辺野古新基地建設を米国から強く要求されているためだ。米国議会は米国が抱える巨額の赤字を解消するために、軍事費の削減を要求しており、海兵隊のグアムへの移転費用も凍結される可能性がある。そのためにも辺野古新基地建設が急務なのだ。追い込まれた野田政権は、沖縄県民の総意を無視して、辺野古の環境影響評価の手続きに入ることを通告してきた。
新基地には、それをオスプレイが配備されることになっており、新たな環境アセスが必要だ。政府としては年内に終了して、仲井真知事に報告する腹を決めたのだ。仲井真知事としては、その環境アセスの結果を受けて、回答することになっている。この環境アセスが終了すれば、次は公有水面の埋め立ての許可を仲井真知事に求めることになる。ここで、仲井真知事がすんなりと許可を出すような事態になれば、辺野古の海の埋め立てが始まり、新基地建設が開始されることになる。
現状では、仲井真知事が許可を出す可能性はかなり低いが、沖縄側が要求している一括交付金3000億円というアメを巧妙に利用した政府側の攻勢も予想される。政府としても、あてのない中での環境アセスの通告はしないはずだ。
北沢前防衛大臣は沖縄に来て「何が何でもやり抜く」という挑戦的発言を残していった。北沢の個人的な単なる決意表明ならば、問題はないが、北沢の背後に控える防衛省や日米安保マフィアの意を受けた上での発言ならば、沖縄としても油断大敵だろう。まさかとは思うが、基地反対運動に対して、自衛隊や米軍の戦車などを動員して、国家権力の暴力装置を発動して強行建設となれば、沖縄は再び「コザ暴動」の再来になるかもしれない。米国がそこまでやって新基地をつくりたがっているとは考えにくい。しかし、辺野古新基地をホントに欲しがっているのは、日本の防衛省なのだから、自衛隊を総動員する最終作戦くらいは想定しているのではないか。
しかし、それにしても、新防衛大臣に就任した一川保夫にはがっかりだ。就任早々、「防衛に関しては私より前原誠司(政調会長)が詳しい」「私は防衛に関してはシロウト」発言には仰天した。一国の防衛を仕切る大臣がこのレベルなのだ。しかも、一川氏は輿石幹事長ともども小沢一郎に近いとされてきた人物である。沖縄を訪問して仲井真知事と会談した時にも、隣には前の沖縄防衛局長の真部朗ががっちりと脇を固めていた。なんでだ!! もはや、一川大臣は防衛官僚たちに完全洗脳されたのだろう。
玄葉外相も沖縄に来て、「沖縄の地理的優位性からぜひ新基地建設を」などと寝言を言っていた。沖縄の地理的優位性などという言動は、普天間基地を拠点にする海兵隊の場合には何らの説得性もない。その意味では玄葉も外交に関してはシロウトなのだ。シロウトという言葉じたいは問題ないにしても、大臣がシロウトということになれば、したたかな省益追求派の官僚に手玉に取られることは間違いなしだ。
一川氏を防衛大臣に起用したのも、防衛官僚の立場からいえば、やりたい放題ができるという事ではないのか。民主党が政権交代時の目標に掲げた政治主導という改革路線はますます遠くなっているのが野田政権の実態である。沖縄の不幸は当分続くことだけは間違いないようだ。
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25日、米国防長官と会談した一川保夫防衛大臣は、
環境アセスメントの評価書を年内に沖縄県に提出する方針を説明した、とのこと(時事通信)。
反対する人たちの声は、どこへ?
どちら側を、誰のほうを向いての政治なのか? と、疑問は膨らむばかり。
震災後、基地問題についての報道は激減していますが、
目を離してはいけない問題だ、と改めて思います。