癒しの島・沖縄の深層 記事

 前回のコラムで、米軍属が公務中に日本で起こした事故や事件で過去5年間に軍法会議にかけられたケースはゼロで、不処分が4割だったとの新事実が判明したことを書いた。今年、1月には、沖縄市で、米軍属のラムジー被告が19歳の日本人男性を交通事故で死亡させた事件が不起訴処分になったが、急遽、運転過失致死罪で在宅起訴されることが決まった。沖縄の地元紙2紙が一面トップで大々的に取り上げたこともあって、日米両政府としても反米感情が高まることに配慮した可能性もある。形式上は、遺族側が不起訴不当として再審査を求めた那覇検察審査会が今年の5月に起訴相当と議決したことを受けて再捜査を進めていたためだ。

 この軍属の起訴を受けて、玄葉光一郎外相が二度目の訪沖で、仲井真知事と会談し、その理由を説明した。「こういうケースでは通常『好意的考慮』が払われる」という米国政府のメッセンジャーの役回りだった。交通事故で人を死亡させても罪に問われないという米軍の特権的差別を放任し、米軍側の好意にすがるというわけだ。会談した仲井真知事は玄葉外相に儀礼的な謝意を表明したものの、日米地位協定の改定もあらためて求めた。当然である。運用の改善といっても、米国の胸先三寸で判断がクルクル変わるというのは不可解である。民主党は政権交代前には「日米地位協定の抜本的な見直し」を主張していた。その主張は今や影も形もなくなった。実に不愉快で不誠実な政治家連中だ。玄葉外相は、この軍属の起訴を手土産に辺野古新基地建設の打開を求める腹づもりだったようだが、仲井真知事、経済団体、民主党沖縄県連の会談でも「辺野古は無理」とダメ出しされただけに終わった。TPPでも親米一辺倒の松下政経塾出身の合理主義者・玄葉外相には沖縄県民のホントの気持は理解できず、人間力を試される対米交渉に足るだけの能力はないことが透けて見える。

 おそらく、米国の意向に忠実な野田政権としては、年内に辺野古の環境アセスの手続きを終えて、来年早々には仲井真知事に対して公有水面埋め立ての許可を申請するはずだ。仮に知事が許可に応じなかったら、知事にかわり国が埋め立て許可を出すために掟破りの特措法を持ち出す魂胆だろうと思われる。しかし、今、米国は海兵隊をオーストラリアに常駐させる計画を進めているのだ。

 沖縄タイムスによると、ナイ元国防次官補がニューヨーク・タイムスのネットサイトに、米国海兵隊のオーストラリア配備について、「市街地にある普天間飛行場は米国のより大きな戦略にひびを入れている」と書き、沖縄県民が受け入れがたい現行の辺野古への移設ではなく、制約の多い沖縄よりも訓練や演習が自由にできるオーストラリアが賢明な判断である。これ以上同盟国である日本とのゴタゴタを避けるためにオーストラリア移転を米政府が選択した可能性を示唆したという記事を掲載していた。クリントン国務長官も辺野古一辺倒から微妙にアジア戦略のスタンスを変えている。

 米国議会でも辺野古新基地建設にもグアム移転にも異議をとなえる議員が増えている。それは、米国の財政赤字が膨らんでおり、今後は長期にわたり軍事費の大幅削減が大きな国策となっているからだ。米国がTPPで外貨獲得と雇用の創出を狙っていることは明らかであり、反格差運動がNYで激しく展開されているという危機感と切り離せないはずだ。そうした米国側の事情を日本政府がどこまで把握しているかは疑問だが、外務省も防衛省も辺野古新基地しか想定していないのが実に不可解だ。やはり、辺野古に新基地を一番作りたいのは防衛省であるというのが一番の正解なのだろう。

 それにしても、民主党政権のリーダーシップなき無能ぶりを見ていると、この国の将来はお先真っ暗だ。原発やTPPなどの国策レベルの問題だけではなく、年金支給の年齢引き上げ、年金額じたいの引き下げ、さらに消費税増税で追い打ちをかける民主党政権の弱者切り捨て策には唖然、呆然だ。「国民の生活が第一」を掲げて政権交代を成し遂げた民主党だが、小泉改革による格差社会の進行は米国並みに露骨になってきた。ここ沖縄でもその格差社会の進行は目に余るものがある。いずれも、政治家や官僚の失策が国民におしつけられているだけのことだ。その最大の被害が、福島原発の先行きの見えない前代未聞の大事故であり、いまだに一歩も進まない米軍の基地問題である。

 大阪府知事選と市長選において、維新の会の松井府知事、橋下市長コンビが誕生した。大差をつけての圧勝だった。大阪都構想、職員基本法条例、教育基本条例、関西電力独占対抗策などのスローガンを掲げての勝利だった。が、しかしスローガンじたいを選挙民が支持したというよりも、政治の閉塞感に対する苛立ちや期待感が支持につながったのではないのか。特に平松前市長は民主党、自民党が相乗りし、共産党まで支援に回ったのに、維新の会を支持した無党派層が勝利した形だ。もはや、既得権益にがんじがらめにされている政党には期待が持てないことを、市民も肌で感じているという事ではないのか。相も変らぬ政党の支援や元宝塚スター応援頼みの平松支持派の選挙戦においては、今や妖怪としか思えない野中広務までが応援演説に駆けつけていた。橋下陣営に比べ、選挙のやりかたも古すぎた。政策的にも構造的な問題に関しては何もしない、何も変わらない行政の長よりも捨てバチで改革に取り組むことを明言した橋下徹と維新の会に無党派市民は期待をつないだのではないか。

 東日本大震災では被災者たちの行儀の良さが海外メディアに評価される局面もあった。しかし、原発被災者、沖縄県民を含め、日本人はもっと怒るべきではないのか。22年で原発をすべて廃炉にする方針を打ち出したドイツではフランスで処理された放射性廃棄物のドイツの中間貯蔵施設への列車による移送に反対する1300人規模の激しい阻止闘争が行われた。帝国主義本国の米国・NYでも反格差運動が根強い展開を見せている。ダメな政治家は世界中に存在する。中東・アフリカだけではない。日本でも野田政権が反国民的な売国路線をひた走っている事実から目を背けてはならない時代に、既に突入しているのではないのか。

 

  

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オカドメノートNo.112反国民的な売国路線をひた走る野田政権を注視せよ」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    11月29日には、沖縄防衛局の田中聡局長が、
    辺野古の環境アセス評価書提出時期を明言しない理由について、
    「(犯す前に)これから犯しますよと言いますか」などと発言。
    一川防衛大臣は田中局長の更迭を発表しましたが、
    まさに政府の「本音」が出た発言だったと言えるでしょう。
    辺野古のみならず、沖縄本島北部・高江からも、
    住民の声を無視した米軍施設建設工事強行について、怒りの声が届き続けています。
    やはり、私たちはもっと怒っていいし、怒らなくてはならないのではないでしょうか?

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岡留安則

おかどめ やすのり:1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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